031
「ほな行こか!」
「は、はい!」
私のこちらへ来てから初めての仕事。
ちゃんとこなさなくては…。
「瑠璃、奈子がいれば平気だから。行っておいで」
まさかの子狐丸はお留守番ですか…。まだこっちになれてないのに大丈夫かな。
「九城のお嬢さん、大丈夫か?」
「はい。 瑠璃です私の名前」
「ほな瑠璃ちゃんって呼ぶな。 倉庫に結構な数あるんよ」
どこに行くのかと思ったら以前お邪魔した街の自宅ではなく、むしろうちからのが近い町外れの大きな倉庫。
まるで学校の体育館…。どれだけあるのよ。
「約束やと七つ、使い方を教えてもらう予定なんやけど、大丈夫そ?」
「はいっ! 分からないものもあるかもしれませんが…」
「そん時は別のにするから気にせんでええよ!」
よかった…。うちの押し入れにあったものでさえ、時代が結構バラバラだったから…。
あまり古すぎたりするとわかんないんだよね。
大きな倉庫の引き戸を奈子さんは軽々と開けていく。
「取り敢えずうちが見て欲しいもんをテキトーに出してくるから、そん中からわかるものを選んでもらってもええ?」
「はい、それで大丈夫です」
見える範囲だけでも倉庫にはすごい量の家電やらが山積みになってて、おそらく壊れているものも多そう。
小さな身体に見合わない力で次々と家電を運び出してくる奈子さん。
見た感じ、テレビにオーディオコンポ、電子レンジに掃除機…と私のわかるものが大半。
少し怪しいのはチェーンソーとか電動ドリルみたいな工具。一応わかるけど、私の力で扱えるか?という問題が。
わからないのは、おそらくPCのパーツだろう物。パソコンそのものなら学校でも使ってたし、ある程度扱えても、パーツ単位では無理がある。しかもこういうのって必要なものをきちんと組み上げないと動かないよね…。
「こんなもんか…。わかりそうなもんある?」
「ええ。でもこちらのは部品なので、単体ではどうにもできないですけど…」
「あ〜、やっぱそうなんや。ならそれは省いて頼むわ」
じゃあPCパーツみたいな物は対象外にして…。
「他のものはだいたいわかると思うので、奈子さんが指定して頂いて大丈夫です」
「ほんまか!? せやな…ほなこれは?」
指差したのはかなり大きなテレビ。しかも薄型の新しいものだと思う。
「これはテレビといって…」
リモコンはないけど、一応本体側に主電源とかはあるから、つけるくらいは大丈夫なはず。
簡単に説明をして、リモコンもあると便利だ…と、サイズと見た目を教えたら倉庫に駆け込んでいった。
中で色々と気になる音がしてるけど大丈夫…?絶対なんか崩れたよね?
「大丈夫ですか!?」
「へーきや! 瑠璃ちゃんは危ないから入ったらあかんよ」
「は、はい!」
私には薄暗くて奥の方は見えないし…。
しばらくして蜘蛛の巣まみれになった奈子さんがいくつものリモコンを抱えて出てきた。
どれだけあるの!?
「こんなかにある?」
「待ってくださいね…」
テレビ側のメーカーと照らし合わせたらかなり数は絞られた。エアコンとかコンポ、あとはゲームのコントローラとかも混ざってたから、目的の物を見つけるのは割と楽だった。
絞られたリモコンの一つをテレビに向けて操作。
主電源を入れてたからか、しっかりと電源が入り、少しして画面が映りだした。一発であたり引いたのは流石にびっくりしたけど。
映っている内容を見る限り、現世のもので間違いなさそう。電気どころか地上波も来てるのか…。
「おお、なんやすごいなこれ!」
「リモコンでチャンネルも変えられますし、色々見れると思いますよ」
「ええなぁ、ええなぁこれ! キレイやなぁ」
えらくお気に召したようでなにより。
奈子さんが次々と変えるチャンネルの中に、一瞬時代劇のようなものが映った。大規模な戦の様子で、時代劇でもやってたのかも。
その後、奈子さんが選んだものは、普段から私も見慣れている家電が続き、問題なく説明も完了。
「最後はこれや!」
チェーンソーね…。子供の時に東雲の庭にあった大きな木が切り倒された時に見たから覚えてる。
お気に入りの木だったから悲しかったのもよーく覚えてる。私が気に入ってたから切られたの?って本気で思ったくらい。
「瑠璃ちゃん? わからへんのやったら…」
「大丈夫です。多分源さんのお役に立つものですよ、これは木を切るための道具ですから」
でも巨人の源さんの場合、斧で切ったほうが早そうな気がしないでもない…。
「やっぱそうなんやな! そんな気ぃしてん!」
大きな音がするのを伝え、力のある奈子さんに持ってもらい、エンジンを始動。
ドドド…っとかなり大きな音が。
「喧しいな! これは町なかでは使われへんなぁ…」
「山で大木とかを切り倒すときに使う、位がいいかもしれませんね」
「一番キツイやつやな」
危険性や扱い方を伝えて、手元のスイッチを握りこむ奈子さん。音はさらに大きくなりチェーンが回転。
奈子さんは平気で支えてるけど、私だったら振り回されて自分が怪我していた可能性も…。
すぐにスイッチを切った奈子さんは難しい顔。
「どうされました?」
「ん〜。 煩いし、なんや危なそうな雰囲気がプンプンするんや」
「そうですね…。一つ間違ったら自分や近くにいる人にも怪我させてしまう可能性はあると思います」
「しかもや、うちのはこんなチマチマしたもんよう使わんと思うわ」
確かに源さんの場合、体躯に対してかなり小さくなる。無理するくらいなら体にあったサイズの斧を振ったり、のこぎりを使ったほうが絶対いいと思う。
結局チェーンソーは倉庫に逆戻り。
電動ドリルも源さんには使い勝手が悪いだろうし…。
「あ…いいものありますよ! 源さんの役に立ちそうなのが」
「ほんまに? でも予定の数はもう見てもらったし…」
「最後のは使えないものでしたし、いいじゃないですか」
「ほな、甘えてまうな。 うちのダンナが使えるものならありがたいんよ」
旦那さん思いのいい奥様です。ちょっと憧れるなぁ、旦那様を支える奥様とか…。
って私は何を考えてるの…
「これ、結構サイズあるけど、なんなん?」
「照明ですよ。屋外でも使えますし、家を建てるときにも室内を照らしたりできるんです」
電源を入れるとかなりの光度で照らしてるから、色々と使えそう。
「暗くなると作業止まったりするから…、これは有りやな!」
「倉庫内を照らしたらどれくらい明るいかわかりやすいと思います」
奈子さんは結構なサイズがある設置型の照明を軽々と持ち上げ、倉庫内を照らした。
中にあるものが全部見えるくらいに照らされるのは流石…。
でもまさか車やバイク、あとは絶対ここにあったら駄目なものまで目に入った。
見なかったことにしたい…。
「同じようなんいくつかあったから、これは使えるな!」
喜んでもらえて何よりです。
一応注意事項として、熱を持つのだけは伝えておいた。
木材とか近くに置いてて焦げたりしたら大変だし。最悪火事にもなりかねない。
「うちは暗くても見えるんやけどな…」
「あの、奈子さんって…」
「うちか? うちは元座敷わらしや!」
座敷わらし…。ってあの!?出会ったら幸運になるとか、住んでる家は繁栄するけど、出ていってしまうと没落するとか…。
人生で初めて出逢った座敷童子が人妻でした。なんて誰も信じないだろうなぁ。
しかも元って事は引退済み…。妖怪にも引退とかあるのね。お勉強になります。




