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便利な家電から作り出された夕食は、何故かしっかりと私の食べ慣れた味、つまり私が手作りしたのと同じ味になってた。
ホント意味わかんないけど、便利だからいいや。
これに慣れてしまったら現世に戻った時に困りそうだけどね…。
「瑠璃、それ僕も欲しい…」
「食べられるの!?」
「たぶん。 ほら…瑠璃が…」
そう言って自分の唇に触れる子狐丸。やめて!?その色っぽい仕草! 心臓に悪いから!
たったあれだけの事で?と思わなくもないけど、私にとっては結構勇気のいる行動だった訳だし?
これくらいの変化があっても不思議ではないような…。自意識過剰なような。
火照る顔を見られないようにキッチンへ行き、もう一度オーブンレンジで同じ物を作ってみる。
やっぱりタッチパネルを操作するだけで普通に料理が出来ちゃうな。
今日はこれでいいけど、明日からはもう少しちゃんと私自身の手で調理しよう…。
あっという間に出来上がったブリの照り焼きとホカホカのご飯をよそって子狐丸の前に出してあげた。
本当なら初めて食べてもらう食事はきちんと手作りしたかったけど、そんな私のワガママで待たせてしまいたくはないから…。味付けはちゃんと私が作るのを再現してくれてるし、諦めよう…。
「い、いただきます」
「うん。箸は使える?」
「それは平気」
不思議なものね…。食事は初めてなのに箸は使えるとか。
おそるおそるといった感じに魚をほぐして口に運ぶ子狐丸。
「…美味しい」
「よかった。本当に食べられたんだね」
「うん。これが食事をするって感覚なんだ…」
やっぱりきちんと手作りしたものを食べてほしかったよ…。便利すぎるのも考えものです!
食べられるのがよほど嬉しかったのか子狐丸はアッと言う間にたいらげてしまった。
「足らなかったらまだ作れるけど、どうする?」
「ほしい!」
「少し待っててね」
可愛いなぁ。男の子ってこんなに食べるんだ。
そういえば…今までは誰かに料理をつくってあげたりとかさえしたことが無かったな。
元カレにしても“お弁当を作ってきてほしい”くらいのお願いなら叶えてあげられてたかもしれないのに。
誰もそんなお願いはしてこなかった…。
逆に考えれば、初めて手料理を食べさせてあげるのも子狐丸になったのだから良かったと思う。
野菜類が何もないから、先ずは根菜を柔らかくするっていう調理法でセット。
出来たものを一口大にして鍋で煮込む。
空いたオーブンレンジで次は肉料理にしようと思い、レンジには唐揚げをセット。
その間に家から持ち出してきた料理のさしすせそ…。つまり、砂糖、塩、酢、味噌、醤油。そういった調味料を使って、煮込み野菜の味も整えた。
どこに行くにしても調味料がないと美味しくないと思ってかばんに詰めてきて正解だった。
普段なら時間のかかる根菜たっぷりの汁物も簡単にできるから便利だ…。
少し待たせてしまったけど、完成したものを渡してあげたら喜んで食べてくれてる。
「美味しい?」
「うん! これから毎日作ってくれる?」
「当たり前だよ。少しあちらと家電の使い方が違うから慣れるためにも色々試してみるね」
「ありがとう!」
美形なのに食べてる姿は子供みたいで微笑ましくなる。
これから毎日ちゃんと食べさせてあげなきゃ。
食後、私がお風呂に入っている間、外で見張るって聞かない子狐丸。
確かに屋外から扉一枚で即お風呂なのはどうかなって思うけど、仕方ないよ。あるだけ有り難いんだし。
私と入れ替わるようにお風呂にいった子狐丸はすぐに出てきた。
ちゃんと洗ってるのかと不安になるけど、よく考えたら今まで子狐丸がお風呂に入ったのを見たことがない。
板の間に布団を広げながら、この後の想像をしてしまって…。
どうしよう…。まだそこまでの覚悟はないのに。
でも子狐丸が期待してるのなら…。いや、でも…。
「瑠璃? 布団敷けたから明かり消すよ?」
「ひゃいっ!」
びっくりして変な声出た…。
どうしよう…どうしよう。
そんな私の葛藤を知ってか知らずか、子狐丸は自分の布団に潜りおとなしく眠る体勢。
あれ!?なんか私だけ意識してたみたいになってる…?
ま、まぁ…何もないならそれでいいけどね。
私も自分の布団に潜り込む。
……なんだろうこの肩透かしを食らったというか、ものすごい敗北感は。
いやいや。それじゃあまるで私が期待してたみたいじゃない。違うから!
「瑠璃、起きてる?」
「う、うん。どうしたの?」
「約束、思い出してくれて嬉しかった」
「そっか…。私は同時に、あの時の怖かった思いや、見捨てられたって思った悲しい記憶まで思い出しちゃったけどね…」
「だからあれは!」
「わかってるよ。あの時ほど私も子供じゃないからね。子狐丸に何か事情があったんだろうって事くらい。それにちゃんと戻ってきてくれて、あの後もずっと傍に居てくれたじゃない。それが答えでしょ?」
「うん…」
「子狐丸は約束を覚えてて傍に居てくれた…。あの時から気持ちは変わってないの?」
「当たり前でしょ! 僕は瑠璃にしか興味ないよ」
「そう…。なのに、ごめんね。私はそんな貴方の前で約束を破るような裏切り行為を繰り返してしまって…」
「…それに関しては思い出したくない。瑠璃を取られるのだけは耐えられないから」
「本当にごめんなさい…」
「でも…瑠璃は相手に触れさせさえしなかったから。それはなんか嬉しかった…。心のどこかで約束を覚えててくれるのかな、って」
そう…なのかな。拒否感とか抵抗感が凄かったんだよね…。子狐丸に対しては一切感じないのに。
私が心から求めてる相手は子狐丸だけなのだとしたら…。
「ね、子狐丸。私がどうしてあの時、裏切られたと感じて悲しかったかわかる?」
「僕が戻るのが遅かったからでしょ?」
「ううん。それは違うよ。 本当に信じてたから…大好きだったからだよ」
「…ごめん、瑠璃」
「責めてるわけじゃないの。今はもう理由も知ってるからね。 またやり直そう?あの頃のようになりたいから」
「うん」
「もう子供じゃない私として、今の子狐丸とちゃんと向き合うから。だから子狐丸も遠慮しないで私に直して欲しいところとかあったら言ってね。出来るだけ答えるから」
「わかった。 でも、僕は今みたいに瑠璃がしっかりと僕を見てくれてるだけで嬉しいよ」
そうよね。ずっと一緒にいたんだから、取り繕ってない私のすべてを知ってる訳だし。
外でそんなに猫をかぶっているつもりはないけど、それだって私の主観でしかない。
そういった部分も含めて無防備な状態も全部見てきてるんだから…。
子狐丸の前では常にすっぴんを晒していたようなもので、バッチリメイクをしても今更なんだから…。
「これから改めてよろしくね、子狐丸」
「うん。もう絶対に瑠璃を誰にも渡さないから」
だからね、そういうセリフをさらっと言わないで。胸の奥がきゅーーって苦しくなるし、顔も熱くなるから。
こんな調子で今夜眠れるのかな…。




