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境界の娘 ~人ならざるものと生きていくのも楽じゃないけど、それなりに楽しくやっています~  作者: 狐のボタン


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「立ち話もなんやし、取り敢えずあがりー。茶くらい出したるから」

女の子に招き入れられてお邪魔した引き戸の中は、土間と釜戸式の台所がまず目に入り、その奥には板張りで囲炉裏のある小上がりの計、二部屋だった。昔の長屋ってこんなに狭いんだ…。

私が知ってるのは古都にある奥行きが長ーい町家で、それを想像してたからびっくり。って失礼だよね…。ごめんなさい。


「てきとーに座ってな」

子狐丸と小上がりに座る。女の子は土間にある釜戸で火をおこし始めて…。

お茶をもらうだけなのに、ものすごい手間をかけさせてしまっているのがいたたまれない。

普段、自分が現代の便利さを如何に享受していたかを思い知らされる。


「そんで話ってなんなん? あ、うちでおっぱじめるのだけは堪忍してや?」

「馬鹿な事を言うな。 奈子なら何処か僕らが住めそうなところに当てがない?」

釜戸に竹筒でふぅーふぅーっと風を送って火加減の調整をしている奈子と呼ばれた女の子は、思案顔で振り返った。


「そやなぁ…無いこともないんやけど、あっこは不便なんや」

「と言うと?」

「うちのダンナがな、”あっち“から持ち込まれたもんだけで家を建てるゆうてな。建てたんはええけど、誰も使えへんのや。大半の物が使い方もわからへんしやな…」

この子人妻ですか!?そっちにびっくりです。だってどう見ても私より幼い…。最大限大きく見積もっても中学生くらい。リアル幼妻とか初めて見た。


「それ、逆に僕らには使い勝手いいと思うけど」

「あ、せやな! 九城のお嬢さんもそっちのが楽かもしれへんな! ほなまっとき! 掃除だけ済ましてくるわ」

奈子さんは淹れたてのお茶を出してくれた後、家を出ていってしまった。


「私達が借りる家なのに掃除させちゃっていいの?」

「奈子はそれが仕事だから取り上げたら泣くよ。旦那が大工、奈子が管理とか掃除をしてるんだよ」

「こっちのルールってやつね?」

「そんなとこ」

程よい温度の緑茶は美味しくて、ほっと落ち着く。


ここまでかなり怒涛の展開だったし、思いつきで動いたのも否めない。雑に切ってしまった髪もその一つ…後で整えなきゃ。

今出来ることは…子狐丸と向き合って、さらに自分の家、つまり九城の家の役目についても学ばないと。

その為には安全で、両親とかに邪魔されない場所が必要だったから…。

まさか異世界みたいなところへまで来るとは思っていなかったけど、子狐丸が居てくれるだけで安心しちゃうのは何なのかな。


隣に座る子狐丸…。ようやく大きな姿の子狐丸も直視できるようにはなったけど、恥ずかしいのは変わらない。胸がドキドキするし、目が合うときゅーっと苦しくなる…。

「どうしたの、瑠璃」

急にこっちを向いて微笑まないで…心臓が保たないから!

「え、えっと…ありがとう…。わがまま言ったのに」

「僕は瑠璃のためならどんな事でも叶えてあげるよ」

面と向かってそういうセリフを言えるこの子が私は怖い! 顔から煙が出てるんじゃないかと錯覚するくらい熱くなる。両手で頬を押さえても抑えきれない…。本当に加減して。


「あの…ね? これから私を鍛えてくれる?向こうに帰っても自分で決めた事を自分で貫ける様に。九城の家とも向き合える様に…」

どうやっても避けられないのなら自身の力として使うしか無いのだから。

本当なら意味のわからない家の事に関わるのも避けたいけど、きっとそれは今以上に沢山の人へ迷惑をかける結果にしかならないと思うから…。



「任されたよ。でもあまり思い詰めないでね」

「そうできたらいいけど…」

現在進行形であちらにいる雪乃さんやオーナーに迷惑をかけていると思うと、悠長にはしていられないのよ…。



しばらく子狐丸とお茶を飲みながら話していたら、奈子さんが戻って来た。

「待たせたな。 きれーにしといたから好きに使てええよ」

「ありがとう、助かった。お礼は何がいい?」

「せやな…、やっぱり肉やろか。力つけてもらわんとあかんからな!」

旦那様は大工さんだものね。家を建てるとか言ってたし、確かに体力は必要。


奈子さんに家の場所を聞いた子狐丸に案内され、街の外れにある一軒の家に来た。

近くには小川が流れてて庭も広いし、街からある程度の距離もあるから落ち着ける。

素敵な物件ではないでしょうか!

なんて、住むのは室内なんだから、そっちもしっかりと見ないと駄目だよね。


外観はこちらへ来てから見る建物とさほど変わりない、木造の平屋。

引き戸にはしっかりと鍵もついてて、子狐丸が奈子さんから預かった鍵で解錠。

ガラガラっと開くと、パッと見はさっきお邪魔していた奈子さんの家より広い以外は大きな違いがない。土間があって、小上がりの先は板の間。

おかしいのは土間にめちゃくちゃ見慣れた現代のシンクとガスコンロがある事!

「子狐丸、これはどういう事…?ちょっと意味わかんない」

「さっき奈子が言ってたでしょ。あちらのものを使って建てたって」

なんか言ってた! あの子が人妻だったっていう衝撃ですっ飛んでたよ。


なんの気無しにシンクの蛇口をひねるとジャーっと水が…。赤い方の蛇口はしっかりとお湯もでてくる。

ガスコンロはボロアパートのよりは新しくても、使い方は変わらないから、スイッチを押し込むと、カチカチカチっとなってボッとしっかり火もついた。

水がどこから…とか、ガスは?とか細かいことは気にしたらだめなんだろうなぁ…。

だってしっかりと冷蔵庫もあるし、なんなら電子レンジもある。

コンセントがぷらーんとしてて繋がってないのに動いている時点でツッコミを放棄したよ。


「瑠璃、こっちきて」

私が台所の使い勝手をみていたら、いつの間にか子狐丸がいなくて、外から声が。

なんだろう?と思い、声のした方へ行くと、家とは別に小さな建物が。

あ、これはわかる! 多分トイレだよね。随分大きいけど…。

扉を開けたまま中を覗いてる子狐丸の横から私も覗き込んだら、トイレじゃなくてお風呂だった。しかもシャワー付きの結構キレイなユニットバス。

まさか、と思い蛇口をひねるとこっちもしっかりとお湯が!

私はついに自宅でお風呂を使えるのね…。

「良かったね瑠璃。お風呂好きでしょ?」

「うん! あれ、じゃあトイレは?」

「それはみんな外で穴ほってしてるよ」

「何ですと!?」

何故いつも肝心なものが足らないのか…。まるで私みたいじゃない。って嫌味かそれは!

高度な嫌がらせをしてくれる。


取り敢えずトイレは衛生観念から判断してもないのは困るし、外でとか私には無理…。

子狐丸もわかってるからか、すぐに奈子さんの所へ依頼してくれるそう。



「こっちは基本物々交換で、お金が存在しないから僕は獲物をとってくるね」

「私は…」

「家の中を使いやすいようにしててくれる?これから二人で住むんだから」

「わかったよ」

子狐丸は手を振るとすごい速さで飛んでいった。



子狐丸を見送るまではなんとか平静を保った私すごい。

だってね? ここに二人っきりで住むんだよ?

確かに今までもボロアパートで一緒に住んでたけど、これはわけが違う

だって!! 約束を思い出した上で、新しい土地に移住して新居なんて…こんなの…。

「まるで新婚さんじゃない!!」

はぁはぁ…。叫んだら少し落ち着いた。


ふぅ…。もう少しこういった事に慣れないと。冷静になるためにも何かしよう…。

室内は台所しか見てないし、板の間も確認しなきゃいけない。


靴をぬいで一段上がると、ピカピカの木目が眩しいフローリング。

奈子さんのところとぱっと見て違うのは囲炉裏がないくらいか。

あちらは大きな鍋が上からぶら下がってたけど…、そう思って見上げたら見慣れたペンダントライトがぶら下がってた。

紐を引くと蛍光灯がつく昔ながらのやつ。ボロアパートもこれだったから慣れたもの。

ちゃんと常夜灯までついてるのは親切ね…。


タンスとかも木製のものが据え付けられているし、押し入れにはキレイなお布団もしっかりと仕舞われていた。

意味がわからないのは押し入れの下の段にあるもの。

多分こちらの人が何かわかんなかったんだろうなぁ…。ありとあらゆる家電が放り込まれてた。

それこそ炊飯器だとかトースターとか、コーヒーメーカーとか、大昔のゲーム機みたいなのまで。

使えそうなものは引っ張り出してきて台所へ設置。

やっぱりコンセントが宙ぶらりんなのに動くし…。しかも一番わかんないのが、炊飯器の炊飯ボタンを試しに押したらちゃんと動いて、まさかと思って蓋を開けたらお米が中に入ってるの。

慌てて蓋をしてそのまま炊いてみる。


ご飯が炊けるまでの間に、他の家電も触ってみたけど、コーヒーメーカーも電源を入れるだけでコーヒーができたし、トースターは焼けた音と共にこんがり狐色に焼けたトーストが飛び出てきた。

これ、食費かからないのでは…?


色々と試してみた結果わかったのは、明確にこれを作る! っていう目的で動くものに関しては何も材料がなくても完成品が出てくる。

代わりに鍋みたいなものは火にかけても空焚きにしかならないし、包丁をまな板にトントンやっても野菜は出てこない。

ま、そこまで便利ではないよね。


あれ…? ちょっと待って!

ふっとさっき見たものを思い出して、台所にあったレンジを確認。

やたらこれだけ新しい見た目だったけど…。

スイッチ類の所が液晶パネルになっていて、豊富なメニューがワンタッチで作れる多機能オーブンレンジ!


「例えば焼き魚を選んだら…」

パネルからブリの照り焼きを選んでスタート…。

レンジの中は明かりがついてて中が見えるから一目瞭然。

「あは…あはは…もう何でも作れるよこれ…」

子狐丸にちゃんと手料理を作って、いつか一緒に食べれたらいいな…と思っていたのに!

完全にインスタントか冷凍食品みたいになってます!

いいもん…。一人のうちは活用させてもらうから。いつか子狐丸がちゃんと食べられるようになった時には手作りするんだから!!


ピーピー!


「早くない?」

少し不安になってレンジを開けると、照り焼きのいい香りが。

更に炊飯器も炊き終わったらしい。

蓋を開けるとホカホカでつやつやな真っ白の姫飯が!

もうほんと笑うしかない。
















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