026
子狐丸と向かった先は例の狸幼女さんのいる山。
「この山に隠れるの?」
「正確にはここから更に境界を越えた先に行くよ」
「越えるって…大丈夫なの!? 私人間なんだけど…」
一応多分…。色々と話を聞いた今ではそれすらも怪しく感じるけど。
「九城の当主にあたる瑠璃に歯向かうものなんていないよ。それに僕がいる」
「…そうだね、子狐丸がいてくれるのは安心するよ。 当主がどうのっていうのはまだわからないし、本当はわかりたくもないけど子狐丸と一緒なら大丈夫って思えるよ」
「じゃあ行こうか」
「ちょーーっと待つのじゃ! なんじゃなんじゃ! いい雰囲気でわしに挨拶もせずこの境界を抜けるつもりか!」
「借り。 瑠璃がオマエを運んで雪乃に頼まなかったらどうなってた?」
「うぐっ…。じゃが!!」
「お願いします。ここを通してください。私自身が強くなって、自分で自分の想いを貫けるようになりたいんです。その為には時間が必要なんです」
「……仕方ないのじゃ。そこまで言うて頭を下げられてはわしも義理を通さねばかっこ悪かろう! 行け、こちらの事は任せておけ」
「ありがとうございます!」
良かった。話のわかる狸さんで。
子狐丸が何かつぶやくと、目の前に半透明で揺らめく扉が…。
「行こうか瑠璃」
「うん」
行ってきます、オーナー、雪乃さん。
心配かけちゃうけど許してね、優子、麻衣…。
揺らめく扉は音もなく開くと、私と子狐丸を吸い込むようにして閉じていった。
言い知れぬ恐怖感に目を閉じたけど、手は子狐丸が繋いでてくれたから…。
「瑠璃、もう目を開けていいよ」
子狐丸に言われてそっと目を開けると、そこにはさっきいた山の中と変わらないような木々の森が広がっていた。
唯一違うのは、朽ちていたはずの御社や参道がきれいな姿で存在し、その先には立派な鳥居も見える。
「妖魔界へようこそ、瑠璃」
「ようまかい…? なんか、あちらとあまり変わらないね」
もっとおどろおどろしい雰囲気を想像してたからホッとする。
「山の中はそうかもしれないね。取り敢えず街へ行こう。住む場所も見つけないと」
そっか、こっちで暮らすための拠点がいるよね。
あのボロアパートでも生活してたんだ、野宿とかじゃなきゃ大丈夫…。
「ねぇ子狐丸、歩きながらでいいから教えて? 九城家の持つ力って何?私は何をしたらいいの?」
「大まかに言うなら九城家というのは人ならざるモノから人間界を守り、この妖魔界と人間界、幽世と人間界…つまりあらゆる異界と現世を繋ぐ境界の管理もしていたんだ。昔は境界をこえようとする者が多くてね。それらを追い返したり、時には力でもって制圧してきた」
「大切な家だったって事?」
「だった、ではなく大切な家だよ。現在進行形でね。今、こえようとするものが少ないのは九城の家があるからだよ」
「でも百鬼夜行は…」
「あれは所謂お祭りでね。あの時だけは人間界に遊びに行ける、つまり譲歩した結果なんだ。それでも現世で目にあまるような悪さをすれば消されるし、最悪百鬼夜行そのものが消し飛ばされた事もあった」
それ、オーナーからも聞いたけど、やったの九城家の人間かい!!
「瑠璃の持つ力というのは、僕達が見えるなんてのは序の口。それこそ瑠璃なら百鬼夜行を消し飛ばせる力を秘めてるよ」
「やんないよ! お祭りなんでしょ?邪魔したら可哀相じゃない」
「やっぱり瑠璃は優しいね。 後、わかり易い力というと、ここに来れている事かな」
「私しか来れないの?」
「そう。これは紗千でも不可能だし、瑠璃の祖母でも無理だった。理由はややこしいから省くけど、今は瑠璃だから来られたと思ってくれればいい」
「そう…」
私だから…か。プレッシャーの様に感じてしまうのは、覚悟が足りないからだろうか…。
話しながら歩いているけど、現世と同じような山なのに、あちらと違って神社までの道がしっかりと整備されているから歩きやすくて不便がない。
ちょうど山を降りた所には小さな集落が。
例えるのなら、時代劇にでてきそうな木造の平屋が並んでいる。
「なんか、タイムスリップしたみたい」
「あながち間違っていないよ。こちらは時間の流れが現世と随分違ってね。現世の時代で言うなら戦国時代初期くらいかな」
「戦に巻き込まれるのはやだよ!?」
「無いから安心して。これも九城のお陰なんだけど、妖魔界は現世の世界を写した形になっている。つまり、現世の戦国時代には実際にこの景色が見られたんだよ」
そう聞くと、本当にタイムスリップした気分になる…。
現在はこの辺りも家々の建ち並ぶ住宅街で、コンビニやスーパーなどもある、そこそこ賑わっていたエリアのはず。つい最近通ったから間違いない。
子狐丸曰く、この集落では不便だからもっと大きな町に行くそう。
集落を抜ける時に、たまたま平屋の扉が開いて出てきたのが、頭にちょこんとお皿のある、如何にもカッパって姿の人だった。
びっくりはしたけど怖いとか寒気は感じなかった…。何でだろう。
カッパはこっちを見て頭を下げてくれたから私もお辞儀。
なんか近所の方に挨拶した感覚。
「何も言われないんだね、襲われたりとかも…」
「だから平気だって言ったでしょ。ここへ来れるのなんて九城でも最強クラスだけだからね」
私はなんの力もない唯のJKだよ! 妖怪に唯一対抗できるとしたら雪乃さんにもらったショットガンくらいのもの。だけどこちらの世界にお邪魔している立場の私が使っていいものではないと思う。
集落を抜けた後も長閑な道が続き、しばらくは田んぼと畑しかない景色を眺めて歩いた。
「疲れてない?」
「うん。こちらに来てから疲れたりしないみたい…。ずっと歩いてるのに全然平気」
「現世に慣れている瑠璃にとって時間の流れが違う世界だとそう感じるのかもしれないね」
重力の少ない世界へ行ったら力持ちになる、みたいな感覚か…。
混乱するから深く考えるのを放棄。理解の範疇を超えてるんだもの。
しばらく畦道を歩き続け、ようやく町らしきものが見えてきた。
さっきの集落とは違い、二階建ての建物が並び、広い道沿いにはお店も出てて、色々な姿の人が歩いてる。
妖怪図鑑で見かけるような、いかにもって姿の妖怪もいれば、普通に人の姿をしている人も…。
ここだけ見ると異世界だわ…。…って、異世界であってたわね。
なんておバカなことを考えていたら、子狐丸に手を引かれて路地へ。
人気のない所へ連れ込んで何するの!?なんてわかりきったボケはしない。
だって子狐丸はそんな事しないもの。
路地をしばらく進むと少し開けた場所に出た。
広場の真ん中には共有井戸があって、それを囲むように長屋が並ぶ。
「ここに知り合いが居るから、その人を頼ろう」
「うん、こちらの常識とか何もわからないから任せちゃうね」
子狐丸はニッコリ笑うと一軒の家の扉を叩いた。
「居るか? 子狐丸だけど…ちょっと話があって」
中からトタトタと音がして、間もなく扉を開けて出てきたのは可愛らしい女の子だった。
ふーん…子狐丸ってば、こんな可愛い知り合いいたんだ。へぇ〜…。
「なんや、ホンマに子狐丸やないか! 久しぶりやん。 どないしてん? ってそっちは…まさか九城の!? やっと契ったんか!? そらめでたいな!」
「いや、まだだけど…進展はしてる、と思う」
「…呆れた。何しとんのや。 そこはがーっといっておりゃーっと決めんかい!」
また濃ゆい子が出てきたなぁ……。半分くらい何言ってるかわかんないよ…。




