024
オーナーに事情を説明して、そのまま匿ってもらえる事になった。
話を聞いた雪乃さんが今にも飛び出して行きそうなくらい怒りに震えてるのが恐ろしい…。
「下らん家と金のために実の娘を手にかけるっていうのか! どこまで落ちてやがる東雲は! しかも九城の娘もいるんだろう! どうなってやがる!」
「九城家は格式としてはこの国でも三本の指に入るけど、東雲ほど富豪ではないからね。見栄を張るにも金はいる。しかも自身は正当な当主が持つべき力がないとなれば、瑠璃ちゃんの存在が疎ましくなるのだろう」
だから私にそういう力を持ってるのを認めさせたくなかったんだ…。
表沙汰になれば確実に九城家に知れるし、そうなったら…。
「でもおかしい…。 なぜ突然東雲は瑠璃ちゃんの力が九城に知られたと判断したんだろうな?」
「まさかオマエ、ドジりやがったのか!」
「待ってくれ雪乃! 俺はそんなヘマはしてないぞ!」
何かはしてたのね…。オーナーともちょっとお話をしなきゃいけないかもしれない。
「…なぁ、瑠璃のことを知ってて、多方面に顔が利くやつをオレはひとり知ってるんだが…。しかもそいつが最近ここに顔を出して、瑠璃に執心してるのもな」
「いや、まさか紗千くんがこんなヘマをするか…?」
「恋は盲目つってな、有能なやつでもヘマすんだよ! アイツ、何しやがった!?」
「直ぐに問いただしてくる!」
オーナーは紗千さんに電話すると言ってリビングを出ていった。
「子狐丸、藤崎さんは大丈夫かな…」
「…一応援護は頼んである。裏切らないかの監視だけどね」
「そう…ありがとう子狐丸」
やっぱりなんだかんだと優しいね子狐丸は。
私が幼い時からそうだった…。
一人でいる私と遊んでくれて、閉じ込められた時もなんとか外に出られないかと頑張ってくれてた。
途中から助ける方法を探しに行くと言って出ていったきり戻らなくて…。
見捨てられたと思ったんだ…。 ……そうだよ!
だから私も落ち込んでて、戻ってきた子狐丸と話もしなかった。
あんな約束したくせに見捨てるなんてって…。 ん?…約束……。
「……っ!!」
思い出したっ。子狐丸とした大切な約束…。
「瑠璃?」
「な、何もないですよ?」
「明らかにおかしいよ。どうしたの? もしかして不安?大丈夫。僕が絶対に守るから」
幼い頃の子狐丸が今の子狐丸と重なり、“僕が絶対に守るから”そのセリフの続きがハッキリと脳内で再生された。
“だから僕のお嫁さんになって?“と。私はそれに返事をした。”うん“と。
小さい頃の口約束とはいえ、確かに大切なもの。子狐丸はその時の”守る“という約束をずっと果たそうと傍にいてくれたのだから。
でもだったらどうして子狐丸はあの時戻ってこなかったのだろう。真っ暗で一番怖くて心細かった時に。
ううん、戻っては来たんだよ。私が藤崎さんに助けられた後に。
あの時、私は親に長時間蔵へ閉じ込められたのと、子狐丸に見捨てられた二重のショックで誰も信じられなくて。戻ってきた子狐丸の話を聞こうとしなかった。
両親にも同じ事をしたらまた何度でも閉じ込めると言われたのもあって、完全に心を閉ざしたんだ…。
その結果、子狐丸が毛玉にしか見えなくなり、その時の記憶にも蓋がされ…。
中学では普通になろうと必死だったのは覚えてる。お陰で友達もできたし、今みたいな性格になったけど…。
その友達とも中学を出てからは疎遠になった。当時でもみんなはスマホを持っていたのに私は持ってなかったから連絡先さえ知らないもの…。
…今更だね。
中学の時と違い、今はコチラに優子と麻衣っていう私の秘密を知っても友達でいてくれる人がいるのだから。
でも…私にとって今最大の問題は、子狐丸と交わした約束と、それら全てを忘れていた原因を思い出したって事だ。
子狐丸の態度から約束の内容については大凡の見当がついてはいたけど、あの時私を見捨てた理由は何?
実際は違うと思いたいけど…。聞くのも怖い…。
「瑠璃?」
「なに?」
「なんか冷たくない? 僕なにかした?」
したといえばしたね。
けど、そんな過去の事で怒るのも…。でも約束を先に破ったのは子狐丸だった。
どうしたらいいの…?高校生になった今なら、あの時に子狐丸が私を見捨てたなんて本気で思ってはいない。もし本当に見捨てたのなら戻ってさえ来なかったはずだから。そんなの頭ではわかってる。
でも当時の幼心に裏切られたと思った深い悲しみも同時に思い出してしまったから…。
どんな顔をして子狐丸に向き合えばいいの…。
私はどうしたら…
ガチャっとドアの開いた音にビクッとなり現実に引き戻される。
スマホ片手にリビングに戻ってきたオーナーはヤレヤレといった様子。
「はぁ…。結論としては紗千くんで間違いなかったよ…。一応彼女なりに考えて動いていたようだから責めるに責めにくい状況だ…」
「あのバカッ。 何しやがった!」
「話を聞いてくれ雪乃。しっかりと瑠璃ちゃんの安全も確保できて、紗千くん本人の望みも叶う方法なんだ、これが…」
「聞こうじゃねぇか…内容によっては紗千だろうと容赦しねぇ」
一体何をしたの紗千さんは…。しかも紗千さんの望みが叶うって時点で私にはとんでもない結果だと思うのですが…。
「瑠璃ちゃんの嫁ぎ先な、早乙女神社だ。早乙女側から是非にと東雲に申し入れたらしい。神社ともなれば東雲も九城もおいそれと強硬手段はとれん。ましてやそれが早乙女神社ともなれば尚更だ」
「じゃあ何か?九城家としては当主が因縁深い早乙女と婚姻関係を結ぶ事で両家は手を取り合う形になり安泰、九城本家の血筋も守られる。東雲としても早乙女と繋がり、間に早乙女神社が入れば九城に潰される心配もないと?」
「ああ。まぁ紗千くんは最終的には東雲を完全に潰すつもりのようだけどね」
「ったりめぇだ。オレだってこのままのさばらすつもりはねぇよ。全戦力使って潰してやんよ」
また怖い話してるぅ…。私一人のために何が起こってるの?
そんなに九城家が大切なの?わかんないよ…。
確かに両親も姉も好きじゃない。でも兄様は巻き込みたくない。優しい兄様なんだよ?
「瑠璃は紗千に嫁ぐの…?」
「…わからない。私に選択肢なんてあるのかな? 学校だって選べなかった。住む家さえも。そんな私が嫁ぎ先を選べれると思う…?」
本当なら子狐丸との約束を優先したい。でも…。大きな三家に挟まれた私に何ができるって言うの?
だけど…私の意思で何もできなくなる前にこれだけは知っておきたい。
「ねぇ、なんで子狐丸はあの時私を見捨てたの?」
「…っ! あれは!! 見捨てた訳じゃないって何度も言ったよ! 交渉がうまくいかなくて手間取ってたら時間がかかって…」
「そう…」
その言葉が聞けただけで良かったよ。やっぱり子狐丸は信じてよかったんだ。
なのに…ごめんね。私はそんな子狐丸を裏切った。そしてまた約束を破ることになる…。
「ごめんね。子狐丸…約束、守れそうにないや……っ…ごめん…なさい…」
「瑠璃!! 思い出したんだね?約束!」
せっかく思い出したのに。ごめん…本当にごめんなさい。




