023
「えっと、九城家のメイドさんって事は、お母様についてきた人ですよね?」
「表向きはそうなっております。 ですが、実際は九城家当主様の命により東雲家へ潜入しておりました」
潜入って…。どこのスパイですか。お話でしか見ないような出来事が身近で本当にあるなんて。
「九城家当主って誰ですか? 私、そちらの家の事情とか何も知らないんです」
「当主は瑠璃の祖母だよ。亡くなった今、正式な当主は不在。今は当主の資格を持つ者がいないから。表向きには別の人間が当主代行っていう扱いになっているけどね」
「問題はそこなのです…」
なんとなく察しはついたけど、当主の資格って人ならざるモノが見えるとか、そういったものに関する力を持ってるとかでしょ、どうせ。
子狐丸から聞いた九城家の話と照らし合わせたら答えは自ずとでてくる。
「私は御当主様の命により、東雲家へ嫁がれた真理様の監視、及びお子様がお生まれになられた場合、力を持つかどうかの確認。そして力が発現し次第、保護し九城家へ報告するのが任務でした」
あ、真理っていうのはお母様の名前。
「じゃあなんで瑠璃を守らなかった!!」
「…申し訳ございません。私は真理様の命により瑠璃様を含め、お子様のお世話をすることを禁じられ、監視も厳しく一切の情報も集められず…。恐らく真理様は私の目的を察しておられたのかと」
「でも助けてくれましたよね」
「監視の目をかいくぐり、東雲家のものに見つからぬよう、瑠璃お嬢様に近づくのも至難の業でした…。もし東雲家をクビになってしまっては何も手を打てなくなりますから」
ああ、だから私に冷たかったのか…。もし一人ぼっちだった幼い私がなついて近寄ろうものならバレてしまうものね。
あれ?じゃあ…
「もしかして、私が使えるよう食材とかを置いておいてくれてたのも藤崎さん?」
「はい…それくらいしかお力になれず、申し訳ありませんでした」
「ううん。おかげでご飯は食べられたし、自炊も覚えられたからありがとうございます」
「なんとお優しい…」
優しいのは藤崎さんだよ。こっそりでも手助けしてくれていなかったらどうなっていたか。
「私はお嬢様が家を出られたのも知らされず、何処へ行かれたのかさえ教えていただけませんでした…」
「それでよくここがわかったな。 九城の力を使ったのか?」
「いえ、それは最終手段です。 瑠璃お嬢様の扱いが東雲家で悪化していく理由も何もわからぬまま、メイドの噂では頭の病により気が触れられたとしか分からず…」
そんな扱いだったの?私。 酷い…。実際見えない人にはそうとしか受け取られないのかもだけど、あまりにも酷い。
「瑠璃お嬢様の行方がわからない以上、緊急事態と判断し、真理様に一番近いメイドの一人を捕らえ、すべて吐かせました」
うわぁ…吐かせたとか言ったよこのメイドさん。何したんだろう…。怖くて聞けない…。
「しかし、吐かせるのに時間がかかり…。瑠璃お嬢様の居場所を見つけるのに随分かかってしまいました」
「それで? 裏切り者のお前がそこまでしてここへ来た理由は?」
「はい。力の発現された瑠璃お嬢様は九城家で唯一、正統な次期当主の資格を持つお方です。十六になるまでは正式な届け出はされませんが、それを善しとしない者達が密かに動いております」
ちょーっと待ってね…。次期当主とか全くわかんないし、私の誕生日って来月だよ?急展開が過ぎるでしょう。
「子狐丸。私に当主とか無理だよ…?どうしよう…」
「こればっかりは僕もどうにもできないよ。ただ、今の時代は御上からなにか仕事が来るわけでもなし、普通に今まで通りしてればいいから。古から続く家というのはしきたりだけは細かいんだよ」
「そうなの? なんだ…それなら良かった!」
「いえ、そうも言ってられない事情があるのです! 瑠璃お嬢様が正式な九城家の当主となれば、瑠璃お嬢様へひどい扱いをした東雲家はいくら金をつもうと体裁も保てず、確実に家も潰れます。その為、瑠璃お嬢様が正式な当主となられる前に無理やり嫁がせようと画策しております。その情報をお伝えしたく…」
はい…?私結婚させられるの? やだよそんなの! まだ高校生なのに。なにより今は女性も十八までは結婚できないはずよね?
「あの…結婚したら当主になれなくなるのですか?」
「ええ、形としては他家へ嫁ぐのですから九城の名もそこで捨てることになりますから」
「いや、嫁いだとしても九城の家がほおっておくものか。今や本家が残るのは二家だけなんだ。その中で唯一九城家の正統な当主の資格を持つ瑠璃をみすみす手放すわけがない…なんとしても奪還するはず」
「ですから危ないのです! 東雲家とはいえ、九城家を敵に回すなど不可能。ではどうするか…」
「もしかして原因の私がいなくなればいいと?」
「…はい。嫁がせるとの名目で目の届かぬところで事故に見せかけ亡き者にしようとしても不思議はありません」
確かにやりそう…。東雲家での扱いを考えたら、あり得ないとは言えない。
「ですからここは危のうございます瑠璃お嬢様。潜伏先は用意してございますから、共に…」
「そうやってお前は瑠璃を連れ出して、東雲家に売り渡すつもりか?」
「そんな!! 私は九城家、今は正式な次期当主でもあられる瑠璃お嬢様に仕えるメイドです! 決して裏切るなど!」
「今までのお前を見てて僕が信じると思うか?」
「それは…申し訳ありません…力不足でした…」
「子狐丸…あまり藤崎さんを責めないで。私は助けてもらったよ」
「でも! 僕はまだこいつを信じられない」
「でしたら私の事は信じなくとも構いません! 今は一刻も早く瑠璃お嬢様を安全な場所に匿ってください! 東雲の手がここへ伸びるのも時間の問題です!」
「チッ…。じゃあお前はここで足止めしてみせろ! やり遂げたら信じてやる」
「はい。 瑠璃お嬢様はお任せします…」
「言われなくても」
子狐丸は私に家を出る荷物を用意するよう言うと、窓から外に向かってなにか話してるっぽい。
誰がいるのよ…。怖い事しないで!
「瑠璃お嬢様、お守りできず申し訳ございませんでした。こうしてお会いできて光栄でございました…」
「守ってくれてましたよ。ありがとうございます」
二度と会えないような言い方はやめてほしい…。やっと話せたのに。
「瑠璃、行くよ!」
「う、うん…」
私は子狐丸に抱きかかえられて、窓から外へ。
そのまま向かったのはオーナーのカフェだった…。




