022
お昼休みの大半を生徒会室で潰してしまったけど、教室に戻った後、心配する友達二人に理由を説明。
勿論、手紙の下りは伏せておく…。優子ってこういうの気にするから、わざわざ言う必要なんてない。
私の確認不足ってだけだし、それももうお説教が終わってる。
「密室に三大美少女が集まって何も起きないはずはなく…」
「何もないから。変な事言わないでよ麻衣。先輩に心配してもらっただけだから」
「瑠璃ももう懲りたって言ってんだ、あたし達はまた言い寄ってくるようなのから守ってやればいいだろ」
「だね。もう心配だからボディーガードでもついててほしい…」
頼もしい子がいるよ、子狐丸っていうね。言えないけど…。
二人には一応、私がそういうものが見えるってのは話してあるし、反応も四のパターンだった。つまり、”私は見えないけど、瑠璃に見えるのならいるんだろうね”と。
その上でこうして心配してくれるくらいの大切な友達だから…。いつかは子狐丸の事も話せたらいいけど、私自身がまだしっかりと子狐丸と向き合えていないのに、何を話せるのか?という…。
一度しっかりと話し合わなきゃ…と思いつつ、色々とありすぎて叶わずにいる。
「なぁ、瑠璃…あたし思ったんだけど、この間のおかしな事件ってさ、瑠璃が見えるっていう、そういう奴らが関係してたりするのか?」
「ええっ!? それってつまり、幽霊とかそういう?」
「だって色々とおかしいだろ? 事件を起こした奴らが全員記憶がないとか、普通じゃない」
優子は鋭い…。
「どうなの?瑠璃ちゃん」
「えっと…間違ってないよ。私の見た範囲で事件を起こした人にはもれなく憑いていたから」
「うわぁ…そう聞くと納得。 例のおばさん先生も辞職したらしいよ。まさかあの先生がそんな事するなんて誰も思わなかったもんね」
若い男性教師に迫ったとか言う?確かに立場的に居辛いだろうね…。噂は校内中に広まっているわけだし。
「じゃあそれを解決したやつもいるって事になるよな?まさか瑠璃か!?」
「違う違う。私にはなんの力もないよ」
私には…ね。校内に関してなら確実に子狐丸のおかげでしょうけど。
「あたしもみえるようになんないかなぁ。ぶっ飛ばしてやるのに」
確かに優子ならできそう…。私よりよほど荒ごとに向いてるよ。
「私は見えなくていいかな。絶対怖いじゃん…。リアルホラーでしょ?」
「そうね…全部が全部ではないけど」
私も怖いものは怖いし。できるなら子狐丸や雪乃さん以外は前みたいに毛玉でいてほしいくらいだもの。
放課後、帰り道でまた怖いものを見てしまい、トラウマ気味の私は子狐丸に聞いてみた。
「どうしたら力って使いこなせるの?怖いの見たくないよ…」
「手っ取り早いのと、時間がかかるものがあるけど…」
「絶対、手っ取り早いのは代償があるよね?」
「正解!」
いい笑顔で言わないでほしい…。
「ちなみにどんな代償?」
「瑠璃が今は絶対に取れない方法」
また言い切られた。でも子狐丸が言うならそうなのだろうね。
「じゃあ時間がかかるものって?」
「所謂修行みたいなものだね。どんな力も使いこなして自分のものにしなければ中途半端になる」
「言いたいことはわかるけど、具体的に!」
「たくさん見て、受け入れる事。そういう物が存在するんだと自然に理解できるようになれば」
今までも散々見てるし、受け入れて…はないか。私が今受け入れられてるのは身近な人達だけ…。
先は長そう…。子狐丸とでさえしっかりと向き合えず、忘れたままの約束があるのに。
今日は帰りも早かったから、一度自宅アパートに戻ったのだけど、また階段にみどりさんが…。
あの人、毎回何してるんだろう…。まるで隠れるようにして二階の廊下を覗き込んでるけど。
私の階段を登る音に気がついたみどりさんはビクッとした後、また端に寄ってくれたので、挨拶だけして階段を登る…。
「またうちの前に誰かいるんだけど…」
後ろ姿ではわかんないな。
「…なんでアイツが…」
子狐丸は知っているっぽい上に、余り友好的ではなさそうな雰囲気。
「瑠璃は僕の後ろにいて」
大きくなった子狐丸は私の前に出ると視界を塞ぐ。
見えないと誰かわからないんだけど…。もし私も知っている人なら挨拶したいのに。
「今更何しに来た…! この裏切り者がっ!!」
子狐丸の低く絞り出すような声には明らかな怒気が含まれていて、ビクッとしてしまった。
こんな敵意を子狐丸から感じたことは殆どない。それほどの相手なの?
「ご無沙汰しております…。瑠璃お嬢様、子狐丸様…」
「お前に名前を呼ばれる筋合いはないっ!!」
誰!?見ーえーなーいー!
「子狐丸、誰なの?教えてよ…」
「ただの裏切り者。瑠璃が会う必要はないよ」
「会わなきゃわからないじゃない!」
「瑠璃お嬢様、突然お邪魔して申し訳ありません…。緊急事態でしたので、素性を隠しておくのも限界だと思い、こうしてお伺いした次第にございます」
「どういう事? というか誰なの! 子狐丸、ちょっと退いて!」
私の力では子狐丸を押しのけるなんて不可能だけど、狭い通路から何とか覗き込んで見えた顔は知っている人だった。
私服だから一瞬誰だかわからなかったけど、あの顔は覚えてる。
まだ東雲の家にいた頃、唯一時々面倒を見てくれたメイドさん。寡黙で会話という会話はしたことがないけど、蔵の扉を開けてくれたのもこのメイドさんだった。
「メイドさん?」
「はい、九城家筆頭メイドの藤崎アヤメと申します。名乗るのが遅れてしまい、申し訳ありませんでした」
東雲の家って、使用人を名前で呼んだりしないんだよね…。だから名前も知らないのは当たり前になってる。
必要最低限の会話しかしないし、まるで居ないような扱いが普通だった。だから使用人にもそれなりの所作が求められていたのは知ってる。 ん?九城家筆頭…?東雲のメイドさんじゃないの?
「何が九城家筆頭だ…。それなら何故瑠璃を守らない!」
「それは…」
「子狐丸、取り敢えず入ってもらおう?ここでは話しにくいから」
「…瑠璃がそう言うなら」
本当に渋々といった様子だったけど、了承してくれた子狐丸と一緒に、アパートの部屋にメイドの藤崎さんにも入ってもらった。
「まさか本当にこのような扱いを受けておられるとは…。申し訳ございません…私がもっと早く仕事をこなせていれば…」
「えっと、よくわからないので、順番に説明してもらえますか?」
東雲の家にいた時のような冷たい雰囲気はないし、どちらかといったら心配してくれているのはわかる。
だから悪い人じゃない。だって毎度助けてくれたのはこのメイドさんだけだったもの。




