021
昨夜、疲れてたせいで何時もより早く寝たから、随分と早い時間に目が覚めた。
子狐丸は小さいまま、布団の上に丸まって寝てて猫みたいで可愛い。
起こさないよう静かに、お弁当の仕度。
バイトのおかげで生活に困らないのは本当に有り難い。
食材とかも余るとオーナーが持たせてくれるし、少しだけどタンス貯金ができるくらいにはなったから、いつかオーナーにお礼しないと…。
お弁当を包んでいたらもぞもぞと子狐丸が起きてきた。
「おはよう、起こしちゃった?」
「いつも通りだから大丈夫。今日はえらく張り切ったお弁当だね」
「時間があったから色々と作ってたら増えちゃって…」
お弁当箱2つ分くらいになっちゃってる。
朝ご飯につまんでいこう。
「そういえば、雪乃さんは普通に食事してたけど、子狐丸はやっぱり食べられないの?」
「…うん。不都合はないから平気」
「私は一緒に食べたいんだけどなぁ」
「しばらくは無理かな」
「しばらくって…どうしたら食べれるようになるの!?」
「ナイショ」
「むー意地悪だー!」
急に美形スタイルになった子狐丸は、私のそばに来ると顔を近づけてくる。
「わ、わ、わ……な、なに…?」
「瑠璃がこれに耐えられるようにならないと話にならないかな」
それ、当分無理な気がするのですが…。
フッと笑った子狐丸は小さくなると、“そろそろ出かける時間だよ”と。
時計を見ると、確かにそんな時間。
作りすぎたおかずを朝食のかわりにつまみ、かばんを抱えて家を出る。
今日はもうトラブルもないだろうし、普通の高校生として過ごそう。
なんて思っていた私はまだまだ甘かった。
下駄箱に詰められた手紙は想定内だし、それも優子に全て捨てられた、そこまでは良かったんだ…。
お昼にお弁当を優子、麻衣にわけつつ食べていた時に突然それは起こった。
「“1年2組九城瑠璃さん、昼休みに生徒会室まで来なさい。繰り返します…”」
校内放送を使って名指しで呼び出されてます!?
「瑠璃ちゃん、何したの? 生徒会室って…」
「何もしてないよ…そもそも生徒会の人に直接面識なんてないもの」
心当たりが全くない…。
「心配ならついていってやるけど」
「ありがとう優子、でも流石に子供じゃないし、一人で行くよ…」
不安で仕方ないから頼りたいけど、迷惑かけられないよ。
急いでお弁当を食べ終えて、生徒会室へ向かう。
一階の職員室の近くにあるのは知ってるけど、当然入ったことなんてない。
恐る恐るノックをしたら、女性の声で返事が…
「入れ」
「…失礼します…」
生徒会室は教室の半分くらいの広さで、書類やファイルの詰まった棚がぎっしりあって、部屋の真ん中に口型に整えられたテーブルと椅子が置いてある。
その一番奥、まるで社長ですか?ってイメージのリクライニングチェアに座っているのは生徒会長の西園寺京子先輩。
隣には名前と見た目だけは知ってる女子生徒…四ノ宮凛先輩。
つまり、今ここに三大美少女と呼ばれているメンバーが集まっている…。
「九城瑠璃! 何故呼び出しに応じなかった?」
開口一番叱られました。ちゃんと出頭してるのに理不尽です。
「放送で呼び出されたのでこうして生徒会室に…」
「違う! 手紙を下駄箱に入れておいただろう!」
まさか生徒会長が私の下駄箱に手紙を…?それってまさか…!
「だから手紙はだめって言ったのよぅ。今はほとんど無いとはいえ、京子先輩も下駄箱が手紙で溢れた時があったでしょう?」
「……ああ…失念していた。だが私が手紙を入れた時はそこまで入ってはなかったが?」
「先輩は誰よりも早く学校に来てるのだから、まだ少なかっただけよぅ」
「しかし、受けるつもりがないとはいえ、礼儀として全てに目を通していたぞ私は!」
「あのね、京子先輩。それが毎日毎日続いたら読む気も失せるわよぅ」
「だとしてもだな…!」
「そもそも、男子のせいで怖い思いをした瑠璃ちゃんにそれを求めるのは酷だと思うわよぅ?」
多分、優子が捨ててくれた中に生徒会長からの呼び出しを指示する手紙が混ざってたんだろうなぁ…。
直ぐに確認しなかった私が悪い…。優子は私のために捨ててくれたんだから。
「申し訳ありません…確認せず処分してしまって」
「仕方ないわよぅ。 ほら京子先輩、そんな話をするために呼んだんじゃないでしょぅ?」
「そうだったな。 怪我は大丈夫か?男子生徒に校内で襲われたと報告を受けているが…」
「はい、少しアザになった程度なので、今はもう痛みもありません。それに、自業自得の結果ですから」
安易に付き合うっていう選択肢をしていた私が悪い。だからもう…同じことは繰り返さない。
「瑠璃ちゃんってちょろい事で有名だものねぇ…。気をつけないとだめよぅ?」
「はい…」
先輩にまでちょろいと言われるのは結構心にくるものがあるのですが…。
「確かにな。学校は勉学に励む場所であり、恋愛にうつつを抜かすなど…」
「はいはーい。そこまでですよぉ。 京子先輩のお説教は長くなるから、本題に入ってくださいねぇ」
「う、うむ…」
この二人の力関係が全くわかりません。四ノ宮先輩が生徒会の真のボスと言われても納得しそう。
結局、呼び出しの内容は何だったかというと、私が襲われた事件についての確認と報告の為だった。
内容が内容だけに、配慮してくれていた結果、生徒会長と書記でもある四ノ宮先輩だけでの聞き取りにしてくれていた。
生徒会長から淑女としてとか、学生としてとか、散々お説教はされたけど、反論もできないから大人しくしているしかなく…。
「それくらいにしておかないと、また後輩に怖がられるわよぅ?」
「しかしだな! 一つ間違っていたら一生消えない傷がこんなに可愛い女の子の身体につくところだったんだぞ!」
「それはそうねぇ。ほんと京子先輩は美少女が好きよねぇ。私は相手してくれないのに…。これでも三大美少女の一人なんだけどぉ」
「お前は男がいるだろうが!」
「実は… 別れるかもしれないの…」
「何を呆けた事を…。校内でもトップクラスのバカップルが何を言っている」
「それがね、うちもこの間の校内で起きたトラブルの時に浮気の疑いが出てきたのよぅ」
私は何を聞かされているのでしょう…。もう解放してください。お願いします…。
「そんな不誠実な男とはすぐに別れてしまえ!」
「そうねぇ…。でもまだ疑いでしかないから黒と決めつけてしまうのも〜と思ってぇ…」
「相手はわかっているのか?」
「ええ。数人の女子が“私とは遊びだったの?”と詰め寄っている姿を私の友達が見たらしくて…。私は直接現場を確認してないからわからないし、本人達に聞いたのだけど、何も話してくれないのよねぇ」
これって…。四ノ宮先輩の彼氏の浮気相手に毛玉というか人ならざるモノが憑いて、事件を起こしたって事?
肩に乗る子狐丸に視線を送ると頷いて、話してくれた。
「今回の騒動で逃げ回って街に被害を出したのは、殆どが鬼に分類される奴らでね。これに憑かれると秘めていた想いや隠していた欲求が表に出てくる。つまり、自制が出来なくなるんだ」
あ、それで納得。街での怒声とかにも説明がつく。イライラしたのを抑えられなかったんだね。
「(てことは…)」
「浮気してたんだろうね。間違いなく」
さいてーだ。 こんなキレイな彼女がいて浮気?
なんかもう、ここ数日で私の男性への不信感がうなぎのぼりなんですが…。
勿論例外はいる。オーナーと子狐丸は信用してるし。
だってオーナーなんて雪乃さんにベタ惚れだし、もし浮気なんてしてたら、多分氷漬けになってる。
子狐丸もそう。この子はいつもそばにいてくれるから例外。
「ともかくだ! 問題を起こした生徒は引き続き謹慎処分となっているが、仮に処分が正式に決定して、いずれ登校してきたらまたトラブルが起こるかもしれん。いいか?その場合は速やかに私を頼れ。絶対にだぞ」
「は、はいっ!」
「私でもいいわよぅ。一人で抱え込まないようにねぇ。生徒会室に逃げ込んで来てもいいのよぅ」
「ありがとうございます…」
呼び出しの内容は、つまるところ私を心配してくれていたと…。
いい人だなぁお二人とも。ちょっと怖いけど。
生徒会室を辞した後、再度子狐丸に確認したけど、どうやら四ノ宮先輩の彼氏が浮気していたのは間違いないっぽい。
「僕は現場を見てるし、憑いていた鬼を斬ったのも僕だからね。あれは間違いないよ」
「そっかぁ…」
四ノ宮先輩も傷つく結末になるのかと思うといたたまれない…。
後日、全てが明るみになり、ブチギレた四ノ宮先輩が彼氏を血祭りに上げたとか、窓から吊るされたとか、おっそろしい噂を聞いた時には身震いがした。
やっぱり生徒会長より怖い…。




