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土日のみ14時から17時まである中休憩の間もオーナーの家に居座る紗千さんに延々と口説かれ続け…。
当然子狐丸は抗議するんだけど、それすらのらりくらりとかわす。
学校で告白されるのと全く違うから困惑するし、断っても意味をなさない。
しかも話し上手で、誘導されて身の上やら何もかも聞き出されてしまったという…ね。この人怖い…。
「うーん…。そんな不便なアパートなら引き払って、以前僕が住んでいた所へ一緒に引っ越さないかい?」
「勝手なことをして家に伝わってしまったら…どうなるかわかりませんし…」
なにより貴女について行くのも身の危険を感じるので無理です。
「確かにそうだね。東雲か…。 オーナー、なんとかなんないのかい? ツテとかいっぱいあるでしょう」
「流石に東雲と九城を同時に敵に回すのはキツイな…。一応、九城の方には手を回してるからしばらく待ってくれ」
「使えないなぁ…。じゃあ僕の方でもちょっと探りを入れてみるよ」
「あんまり引っかき回さないでくれよ。静かに、穏便に話を進めたいんだ」
二人はなんの話をしているのでしょう。とんでもない会話をしているような気がします…。
「瑠璃はアイツが僕や雪乃を普通に認識している事に疑問を持たないの?」
「え? だってこのカフェで働いてたなら当たり前かな…って…」
「さすが瑠璃ちゃんは賢いね! これでも僕は巫女の血筋でね。うちの家系は見えるのはもちろん、祓うことも可能だよ」
本職の方でしたか。それは子狐丸があしらわれる筈だ…。
しかも巫女って事は実家は神社とかそういうところでしょう。そんな人がバイトしてるカフェってほんと何なんだろう。
「そういえばオーナー、私ずっと疑問だったのですが…」
「どうした?瑠璃ちゃん」
「この店に依頼をしに来る人たちはどこで情報を得ているのですか?例の秘密の注文方法とか…」
「大半は口コミだね。後はこの前俺が見ていたオカルトウェブっていうサイトに情報が載ってる」
「有名になると冷やかしとか妨害みたいなのは無いんですか?」
私自身、両親からひどい扱いをされているわけで、そういうことをする人が他にもいそうなものだけど…。
「んー無くはないだろうが、こちらにも当然後ろ盾はあるし、ワザワザ事を構えようなんて輩はいないと思うよ。無知なバカが絡んでくる程度ならその場で対処してしまうし…雪乃が…」
ああ。雪乃さんが…。それは2度とバカな気は起こさないだろうね。
その雪乃さんは厨房で働き詰めで疲れたと今はお休みになってる。夕食時もまた忙しいだろうからお邪魔はできない。
平日は中休憩は無しでお店を開けているけど、お客さんは少ないそう。私が来るのは夕方からだから、余計に暇だったりする。
ランチに女性客が来たり、おやつ時にコーヒーを飲みに来る人がいる程度だって聞いてる。
“そっち”系の仕事は基本、忙しくない平日に受けるようになってて、休みに駆け込んでくるようなのは、余程切羽詰まっているとかの緊急くらいだそうで、私はまだ遭遇したことはない。
と、そんなことを考えていたらフラグが立つ、なんてこともなく…。
単純に紗千さんに延々と絡まれ続けただけ。オーナー曰く、ここまでご執心なのも珍しいそう。
だいたいは断られれば諦めるし、しつこくもしないらしいのだけど…。だったらなんで私だけこんな目に…。
「オーナー、まだ僕の制服はあるかな?」
「紗千くんの荷物を纏めたままになっている部屋にあると思うが…まさか…」
「夕方からは僕も店に出るよ。瑠璃ちゃんを守らなくてはいけないからね!」
私、別にカフェで危ない目にあった経験は無いのですが…。店員を口説くような人も来ないし。
だって、お客さんの半分は女性だし、男性のお客さんもゆっくり寛ぎたくて来ているような人ばかりだもの。声をかけられたとしても世間話とかくらいだ。
「営業中、あまりにも目に余るようなら出禁にするからな! いいか? 接客している瑠璃ちゃんを口説いたりするなよ!?」
「酷いなぁ。僕の生きがいを奪うとか、オーナーは鬼だね。それに、僕が有能なのは知っていると思うけど?」
「だから困るんだ…」
はぁ…っと大きなため息をつくオーナー。
仕事ができるからこそ注意しにくいとか、そんな理由なんだろうけど、私はバイト中に仕事以外にも気を張っていなくてはいけなくなるから、やめて頂きたいのですが…。
私の願いも虚しく、早速制服に着替えてきた紗千さん。
制服の色合いは私のと同じだけど、パンツスタイルが似合っててカッコいいと思ってしまった自分に腹が立ちます…。
男装っぽいのが似合うのはショートヘアのスレンダー美人だからこそだと思う。喋らなければ男女問わずモテそうなのに、色々ともったいない人だなぁ。
しかも夜のカフェでの仕事ぶりはプロそのもの。
私が何もさせてもらえないくらいテキパキと動く。
「あの! 私にも仕事をさせてください。バイトなのに忙しい時間帯に何もしないでお金をもらうのは嫌なんです!」
「瑠璃ちゃんは可愛すぎるからね、表に出てはいけない。今は男性客もいるからね」
知ってます。近所のおじいちゃんです! 週に何度も来てくれる常連さんで、とってもいい人ですから! 時々キャンディとかくれるんです!
「瑠璃ちゃん、今日は厨房で雪乃の手伝いをしてくれるかい?」
「はーい、わかりました…」
厨房は厨房で、雪乃さんが完璧にこなしてるのですが…。
細々とした掃除とか、雑用を見つけて片付けておきますか。
「紗千さんは店に来るお客さんにも声をかける。とか雪乃さんは言ってたけど、そんな素振り全くないし…仕事ができる大人で、私に勝ち目がないよ、どうしよう子狐丸…」
「もう瑠璃しか見えてないようだね。気持ちはわからなくないけど…。瑠璃、間違ってもついて行ったら駄目だからね」
「行かないよぅ…身の危険しか感じないもの」
結局その日の帰りは、抵抗虚しくアパートまで送ってもらう羽目になり…。
しかも上がり込もうとかしないのが無駄に爽やかな紳士っぷりを醸し出してて文句も言いにくい。
根はいい人なんだよ。ちょっとアレなだけで…。恩もあるし。
今日は午後から無駄に疲れたし、早目に寝よう…。
明日のお弁当は早起きして用意すればいいし…。優子におかずを分けてあげる約束してるから…何を作ろうかな…。




