019
昨日の騒ぎが嘘のように平和な日曜日。
カフェに来るお客さんも普通の人達ばかりで、なんだか私ってばちゃんとJKしてる!
私が求めていたのはこういうのであって、ショットガン抱えて山にいって狸幼女のパンツを取り返すことじゃない。
あれはあれでちょっと楽しかったけど…。あんなのを体験するのは一度っきりでいい。
普通って幸せ…。
土日はお昼にランチもあるから結構お客さんが入るのだけど、たくさん注文されるメニューをどうしてるのかと思ったら、厨房で雪乃さんが調理してた。
今まではオーナーが一人でやってるんだとばかり思ってたけど、思い返してみるとカウンターにいたオーナーが奥に行ってすぐに料理を持ってきてたなぁと。
当然オーナーも料理はできるのだけど、忙しい時は接客の為に表に出てたりする。
普通の人には見えない雪乃さんが裏方なのは納得。
ただ、言っては失礼だけど…あの見た目の雪乃さんが家庭的なのは想像できなくて…。
「瑠璃、オムライスできたから持っていけ!」
相変わらずのパンクルックにフリルエプロンっていうアンバランスなスタイルの雪乃さんは、綺麗に卵で包まれたオムライスお皿に盛って、手渡してくる。
「は、はい!」
ほんと、すごく上手い…。やっぱり何事も見た目で判断はできないなぁ。オーナーは素敵な奥様を射止めたね!
ちょっと…いや、かなり怖いところもあるけど、私も雪乃さんの事が好きになったから。
「お待たせしました、オムライスです」
カウンターに座る女性にオムライスを届けたら、突然手首を掴まれて危うくお皿を落としかけた。
「君、名前は?」
「ポチです」
「……」
「……」
「瑠璃ちゃんだよね?」
「ポチです! 離してください!」
「無理だね。君みたいな可愛い子…このまま連れ去りたいくらいさ」
何なのこの人。手首を掴まれた瞬間、ものすごく身の危険を感じて咄嗟に偽名を使ったけど、なんで私の名前知ってるの?名札とかもないよ、このカフェ。
「紗千くん、それくらいに…。うちのポチちゃんに手を出すのはやめてもらっていいかな」
「誰がポチですか!!」
「相変わらず理不尽だね。瑠璃ちゃんは…」
ああ、私の偽名だった。無意味だったけど……って紗千って……。
「もしかして以前ここでバイトをしていた方ですか?」
「ああ。早乙女紗千くんだよ。 随分と久しぶりだけどね」
「仕事が忙しくって…会社には可愛い子がいなくて、やる気でないんですよ…」
そのおっさんみたいな理由でやる気でないのなんなんですか! じゃなくて!
「あ、あの…家電、ありがとうございました! ものすごく助かりました…あんなに高いものを頂いてしまって…」
私が下げた頭を撫ぜる紗千さん。
「構わないさ。君のような可愛い子に使われるのなら家電も本望だろうからね!」
何でこの人は話し方とか動きがいちいちオーバーなのだろう。ミュージカルの演者さんですか?
「オーナー、僕もまたここで働かせてもらえないかな?この子は僕が守らないと可愛すぎて危険だよ」
「おいおい…いい所へ就職したんだろう? うちみたいな小さな店では見合うような給与も出せないよ」
「お金の問題ではないんだ! 僕はこの子さえいれば…」
ちっこい子狐丸がカウンターからジャンプして、紗千さんの顔にめがけてドロップキック。
止める間もなく、ペシッと払われてカウンターの向こうに消えていった…。
「不意打ちとは卑怯な真似をするね。それで瑠璃ちゃんのナイトのつもりかい?」
再度カウンターに上がってきた子狐丸だけど、普通のお客さんがいる前では大きくなって暴れたりはしないでくれるいい子だ。
ここは私が守らないと…。
「紗千さん、うちの子をイジメないでください。その…大切な子なので…」
「恋人なのかい?」
「えっ…いえ…そういうんじゃ…」
だって告白されたわけでも…あぁ! 子狐丸! そんな悲しそうな顔しないで…罪悪感が…。
「僕はお前を敵と認識したからな! 覚えてろ!」
子狐丸は紗千さんにそう言うとカウンターから飛び降りて行ってしまった。
「いやー若いねぇ…」
「オーナーはますますおっさんくさくなりましたね」
「相変わらず男には容赦ないな紗千くんは…」
美人なのに変な人…。 そういえば雪乃さんが言ってたっけ…王子だって。
聞いた時は意味わかんなかったけど、対面したらちょっと納得…。
「ところで瑠璃ちゃん、今日のバイトは何時まで?」
「閉店までですけど…」
基本、休みの日はオープンしてる間ずっと働かせてもらってる。
お昼過ぎから夕方まで中休憩があるから、実質そんな長時間労働でもない。
平日の学校終わりにバイトに来たときも、何もなければ遅くても20時迄には店を閉めるから、それからまかないを貰って、お風呂を借りたりしたら帰るだけ。
「オーナー、働かせ過ぎじゃないか。こんな可愛い子が夜道を一人で帰るのは危ないだろう?」
「あの…私がお願いして働いてるので…。それに帰りも一人じゃないですし」
「よし、今日は僕が送ってあげよう。なんなら僕の家に来てくれても…」
私の話聞いてますか?
「どちらも遠慮させてください! 私は仕事がありますから、手を離してくださいっ」
「つれないなぁ…。でもそんなところもいい! 僕はいつか君を落としてみせるよ」
ようやく手は離してもらえたけど、人ならざるモノに感じるのとは違う寒気が。
これが本当のヒトコワってやつ?
ジリジリと後退った私は、ある程度距離をとった後、逃げるように厨房に駆け込んだ。




