視線
子狐丸に起こされて目を覚ましたのは八時前。
大変! 学校に遅刻する!!
確実に一度起きたのに気を失ったのが原因だ…。
お弁当を作っている暇もないし、一日くらいお昼を抜いても死にはしない。
実家にいた頃なんて一日一食とかザラだったから。
それなのによく育ったものだよ…。
学校に向けて全力疾走する時に揺れる重たいものが今は煩わしい。
ギリッギリで校門を抜けて、下駄箱を開けたらまたザラザラと手紙が…。
ああもう! 昨日のも鞄に入れたままなのに!
仕方なく拾い集め、また鞄に押し込み、教室まで走る。階段がいつも以上に恨めしい!
私が後ろのドアから教室に入るのと、担任が前のドアから教室に入るのはほぼ同時だった。
「九城? 珍しいな…」
「すみません、朝にちょっとありまして…」
まさか横に寝てた美形に抱きついてたせいで気を失ったなんて言えるはずもない。
早く座るよう言われて着席、出席確認の後、朝のホームルーム。
昨日の騒ぎで数名が謹慎処分になったと先生から話があった…。
うちのクラスからも二人…。一人は二代目だから他人事ではない。因みに五代目は二年生。
ホームルームも終わり、一限目までの休み時間に私のそばに来たのは二人の友達、麻衣と優子。
「瑠璃ちゃん、昨日は大変だったね」
「だからあたしは気安くおっけーすんなっていつも言ってたんだ」
「うん、身を持って学習したよ。 …だからこの手紙も処分する予定…」
かばんから教科書とかを出そうとしたら、大量の手紙がでてきた。完全に忘れてた…。
「相変わらずすっごい量…。さすが三大美少女の中でもちょろいことで有名な瑠璃ちゃんだ」
ちょろいって言われてるのは初耳なんですが!?
「あたしが捨ててやるよ。瑠璃は捨てらんないだろ?こういうの」
「待って! もしかしたら違う用事のものもあるかもだから…」
「そんなもんあるか!」
「ないない。優子に捨てて貰いなさい」
抵抗虚しく、優子が掻き集めた手紙はクシャクシャと一つに丸められてゴミ箱へ。
クラスの何人かの男子がすっごい顔してたから、差出人かも…。ごめんね、もう私は告白は受けない。
怖い思いもしたし、何より子狐丸と約束したから…。
腕に残るアザを目ざとく見つけた麻衣は自分の事のように怒ってくれた。
「こんなアザ出来るほどだったの!? めちゃくちゃするね! ムカつく…登校してきたら同じ目に合わせてやろうか」
「あたしも後から聞いたんだけど、ひっでぇな…。よし、ちょっとかわりにその辺の男子殴ってくる」
むちゃくちゃなことを言い出した優子を止めてたらチャイムがなって、先生が教室に。
おかげで暴力沙汰にならずにすんで良かった。
たぶん授業が終わる頃には優子の怒りも冷めてると思うし。
熱しやすく冷めやすいからなぁ優子は。
どちらかというと麻衣のが心配。静かにため込むタイプだから。
お昼休みに二人と一緒にご飯を食べようとして、今日は持ってきてないのを思い出した。
「いつもお弁当なのにどうしたの?瑠璃ちゃんが忘れるとか珍しい…」
「だよな、いっつも美味そうなもの持ってきてるのに」
「寝坊しちゃって…作ってる暇がなかったの」
「え…まさかいつも自作してたの!?」
「あり得ん…。そんなJKは空想の世界のイキモノだろ。まさか瑠璃お前…ファンタジーなのか!?」
ちょっと意味わかんないし、相変わらず優子は口が悪い。目の前に存在してるから。
「購買にでも行く?遅くても少しくらい残ってると思うけど」
「瑠璃、甘いパンは平気か?」
「うん?平気だけど、どうして?」
「ちょっと待ってろ! すぐ戻るから!」
言うが早いか優子は教室を飛び出していった。
「ねぇ麻衣、優子はどこへ行ったの?」
「購買でしょ。瑠璃ちゃんのパンを買いにね」
「そんな…私が自分で!」
席を立うとしたら麻衣に腕を掴まれて静止された。
「優子ならすぐに戻るから。それに、あんな場所へ瑠璃ちゃんが行ったら事件になる」
「事件って…」
「購買で買い物をするのは8割以上が男子、この意味わかる?」
「…う、うん…」
今はそんなところへ行くのは怖いかも…。
「って優子は大丈夫なの…!?」
「優子が男子に遅れを取ると思う?」
そう言われて、優子が男子を蹴り飛ばしてる姿が容易に想像できた。
あの子の運動神経は並外れてるからなぁ。ありとあらゆる運動部から勧誘や助っ人を頼まれてるのを知ってるし。
「たっだいまー! ほい瑠璃!」
お早いお帰りで…
「あ、ありがとう。いくらだった?」
「全部で三百五十円!」
財布から出したお金を優子に手渡す。
「瑠璃、なんのつもりだ?」
「えっと…小銭がそれしかないから、そのままもらって?」
「嘘つくな! ジャラジャラ音してんだろ」
多めに五百円玉を渡したのに優子はご立腹。確かにそういうのを嫌がる子だけど…。少しくらいお礼したかったんだよ。
優子は私の小銭入れをひったくると、きっちり三百五十円だけ持っていった。
「ありがとう優子…」
「気にすんな! お礼なら、今度瑠璃の作ったお弁当のおかずを一個くれたらいい」
「うん、約束ね」
「間違っても弁当まるまる一個作って来るなよ!」
はい…。確かにやろうかと思ったよ。お見通しですか。
二人と他愛のない話をしながら食事をして、昨日の騒ぎも忘れかけていたのに。
嫌な気配を感じて、そちらを見ても元凶は見つからず…。
何だったのだろう?
結局嫌な気配が何かわかならないまま下校時刻。
今日も部活の助っ人に行く優子と別れ、麻衣も自分の部活へ向かった。
“瑠璃もなにか部活に入らないの?”って言われて、麻衣が入っている手芸部に誘われたけど、バイトしないと生きていけない私には無理なんだ。ごめんね…。
校舎を出るときにも、お昼に感じた嫌な気配が…。
ある意味ホッとした。ターゲットが私で。手紙を捨ててくれた優子が狙われるとか、私と一緒にいたせいで麻衣が…なんて耐えられないから。
「瑠璃、どうする?」
肩にいる子狐丸に聞かれるけど、どうしたらいいのかなんてわかんないよ…。
「これ、多分人じゃないよね…?なんかわかりにくいんだけど、いつもの毛玉とは違う気がする」
「毛玉ではないと何度言えば…。 まぁ人だけど人じゃない…ちょっと厄介かも」
何よそれ…。




