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突然だけど、幽霊とか妖怪みたいな、いわゆる“人ならざるモノ”の存在を信じますか?

こういう質問をすると、反応は何パターンかに別れると思う。


一つ、全く信じない! そんなものいると思ってるのか?と、鼻で笑われバカにされる。

二つ、冗談だと思って呆れられたり、適当に話を流される。

三つ、自分は見えるんだけど、お前もか? とノリノリで話してくれる人。

四つ、自分は見えないから居るかはわからないけど、見えるっていう人がいるのなら、いるのかもしれないね、と答える人。


私の経験上、多少の差はあれどだいたいはこの四つのどれかに当てはまると思う。

人付き合いをする上で、私が最も大切にしたいのは四に近い回答をする人。

何故かって?これは簡単な話で、バカにしたり頭ごなしに否定もしないし、相手の意思や思いを尊重できる人だから。

見えるものしか信じないなんてナンセンスだ。

なんせ私が見える人間だから、一緒に居たいと思うのは四の人だろう。

もしくは同じ仲間でもある三の人。当然、事実ならだけど…。




どうして今こんな話をしているかと言うと、付き合い始めて一週間程のカレにこの質問を投げかけたら、三に近いパターンの返答だったから…。

“付き合い始めてそこそこたつのに、キスどころか手を繋いだりと、触れさせてもくれない”って言われて…。

そこまで言うのなら信頼できる人なのかこちらも知りたいと思って、放課後に屋上へ誘って聞いてみた。

で、この三のパターンだった人が一番判断がしにくい。

本当に見えてる人なのかもしれないし、面白半分で嘘をついているかもしれない。



ちょっと申し訳無いけど第二フェーズに移行。

「じゃあもしかして私の後ろにいるのも視えてる?」

「当たり前だろ! そんな引っ掛けに騙されるかよ! だからさ、いいだろ?」

「…ほんと? じゃあどんな見た目してる?」

「あ?めんどくせぇな…。 なんかこう…髪の長い女の人だろ!」

はぁ…。この人もダメだ。私に女の人が憑いているなんてあり得ない。

だって……そんなのを許さない子が居るから。


「…嘘つき」

「は? だってお前が後ろにいるって言ったんだろ! …ハメたのか!!」

「私は真剣に質問したの。なのに…」

「チッ…。やっぱり美人でも頭がおかしいってのは本当だったんだな! やってらんねぇ…。ヤルどころか触らせてもくれねぇし…もういい、別れるわ。もっと手軽な女なんていくらでもいるし」

「そう…」

怒りながら去っていく”元“カレ…。まさか、一のパターンに変わるとは。

別に悲しくなんて…

「うぇぇぇ…。なんでよぉ…本当のことを言ってくれればそれで良かったのに…」


「瑠璃、泣くくらいならなんで試すような事するの?」

話しかけてきたのは肩に乗っている金色の毛玉みたいな子。

「私が人間不信なのは知ってるでしょ…」

「まぁね…」

うちの家族はこういった話を頭ごなしに否定してくる人たちだから。

散々気味悪がられたり、怒鳴られてぶたれた事も一度や二度じゃない。

そのせいもあって、家にいても家族と話すことはもうないし、高校の入学と同時に一人暮らしをしろって家を追い出された。

厄介払いしたかったんだろうね。

ボロいアパートだけど家賃は払ってくれているし、少額だけど生活費も振り込んでくれてる。

とても生活できるレベルではないからバイトは必須だけど…。


「高校に入ってからこれで何人目?」

「…五人」

「瑠璃は見た目はいいからモテるのが厄介だよね…。一人目はドン引きされて、二人目は可哀想な子を見る目をされて、三人目は…」

「うるさいっ!」

肩に乗ってる毛玉を払い落とす。私の気も知らないで勝手な事を!

「何するんだよ!」 

転がり落ちて苦情を言う毛玉を無視して教室に戻る。 もうすぐ完全下校時刻だし、カバンを取りに行かないと。バイトに遅れてしまう!


屋上から階段を駆け下り、一年二組の教室へ。

初夏の夕焼けに染まる教室にはもう生徒は誰もいなくて。

窓側の真ん中あたりにある、自分の席に置いたままのカバンを掴んで教室を出る。

「置いていかないでよ」

「……」

勝手についてくるくせに。当たり前に肩に乗ってくるのをわざわざもう一度追い払うつもりはないけどね。


時間的に家に帰ってる暇もないから、このままバイト先へ行かなきゃ…。

予定では、カレにさっさとあの質問をして、人となりを知りたかったんだけど、なんとか言いくるめて私に触れようとしてくる下心丸出しの行動を躱すのに無駄に時間がかかった。

そんな軽くないからね私は。同級生の中には結構簡単にそういう事を許してる子もいるって聞くけど…私は無理。

抵抗感がすごくて、手に触れたことすらない。

私はやっぱり人が苦手なのかな。 なのに寂しくてすがってしまう…。やっている事が矛盾だらけなのは自覚してる…それでも…。



気持ちを切り替えようと思い、走って向かうバイト先は自宅アパート近くにある小さなカフェ。

名前はD&R。 Dream&Reality の略で日本語にするなら“ゆめうつつ”

バイトを始めてからオーナーに教えてもらった。


小ぢんまりとした落ち着ける店構えで、アパートに引っ越してきてすぐ、食品の買い物へ行った帰りに見つけて…。

どこか惹かれるものがあってふらっと立ち寄ったのがきっかけ。


「こんにちわー。遅くなりました!」

カランっといかにも昔の喫茶店って感じの音をたてる扉を押し開き、店内へ。

今日もお客はいないけど、コーヒーのいい香りがしている。


「時間にはまだ早いから大丈夫だよ。…どうしたんだい?目が赤いけど」

カウンターの向こうでカップを拭いているのがオーナー。

「…なんでもありません!」

「ああ、またなんだね」

「またって言わないでください! もう恋人なんて作りませんから」

「同じセリフを一週間前くらいにも聞いた気がするけどね」

「うっ…」

仕方ないじゃない。一人暮らしで心細くて寂しいし、そんな時に優しくされたり、告白されたら…。

付き合ってみれば此方も好きになるかもしれないとか考えちゃうのは悪いこと?…今のところそうなったためしは無いけれど。だってそれ以前に相手が下心を剥き出しにしてくるから、耐えられなくなって別れてるし。


「今日も暇だろうから、よければ話を聞くよ」

「ありがとうございます! 先に着替えてきますね」

このカフェのオーナーでもある東風深葉(こちふかば)さんは、私が信頼している数少ない大人の一人…。

歳は三十半ばで、下ろせば肩まである長い茶髪をしっかりと纏めて仕事をしている姿はカッコいいし、清潔感のある大人だ。

飲食店のオーナーなら当然かな。



奥の更衣室で着替えるのは薄い茶色と白を基調としたエプロンドレスで、ゴシック調の可愛らしいデザインの制服。オーナーの知り合いの趣味らしい。

私も嫌いじゃない。スカートが短いとか露出が多いとかでもないし、普通に可愛いから。

私自身も長い黒髪をしっかりと纏めてポニテに…。姿見で確認もして、カフェの店員として大丈夫。よしっ!


店舗側に戻るとカウンターでは早速紅茶を淹れてくれているオーナー。

「いつもの紅茶でいいよね?」

「はい。ありがとうございます」

オーナーがカップをカウンターに置いてくれたから、向かい合う様にカウンターに座る。

ふぅーふぅーっと冷ましてから一口。 …うん、やっぱり美味しい…。

お店の雰囲気も、いつも店内にBGMとしてかかっているボッサも心地良い。


「それで、また振られたのかい?」

「こちらから願い下げです! あんな下心しかない嘘つきは…」

カランっと店の入り口にある来客を知らせる音がなり、私は慌ててカップを置き、接客に。


「お一人ですか?」

「ええ…」

仕事帰りかな?スーツを着た女の人。すごく疲れた様子だけど…。

落ち着けるよう、ソファーのボックス席に案内した。

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

「…紅茶を…砂糖は無しでミルク多め…ぬるめにしてもらえるかしら」

「かしこまりました」

”そっち“のお客さんか…。


「オーナー、紅茶を砂糖なし、ミルク多めで温度はぬるめです」

「すぐに用意するよ」

これ、特殊なときにだけされる注文で…。本来、紅茶の適温は高い。

ぬるめで淹れるのは玉露とかの緑茶。これもオーナーに聞いて初めて知ったんだけどね。


ちなみに私はすっごい猫舌で、紅茶の知識もないから、初めて入ったこのカフェでさっきのお姉さんと同じ注文をしてしまって、特殊なお客だと間違われた訳なんだけど…。

その縁もあって落ち着けるカフェでバイトができる事になったんだからラッキーだった。

たぶん……


オーナーが紅茶を運んでそのまま依頼の話に入ったから、私はまたカウンターに座る。

せっかくの紅茶が飲みかけだし…。









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