表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春秋異聞  作者: ペンギンの下僕
公子三人
76/111

三監

9月も毎日更新は続けます、引き続きよろしくお願いします!!

ブックマークが増えてました!! 登録してくださった方、ありがとうございます!!

「まず我が君に置かれましては、三監(さんかん)はもちろん御存知ですな?」

「ああ」

「なんだいそれ?」


 脩が聞くと姜子蘭が説明した。

 焱朝を倒した武王は自らの太子を定めるに当たって三人の子の中から選ぶことにした。(せい)子鮮(しせん)徐偃(じょえん)である。上から書いた順に年上であり、三人とも母が異なる。

 武王には他にも子はいたのたがこの三人が虞の中では才もあり人望も厚かったのである。

 しかしこの三人の中からどのようにして選ぶかを悩んだ時に、武王は意を決して三人を監関(かんせき)という官につけた。

 それは当時、滅びた焱朝の民の一部は南方に逃げ込んだだために南方は収まっておらず、虞は阜関(ふかん)咸谷関(かんこくかん)剣閣関(けんかくかん)という三つの関所を作って南方を閉ざしていたのである。

 この三つの関所を守り、西方を監視する役目を監関と言い、後の世には三つの関の監関を総じて三監と呼ぶ。

 済は阜関、子鮮は咸谷関、徐偃は剣閣関の守りに就くことになった。

 武王の狙いはここで南方から虞を守り、同時に未だ民心定まらぬ焱の民を慰撫させることであった。そしてその手際が最もよかったものを太子にしようと決めたのである。

 しかしそうした宸襟を武王は敢えて王子らに離さなかったため、済と子鮮はそれを左遷と考えた。そして南方の民と結託して虞に反旗を翻したのである。

 二人としては父にして天子たる武王を弑逆しようとしたわけではなく、軍を以て恫喝して監関の任を解かせ、改めて自分たち二人の中から太子を選ぶと言質をとろうという腹づもりであった。

 武王が赫怒したのは言うまでもなく、兵を率いて迎え撃つことを決めた。しかしこの二王子の軍が吃游を見ることはなく、その前に二王子の前に立ち塞がった徐偃の軍にあっさりと敗れたのだった。

 徐偃は剣閣関に赴任するや南方の民のために善政を行い、人心の安定に努めた。剣閣関の周囲の人々は徐偃に感謝し、その出兵の求めに我先にと馳せ参じたのである。

 それに対して二王子の軍は、命令だからやむを得ず従ったに過ぎず士気は低かった。

 数の上では二王子のほうが勝っていたのだがこのような有様でまともな戦いになるはずもなく、一度の会戦で二王子は敗れた。

 そして二王子は武王によって処刑され、徐偃は武王の太子となって即位し虞の統治を盤上のものとした――というのが、三監にまつわる逸話である。


「へえ、なんかよく分かんないけど、その二人の王子が阿呆だってのはよく分かったよ」

「全く脩の言う通りだな。天子になれば人に尊敬されるわけではなく、天子としての責務を真っ当して初めて万民から慕われるんだ。それを履き違えていると三監の二王子のようになる」


 脩の言葉を肯定するように子狼は頷く。

 しかし三監の話など虞の歴史を少しでも学んだ者であれば知っていることであり、ましてや虞の王子たる自分に対して何故わざわざそれを持ち出したのか姜子蘭には分からなかった。

 しかし盧武成はその話を聞いて、ある嫌な予感が頭をよぎったのである。


「おい、まさかと思うが薊侯は……」

「そのまさかだよ。後嗣を定めるつもりはないと公言して、自分の三人の公子を薊国の要所に配置してそのままにしているのさ」


 それを聞いて姜子蘭と盧武成は開いた口が塞がらないほどに驚いた。いや、あまりの愚かさに何を言っていいか分からなくなったのである。

 しかし脩だけは話の流れが掴めずに不思議そうな顔をしていた。


「それ、何かいけないのかい? その三監とやらの話だと、悪い奴は悪意のある行動に出て、正義の味方がそいつらをやっつけたんだろ? ならそういう風になるんじゃないのかい?」

「ところが事はそう簡単じゃなくてな。例えば――脩、お前はこれまで鬼哭山で狩猟をして生きてきたんだろ? なら、同じ種の獣ならばすべて全く同じ動きをしたか?」

「そんなわけないだろ。ある程度の予測は出来るが、寸分違わず同じなんてあるわけがないじゃないか」

「ああ。ならば人にも同じことが言えるだろ? まして人なんてのは、お前のように山中で獣を狩って暮らしている者と平地で戦に明け暮れる者ほどに境遇によって価値観が左右されるんだ。それにな、脩。いいか、歴史というのは必ずしもそれが本当に起きたことかなんてのは分からないんだよ」


 子狼は、これは脩に語りながら、同時に姜子蘭にも聞こえるように声を大きくした。


「悪い奴がいて、正義を有する者がそれを倒した。それは物語としては収まりがよい。しかし人とは百人いれば百通りの思考と思想があり、それらがないまぜになった時に綺麗な帰結を見るとは限らない」

「……まあ、そうだね」

「まして俺たちにはそれを確かめる術はない訳だからな。だから、そういった過去の逸話を戒めとして自らを律するのはよいが、考えなしにただ真似るというのは愚かなんだよ。目先を走る兎は、前には三歩先にはあの辺りにいたからこいつもそうだろうと考えても、その兎が前に射止めた兎と同じ速さで走ることなどないようにな」


 その例えに脩はなるほどと頷く。

 そして、子狼と脩がそういう話をしている間に、ようやく少し冷静さを取り戻した姜子蘭が、声を震わせながら聞いた。


「……それで、今の薊国はどうなっているのだ?」

『春秋異聞』の関連地図を投稿しました↓

https://ncode.syosetu.com/n8340kx/1

今やってる公子三人編の関連地図もそのうち投稿する予定です。位置関係の把握などにお使いください!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ