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追跡者

 翌朝、未来は外から響くエンジン音で目が覚めた。

 玄関のドアを開くと、海斗がバイクに乗っている。


「おはよう!」


 海斗が笑って挨拶をする。


「おはよう……お父さんは?」


「もう漁に出かけたよ」


「バイクに乗れるのね」


「ああ、今から内輪山にある神社へ行こうと思って」


「神社……」


「さあ、乗って!」


 海斗は未来にヘルメットを渡す。


 未来がバイクの後ろに乗ると海斗はエンジンを唸らせて発進する。


 未来は海斗にしがみつき、地面から伝わる振動を感じていた。


 カルデラの内輪山へと続く坂道をしばらく進む。


 アスファルトの道路が途切れて砂利道になっているところでバイクを止めた。


「ここからは歩いていこう」


「うん」


 二人は内輪山を一周できる遊歩道を歩いていく。


 自然の中を散歩していると、鳥のさえずりや木々が揺れる音が心地よかった。


「この島は大昔に火山が噴火して島民が他の島へ避難したことがあるんだ」


「また、噴火したりしないの?」


「今は火山活動はないから大丈夫だよ」


「そう、良かった……」


 山道の中に鳥居が見えた。


「ここが御富士様だよ」


 二人は手を合わせて拝んだ後、見晴らしの良い山の上から青ノ島を見渡していた。


 爽やかな風が吹き、未来の髪をそっと揺らす。


「風が気持ちいいわね……」


 未来が目を閉じ、全身で風を感じていた。


「海斗、何か聞こえない」


「え?」


 未来の声に、海斗は周囲を見回す。


 その時、遠くから低く唸るような音が聞こえてきた。


「なんだ……?」


 海斗は目を凝らす。


 西の空から二つの回転翼を持った飛行物体が島へ向かってくる。


「飛行機か?どこから飛んできたんだろう」


 それは灰色の機体――オスプレイだった。


 二つの回転翼を持ち、垂直離着陸が可能な軍用機である。


 プロペラがうなりを上げ、島の上空へと迫ってくる。


「そうか、救援に来たんだ!おーい!」


 海斗は嬉しそうに手を振った。


 未来の顔が青ざめ、血の気が引いていた。


「どうしたんだ?」


 彼女は小刻みに震えながら、海斗の腕を掴む


「逃げなきゃ」


「え?」


「早く……!」


 未来の異様な様子に、海斗はただならぬものを感じた。



 響く轟音に村長が役場の外へ出て空を仰ぐ。


「何の音だ?」


 村人たちも次々に家から出てきて、空を見上げていた。


 村長が空を見上げるとオスプレイが低空飛行しながらゆっくりとヘリポートへ降下していく。


「おお、ついに救援が来たのか!」


 村長が嬉しそうにヘリポートへ向かった。


 オスプレイはゆっくりと二つのプロペラを上へ向けて、ヘリポートに垂直に着陸した。


 村長は客を迎えるように満面の笑顔でオスプレイに歩み寄って行く。


 機体の後部ランプがゆっくり開いて、黒いスーツにサングラスをかけた男と二名の武装した米兵が降りてきた。


 村長の足が止まり、顔から笑顔が消える。


「何だ、あいつらは?」


 黒服の男が村長の前まで来て流暢な日本語で話しかけた。


「私は世界連合軍特殊作戦部のジェイコブ・レイヴン大佐だ」


「青ノ島村長の谷中です」


 ジェイコブは内ポケットから一枚の写真を取り出し、村長に見せた。


 そこに映っていたのは、未来の顔だった。


「この少女を探している。見たことはあるか?」


 村長は一瞬、驚いた顔をするが首を横に振った。


「見たことありませんな」


「信号がこの地域で確認されたので、捜索させてもらう」


「そんな、勝手なことをされては困ります」


 ジェイコブはポケットからスマートフォンを取り出した。


 画面をスワイプし、追跡アプリを起動すると、島の地図上に赤い点滅が浮かび上がる。


「これは彼女の体に埋め込んだチップの位置情報だ」


 村長は言葉を失った。


 オスプレイの後部ランプからオフロード車が出てくる。


 特殊戦術用の小型オフロード車で屋根部分がロールバーになっている。


「GO!」


 ジェイコブはそう言って、オフロード車に乗り込む。


 二人の兵士たちも銃を携え、その後部座席に続いた。


 オフロード車はエンジンを唸らせ、走り出した。



 海斗と未来は遊歩道の入り口に止めていたバイクに駆けつけた。


「早く乗って!」


 海斗はバイクに跨り、未来を後ろに乗せる。


 キックペダルを踏み下ろしてエンジンを始動させる。


「行くぞ!」


 バイクは急発進し、山道を駆け下りた。


 前方から砂埃を巻き上げながらオフロード車が迫ってくる。


 バイクとオフロード車が交差する瞬間、ジェイコブはバイクの後ろに乗った未来を視認した。


「あのバイクを追え!」


 オフロード車は急旋回し、バイクを追跡する。


 バイクとオフロード車は、急勾配の曲がりくねった坂道を猛スピードで駆け下りる。


 オフロード車の後部座席から兵士が立ち上がり、アサルトライフルを構える。


 銃声が響き、弾丸がバイクの横を掠める。


「キャッ!」


 未来は悲鳴を上げ、海斗の背中にしがみついた。


「くそっ!撃ってきたな」


 海斗はバイクを左右に大きく蛇行させる。


 兵士は威嚇射撃でアスファルトの地面に向かって連射する。


 目の前の道路が二股に分かれていた。


 海斗は右側のトンネルのある方へ走って行く。


 後方からオフロード車が背後から迫る。


 兵士が発砲して、トンネル内で銃弾が壁に当たり火花が散る。


 海斗はアクセルを全開にしてスピードを上げる。


 トンネルを抜けると、そこは港だった。


 海斗のバイクは埠頭を走るが、先は行き止まりになっていた。


 海斗は埠頭の端まで来てバイクを止める。


「くそっ、ここまでか!」


 追いかけてきたオフロード車が海斗たちの前で止まる。


 ジェイコブがゆっくりと降りてくる。


「未来、一緒に来るんだ」


 未来は海斗の後ろで震えている。


「未来は渡さない!」


 海斗はジェイコブを睨みつける。


 二人の兵士が海斗を捕まえて地面に押し倒す。


「ぐっ!」


 それを見て驚く未来。


「海斗!」


 ジェイコブが未来の右腕を掴む。


「お前の腕にはチップが埋め込まれている。逃げても無駄だ」


 未来は震えながらジェイコブを見上げる。


「そんな……」


「おとなしく戻るんだ」


 そこへワゴンに乗ってきた村長が現れる。


「待ってくれ、暴力はやめてくれ!」


 村長はジェイコブの元へ走ってくる。


「私は青ノ島村長として、何故その子を連れて行くのか説明を求める」


 ジェイコブは冷ややかな笑みを浮かべた。


「軍事機密なので説明はできないな。今日見た事も他言無用だ」


 村長がその言葉に立ちすくむ。


「何だと……」


 その時、上空から轟音が鳴り響き、オスプレイが降下してくる。


 ジェイコブは村長の方へ振り返ると、皮肉げな微笑みを浮かべて言い放った。


「Thank you for your cooperation.(協力感謝する)」


 彼は未来の手を引いて乗降口からオスプレイに乗る。


 兵士たちもオフロード車と共に後部ランプから乗り込んで行った。


 轟音を響かせ、オスプレイは砂埃を巻き上げながら垂直に上昇していく。


 海斗は必死に立ち上がり、叫んだ。


「未来――――ッ!!」


 オスプレイは未来を乗せて空の彼方へと飛び去っていった。

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