漂流者
夕方、海斗と武流は漁船に乗り、沖へと捜索に出た。
ゆっくりと沈みゆく太陽が黄金色の光を放ち、空と海を鮮やかな橙色に染めている。
水面は波に揺られながら、太陽の光を乱反射して輝いていた。
海斗は双眼鏡を覗いて、波間に何か浮いていないかと海原を見渡す。
「どうだ、見えるか?」
船の舵を握りながら、武流が声をかけた。
「うーん……まだ何も……」
海斗は目を凝らすが、太陽の光が水面に跳ね返り、視界を遮るように眩しい。
「無線で呼びかけてみるか」
武流は無線のマイクを手に取り、呼びかける。
「こちら青洋丸。聞こえますか?……どうぞ」
無線機からは、ノイズが聞こえるだけで応答はなかった。
「日が暮れたら探すのが難しくなるな。明日の朝にまた出直そう」
武流がそう言いかけたとき、海斗の視線がある一点に釘付けになる。
「もうちょっと待って……」
風に揺れる波間の先に、白く輝く丸い物体が浮いている。
夕日の光を受け、その物体の表面はキラキラと煌めいていた。
「父ちゃん、あそこに何かあるよ!」
「何?!」
武流も目を細め、海斗の指差す方向を見た。
船のエンジンがうなりを上げ、白い物体へ向かって進んでいく。
白い物体は二メートル程の楕円形で、まるで巨大な卵のようだった。
水面から半分ほど顔を出し、波に揺られながら浮かんでいる。
漁船が白い物体に近づいたところで、海斗は思い切って海に飛び込んだ。
間近で見ると、表面が滑らかで人工的な乗り物のようだ。
海斗は拳でコンコンと叩いてみる。
「おーい!聞こえるかー!」
しかし、中からの反応はなかった。
「父ちゃん、ロープを投げて!」
武流がロープを海斗に向かって投げる。
海斗はロープを白い物体の突起部分に巻きつけると、合図を送った。
「よし、このまま港まで引っ張っていくか」
海斗が漁船に乗り込むと、エンジンの唸りとともに、白い物体を引っ張っていった。
港に着くと、無線の報せを聞いた村長がすでに待っていた。
「遭難者を見つけたのか!でかしたな!」
村長は手を振りながら、曳航されてきた白い物体を見つめた。
島のクレーンを使い、慎重に吊り上げ、ゆっくりと地上へと降ろしていく。
すでに日は暮れて辺りは暗くなっていた。
村長は懐中電灯を手に取り、慎重にその表面を照らしながら言った。
「これは……今まで見たこともない乗り物だな。中に誰かいるのか?」
海斗は白い物体の表面をコンコンと叩きながら、開ける方法を探る。
「叩いて、無理やり開けるか?」
武流がハンマーを持ち出し、叩き壊そうとする。
「ちょっと待ってよ!」
海斗は武流を制止して、表面を触りながら、小さな窪みを見つける。
「これかな……?」
指先で押し込むと、低く機械的な音が響き、物体の上部がゆっくりと割れるように開いた。
「おお……!」
村長と武流が、驚きの声を上げる。
三人が覗き込むと、その中には少女が眠るように横たわっていた。
長い黒髪と透き通るように白い肌に持ち、まるで人形のようだった。
「生きているのか……?」
「息はしてるようだな」
「起こしてみる?」
海斗がそっと手を伸ばしかけると、武流がその手を叩いた。
「イテテッ!」
「慌てるな。漂流して衰弱しているのかもしれない。診療所まで運ぼう」
武流は慎重に少女を抱き上げ、村長が乗って来たワゴンの後部座席に乗せる。
三人は、ワゴンに乗り込み、診療所に向かって走り出した。