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決戦前夜

 八王子の廃墟となった元デパート。その地下二階の薄暗い蛍光灯の下でスチール棚が並び、アクリルケースに入った昆虫たちが繁殖されていた。

 その奥で、ドクターこと月島秀雄は、白衣の袖をたくし上げ、未来の細い腕に触れながら、指先で皮膚の下にあるモノを探していた。


「ここか…」


 低く呟くと、ドクターは脱脂綿に消毒液を染み込ませ、丁寧に未来の手首を拭った。冷たい液体が皮膚に触れ、未来はわずかに肩をすくめた。


「ちょっと痛いが、我慢してくれ」


 その言葉に、未来は小さく頷く。視線をそらし、呼吸を整え、目を閉じて痛みに耐える準備をしていた。

 ドクターはピンセットとメスを手に取り、慎重に皮膚に切れ目を入れていく。そこには三センチほどのカプセルが皮下に埋め込まれていた。ドクターはピンセットでそれをそっと摘まみ出した。

 傍らで、その様子を海斗と沙羅が驚きの表情で見ていた。

 ドクターはそう言いながら傷口を素早く拭い、ガーゼで押さえて包帯を巻く。


「これでよし、痛かったろう?」

「ううん、大丈夫」と未来は気丈に振る舞った。


 ドクターは海斗と沙羅にカプセルを差し出した。


「これは…?」

「このカプセルにはICチップが入っていて、位置情報を発信するようになっているんだ」

「…じゃあ、ボクらの居所がわかってしまうんですか?」

「ここは地下二階だから電波が届かないので、今のところは大丈夫。だが、地上の開けた場所に出ると位置がわかるようになっている」


 沙羅がカプセルを手に取り、じっと見つめる。


「これで人間の行動を監視してたんだね……」


 しばらく沈黙した後、沙羅が何かを思いついたように口元に笑みを浮かべた。


「ドクター、これを借りてもいいかい?」

「構わんが…どうする気だね?」


 ドクターの問いに、沙羅は即答する。


「これを使って、私が囮になる。注意をそらしている隙に、海斗が未来と逃げ出せばいいだよ」

「沙羅さん…それは危険すぎるよ」


 沙羅はにっこりと笑って、海斗の肩を軽くポンポンと叩く。


「心配するなって!あたしは本気だよ」



 その頃、地上一階では、海賊たちがと弾薬箱や銃器をトラックから運び入れていた。重々しい武器の金属音がコンクリートに響く中、荒木狂介は三浦船長を連れてアジトの中を案内していた。


「ここは十階建てのデパートだったんだ。一階はファッション・化粧品売場。二階は婦人服売場。三階は紳士服・子供服売場。四階は生活雑貨・本屋。五階と六階は家電売場。七階はレストランフロア。八、九、十階は多目的ホールになっている」

「地下は?」

「地下一階は元食料品売場で、今は集会所になっている。地下二階は元倉庫でドクターが虫を飼っている」

「虫?」

「食料代わりに虫を養殖してるのさ」

「虫を食らうとは世も末だな」と三浦は舌を出す。


 二人は階段を登って八階の多目的ホールにやってくると、窓の外に八王子の街並みが一望できた。

「ここは見晴らしがいいな。外の様子がよくわかる。ここには電気は通っているのか?」

「地下にディーゼル発電機があるが、せいぜい地下一階と二階にしか使えない。エレベーターも使えない状況だ」

「なるほど……しかし、ここには十分に広い空間がある。敵を待ち伏せするなら、色々と仕掛けをしておく必要があるな」

「仕掛け?……」

 三浦はニヤリと笑った


「ここを忍者屋敷にするのさ」




 横田基地のブリーフィングルーム――

 レナード・バクスター少佐が特殊部隊の隊員を見渡して、静かに口を開いた。


「作戦名は“サイレントフレイム”」


 正面にある大きなモニターに人物の写真が映し出される。


「目的は三つ。第一に、人質である月島未来を無傷で確保すること。第二に、捕虜となった兵士四人を救出すること。そして――第三に、月島博士を抹殺することだ」


 モニターにアジトであるデパートの中の構造を3Dで表示される。


「敵のアジトは八王子市内にある地下二階、地上十階の元デパートになる」


 レナード少佐はモニターに映る建物の構造図をレーザーポインターで指しながら話す。


「チームは四つに分ける。アルファチームはヘリで屋上から侵入して捕虜を捜索、救出する。ブラボーチームは地下二階と一階を制圧して、人質の救出をする。チャーリーチームは正面から突破し、敵の注意を引きつけろ。デルタチームは建物周辺を封鎖し、逃走ルートを潰す」


 部屋の後方にはジェイコブが作戦会議の様子を静かに見守っていた。


「作戦は明日十五時に実行する――ヘリで接近し、屋上からロープで降下。地上は閃光弾と催涙ガスを使って一気に突入する。地下二階は地下駐車場スペースから潜入する」


 レナード少佐は立ち止まり、全員の目を見据えて言う。


「作戦遂行時に攻撃や抵抗があれば殲滅して構わない。彼らは反政府ゲリラである。作戦は明日の午後三時に実行する。全員、準備を整えておけ」

「Yes, sir!(了解)」


 ブリーフィングが終了し、隊員たちが部屋を出ていくのを見送りながら、ジェイコブ・レイヴンはレナード少佐に話しかけた。


「相手は手強い。海賊と暴走族だからな」

「所詮はアマチュアです。我々戦闘のプロが負けるわけがない」

「ああ、そう信じているさ。でも念のため、“切り札”を頼んでおいた」

「まあ、無いよりマシですがね」

「未来の居所はわかっている」

「ICチップですか?」

「いや、敵の中に内通者がいるからな」

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