集結
夜の帳が降りた漆黒の海に阻まれ、成す術もなく立ち往生した海斗と未来。
世界連合軍の兵士がアサルトライフルを二人に向けながら歩み寄ってくる。
「ここまでか……」と海斗がため息をついた。
その時、夜空を覆っていた雲の間から、月がゆっくりと姿を現した。
海斗がゆっくりと振り返ると、月明りに照らされた海の彼方から、複数の船影が出現する。海面を裂くように進む船団は、黒く塗装された鋼鉄の船体を持ち、エンジンの咆哮を響かせながら波間を滑ってくる。
そしてポールの先に掲げられた髑髏の旗が、風に揺れていた。
「あれは……」
海斗は目を疑うように先頭の船の甲板に立っている男を見つめた。
それは、海賊団の船長――三浦船長だった。
「カシラ!?」
三浦が手を上げて合図を送る。
「やれー!」
三浦が号令をかけると、甲板の陰から姿を現したのは巨漢の鬼丸だった。彼はおもむろに肩に担いだロケットランチャーの照準を定める。
耳をつんざく破裂音と共に、閃光が夜空を貫きハンヴィーに直撃する。爆炎を上げて空高く跳ね上がり、地面に叩きつけられ爆発する。
「What the hell!?(なんだ、あれは)」
悲鳴混じりの怒号が飛び交い、混乱している兵士たち。
黒塗りの海賊船が、轟音とともに海面から道路へ強引に突っ込んでいく。船首がアスファルトの路面に食い込むように乗り上げと、武装した海賊たちが次々と甲板から飛び下りて上陸する。
海賊たちは逃げる兵士たちを包囲するように展開していく。
海賊たちに取り囲まれた兵士たちはライフルを地面に捨てて手を上げ、何やら英語で叫んでいる。
瀧田が喚く兵士の口にライフルの銃口を突っ込む。
「ガタガタ言うんじゃねー。貴様らの命は俺たちのもんだ……Empty your pockets!(貴重品を出せ)」
兵士たちは恐怖に震えながら時計や身に着けた装備を差し出す。
「そいつらは殺すな!人質にするからな」
三浦船長の一声で、殺気だった海賊たちは冷静になる。
兵士たちは海賊たちの迫力に抵抗の意志もなく拘束され、道端に座らされていった。
三浦船長は海斗の前まで来て立ち止まった。
「助けに来てやったぜ」
「どうして、ここがわかったんですか?」
海斗の問いかけに、三浦は海斗の左手首の時計を指差した。
「そのGPS付きの時計をずっと追っかけてたんだよ」
「あ……なるほど……」
三浦船長は海斗の後ろにしがみついている未来を見てニヤリと笑った。
「彼女が助けたいと言ってた子か?」
「はい、未来といいます」
「よくやったな」と海斗の肩をポンと叩いた。
「ありがとうございます……」
三浦の優しい言葉に海斗は勇気づけられ、胸に熱いものがこみ上げた。
数時間後――
廃デパートの地下のアジトに海斗と未来、そして三浦船長率いる海賊たちが到着した。かつて食堂だった広い空間に、ストレイドッグスの十五人と海賊たち五十人が集結していた。
リーダーの荒木狂介とカシラの三浦船長の初対面となる。二人は固い握手を交わした。
「海斗を助けてくれて、ありがとう」
「子分を助けるのは当たり前さ」
「子分……海斗は俺たちの仲間なんだけどな」
「へぇ、そうかい……」
互いに睨み合い、一瞬の沈黙が流れる。
空気が緊張するなか、海斗が慌てて仲裁に入った。
「あの、ボクはどちらにも所属したつもりはないんですが……」
海斗の慌てた表情を見て、狂介と三浦は大笑いした。
「まあ、いいさ。ここは海斗の顔を立てて、協力させてもらうよ。これから世界連合軍と戦うんだろ?」と三浦が切り出す。
「そうだ、これは自由のための戦いなんだ」
「気が合いそうだな。暴走族と海賊が手を組んだら手強いぞ」
「心強い味方ができたぜ」
二人の様子を見て、海斗はほっと胸をなでおろした。
三浦が改めて手を差し出すと、狂介も笑ってそれを強く握り返す。
こうして、海賊と暴走族――ふたつの無頼の勢力が結託した。
横田基地――
漆黒の滑走路に、巨大な輸送機が四基のターボプロップエンジンが轟音を響かせ、着陸した。地面が震えるほどの重々しいエンジン音が夜を震わせ、ゆっくりと後部ハッチが開かれる。中から現れたのは、かつて米軍に所属していたデルタフォースの精鋭部隊三十人の兵士たちが日本の地に降り立った。
それを迎えたのは、黒スーツ姿の男――ジェイコブ・レイヴンだった。
「日本へようこそ」
隊長のレナード・バクスター少佐がジェイコブに敬礼する。
「日本でも反政府ゲリラがいるんですか?」
「ああ、ちょっと手こずっていてね。人質も取られている」
「人質救出が最優先ですか?」
「その通り……ただし、必要な犠牲は厭わない」
「お任せください。軽くねじ伏せてみせます」
レナード少佐は不敵な笑みを浮かべた。