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救出作戦

 廃デパートの地下にある、かつて雑貨が並んでいた売り場跡。天井の蛍光灯は半分が割れ、ちらつく光の下、鉄パイプの椅子に腰かけた四人の顔が照らされていた。


 海斗の呼びかけで、リーダーの荒木狂介、沙羅、そしてドクターが集まった。


 狂介はソファの背に肘をかけ、タバコに火をつけて煙を吐いた。


「そうか……お前が探してたのは、ドクターの娘さんだったのか」


 ドクターは小さく頷いた。眼鏡の奥の瞳は、覚悟を湛えた光を宿している。


「未来が連れ去られたのは、横田基地の近くにあるヴェイオス・バイオテックの研究施設です。私もかつてその施設で研究員として働いていました。構造は熟知しています」


 その言葉に、狂介が唇の端を吊り上げた。


「なるほどな。だったら話は早ぇ。俺たちでその会社に乗り込んで、ぶっ潰してやろう」


 狂介の大胆な提案に、沙羅が目を丸くする。


「ちょっと待って、相手は軍とつるんでるバイオ企業だよ。警備が厳しいに決まってるじゃない」


「確かに、玄関は突破できても、問題は地下にある研究室なんです……」とドクターは眼鏡を人差し指で押し上げながら続けた。


「そこへ行くには私の網膜認証と指紋スキャンが必要です。私が同行しなければ、そこまで辿り着くことすらできない」


 狂介は黙ってタバコをくゆらせていたが、ふいに視線をドクターに向けた。


「ドクター、せっかく逃げてきたのに、またあそこに戻るつもりなのか?」


 ドクターはしばし沈黙した――

 未来をコクーンに乗せて海に逃がした後、自らも研究施設から逃げ出した。科学者としての良心の呵責に耐えられなかったからだ。身体一つで逃げた先で路上で倒れていたところをバイクで通りかかった狂介に救われた。そして今、自分が生み出した”化け物の住処”に返ろうとしている。


「……未来を救うためならば、私は戻るしかないと思っています。それが、父としての償いです」


 その言葉には、一切の迷いがなかった。

 狂介は短く息を吐き、ニヤリと笑った。


「よし!行くと決めたなら、やるしかねえ。沙羅、全員に声をかけろ。作戦会議だ」


「了解!」


 沙羅はトランシーバーを取り出して仲間に連絡を入れ始めた。



 数時間後、廃デパートの元食堂フロアに、十数名のストレイドッグスメンバーが集結した。

 壁に掛けられた大型モニターに、ドクターが持ち込んだノートパソコンから出力されたヴェイオス社の施設構造図が投影されている。

 ドクターがメンバーを前にして、構造図を指差しながら口を開いた。


「ヴェイオス・バイオテックは、地上八階、地下十階になります。未来が収容されているのは地下八階の研究施設にある特別隔離室。セキュリティレベルが最も高く、網膜認証と指紋認証が必要です」


「その……地下十階にある区画はやたら広くないですか。何があるんです?」と村上が手を上げて質問する。


「あそこはビッグバグの養殖施設(ファーム)です。人工孵化したバグの幼虫が飼育されています。温度、湿度、光すべてが管理され、成長を加速させるためのバイオ培養液が使われている。つまり、地球上でもっとも危険な生物の巣窟です」とドクターが人差し指で眼鏡を押し上げて答えた。


 その言葉に、狂介の口元が不敵に歪んだ。


「そいつは最高だ」


「なにが?」沙羅が眉をひそめる。


「未来を助けるついでに、ヤツらの“主力兵器”にダメージを与えてやるんだ」


「ちょっと……無茶なこと考えないでよー」


 狂介は一歩前に出て、仲間たちを見回した。


「潜入は三日後の夜間。南側の搬入口が狙い目だ。警備の巡回に隙ができる時間帯がある。そこを突いて内部に侵入し、エレベーターを使って地下八階まで一気に降下する」


「でも、途中で警備員に見つかったら?」沙羅が尋ねる。


「チャーリーが調達した迷彩服を着て兵士に変装する。ドクターを捕らえた兵士という設定だ」


「バレないきゃいいけど」


「これより、各人の任務を割り振る」


 作戦は三班に分かれる形で進行することが決まった。

 潜入班、支援班、狙撃班──。


「監視ドローンが上空を巡回している。これが最も厄介だ。誰かが撃ち落とさなきゃ、俺たちの行動は丸見えになる」


 チャーリー・ブッカーがガムを噛みながら手を挙げた。


「ドローンは俺が落とす」


「チャーリー頼んだぞ。向かいのビルの屋上からスナイパーライフルでドローンを排除して、俺たちを援護してくれ」


「オーケー!」とチャーリーは大きくうなずき、黒光りするライフルの銃身を撫でた。


「沙羅、海斗、ドクター、お前たちは俺と一緒に研究施設に潜入する」


「はい!」と海斗が返答する。


「兄貴、俺も行かせてくれよ!」と手を挙げたのは村上だった。


「あんた、弱虫のくせに覚悟はできてんの?」沙羅がニヤリと挑発する。


「も、もちろんさ!」


「邪魔したら、ぶっ飛ばすからね」


「そんな……」


 二人のやりとりに周りから笑い声がこぼれる。


 狂介が全体を見回し、声を上げた。


「目標は、未来の救出。そして、可能であればバグの繁殖施設を壊滅させる。これは復讐のためじゃねえ。人類の未来のための戦いだ」

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