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海賊の島②

 酒宴の熱気は、深夜になっても冷めなかった。

 焚き火を囲んで海賊たちの笑い声が飛び交い、酒と肉と煙草の匂いが漂っていた。

 三浦が酒をあおりつつ、海斗に問いかけた。


「お前は、なぜ東京へ行くんだ?」


 三浦が酒を飲みながら、海斗に尋ねた。


「助けたい人がいるんです」


「止めはしねぇが、バグどもに襲われて死ぬぞ」


 三浦が煙草の煙をくゆらせながら言う。


「それでも行かなきゃならないんです」


 ウォォォォォォン……!


 突如、監視塔から警報サイレンが鳴り響いた。

 空気が震えるような不吉な音が聞こえてくる。


「ビッグバグだァァァッ!!」


 見張りの海賊が酒宴の席に駆け込んでくる。

 海賊たちの酔いも、笑い声も、一瞬で吹き飛んだ。


「東の海岸に群れが現れた!数十体規模だ!」


 三浦が即座に立ち上がった。


「よーし、迎え撃つぞ!全員、装備を整えろ!持ち場につけ!」


 海賊たちは、慌ただしく装備を整え始めた。


「無茶な、戦うつもりですか!」


 海斗は驚きを隠せなかった。

 軍隊ですら苦戦するビッグバグを、海賊たちが相手にするというのか?


「俺たちは海賊だ、奴らをやっつける装備は軍隊から盗んできた」


 三浦は大きなケースからロケットランチャーを取り出した。


「俺たちの戦いを見ておけ!」


 三浦はニヤリと笑って、砦へと走っていった。

 呆気にとられる海斗に、瀧田が防毒マスクとライフルを突きつけた。


「何をボケっとしてやがる。これでバグをやっつけるんだよ」


「え?僕も戦うんですか」


「当たり前だ!ボケッ」


 海斗は瀧田に連れられて、トーチカ(コンクリート製の防御陣地)へと連れて行かれた。

 瀧田が噴霧器でミントの香りを放つ液体を海斗に吹きつけた。


「何ですか?これ」


「虫除けだ。バグはハーブの匂いを嫌うんだ」


 トーチカでビッグバグを待ち構える海斗たち。

 夜の台場島が、不穏な空気に包まれていく。

 海の向こうに、黒い影が蠢いていた。

 闇の中から重い羽音が響き渡る。

 海の向こうから複眼を赤く光らせたビッグバグの群れが迫ってくる。


「来るぞ!」


 瀧田はライフルを構えて、狙いを定める。

 海斗も慣れない手つきでスコープを覗いた。


「銃、撃つの初めてなんです」


「スコープを見て、十字の真ん中に敵を合わせろ。あとは引き金を引くだけだ」


 かなり適当な説明だなと思いつつ、言う通りに海斗はスコープを覗き込む。

 ビッグバグ――体長三メートルを超える異形の宇宙生物。

 殻のような外骨格に覆われたそれは、牙のような鋭い脚を立て、赤い複眼をぎらつかせていた。

 異形の怪物たちが夜の闇を切り裂き、突進してくる。


「撃てぇぇぇぇぇッ!!」


 瀧田の号令とともに、一斉に銃声が鳴り響いた。

 海斗はライフルを構え、迫ってきたバグの頭を狙って、引き鉄を引く。

 銃声とともに、一体のバグが目から血を噴き上げる。

 しなし、ビッグバグはそのままの勢いでトーチカに体当たりしてくる。

 その瞬間、轟音とともにトーチカ全体が揺れて、コンクリートの破片と煙が天井から落ちて来る。

 瀧田は火炎放射器を持ち出し、窓から侵入しようとするバグを炎で焼き払った。

 業火が広がり、バグが炎が包まれる。


「気を抜くな!どんどん来るぞ」


 瀧田の怒声が飛ぶ。

 海賊のひとりが窓から顔を突っ込んできたバグに腕を噛みちぎられ、悲鳴を上げながら倒れた。


「ギャーッ!」


 床は飛び散る血で赤く染まっていく。

 海斗は必死でビッグバグに銃弾を撃ち込んでいく。

 撃っても撃っても数が減らず、焼き払っても煙の中からまた現れる。


「弾切れです!」


 瀧田が床に置いてあるマガジンの入った木箱を足で蹴とばす。


「こいつを使え!」


「はい!」


 海斗は木箱からマガジンを取ってライフルに装填する。


 ――ビッグバグとの戦闘は、三時間以上にも及んだ。


 やがて、東の空がわずかに明るくなり始めるころ――

 残されたバグの数体が、羽音を立てながら海の向こうへと飛び去っていった。


「……撤退したのか?」海斗がつぶやく。


 トーチカの中は硝煙と血の匂いが満ちている。

 瀧田がぐったりと床に座り込み、ライフルを置いた。


「ふぅ……終わったか」


 そこへ、三浦がライフル片手に現れた。


「よお、生きてるか?」


 瀧田が慌てて立ち上がる。


「カシラ!怪我人は出ましたが、死んだ者はいません」


「うむ、ご苦労様」


 三浦が海斗の方を向く。


「どうだ、バグとの戦いは?」


「……はい、大変でした。死ぬかと思いました」


「ハハハ、生き残っただけで上出来だ」


 三浦はポケットから煙草を取り出し、口に咥えるとマッチで火を点けた。


「なぜ危険を冒してまで戦うんですか?」


「おい、カシラに失礼だぞ!」と瀧田が嗜める。


 三浦は窓に歩み寄り、煙草の煙を吐き出した。


「この島はな……東京に近いせいで、しょっちゅうバグが襲ってくる。村の人口の半分は奴らにやられた」


 三浦は窓から見える光景を眺めていた。

 海面にはビッグバグの屍があちこち浮いているのが見える。


「三年前、俺たちが海へ漁に出ている間にバグの群れが村を襲った。島に帰ってきたら、そこら中に死体が転がっていた……まさに地獄だった」


 三浦の眉間に皺がより、表情が険しくなった。


「俺の妻と娘も奴らに殺されていた……だから、復讐しないと気がすまねぇんだ」


 三浦の声には、怒りと哀しみがないまぜになっていた。


「そうだったんですか……」


 三浦は海斗の方を振り返った。


「海斗、お前は東京に行きたいんだよな」


「はい」


「武器を渡してやるから、行ってこい。東京の様子を探ってきてくれ」


 海斗は目を見開いた。


「いいんですか!」


「カシラ……」瀧田が驚いている。


 三浦は海斗の肩を叩いた。


「生きて帰って来いよ」


 台場島の港では、海賊たちがボートに武器を積み込んでいた。

 三浦は腕時計を外し、海斗に渡した。


「GPSが付いてる。お前が生きてるかどうか、これでわかる」


「ありがとうございます」


 海斗がボートに乗ると、鬼丸がマガジンの入った木箱を抱えてきてた。

 無言で木箱を手渡し、鋭い目で海斗を睨んだ。


「死ぬなよ、お前を倒すのは俺だからな」


 思わぬ言葉に、海斗は拍子抜けしたが、笑顔で答えた。


「また、よろしくお願いします」


 鬼丸は無言で手を上げ、去っていった。


「気をつけろよ、青ノ島の勇者」


 瀧田が海斗の肩を叩いた。


「はい……お世話になりました」


 海斗はボートのエンジンを始動させる。

 プロペラが水を切り、船体が音を立てて進み出す。

 海賊たちに見送られ、台場島を後にした。


 ――向かうは、廃墟と化した東京。

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