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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
九つ目の世界
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固まる決意

 しばらく、トレースの語りが荒野に響いた。僕と出会ってからの旅路。リンクとエリアとの出会い。ミリアと出会ってからの旅に、ララと出会ってからの旅。ミリアとの別れに、再会。ルオとの邂逅と、命のやり取り。そして、リリーとの出会い。そのすべてを語り終えると、トレースは一息ついた。


 「とまあ、こんな感じだ」

 「ずいぶんとその、大変な道のりだったみたいだな」


 僕は何も返せなかった。大変な道のりになったのは、僕が弱いせい。僕が父親としてしっかりしていないせい。強くなったといっても、ほんのちょっと。僕は……まだまだ弱いし、父親としてやらなければならないことをしていない。


 「……ルウ、つらいことあったんだね……」


 リリーは僕を慰めるようにそう言った。


 「大丈夫だよ。僕よりも辛い思いをしてるララや、ミリア、君に比べたら、僕なんて」

 「ルウだって、つらい思いしてきたんでしょ?」

 「してないよ」


 そう答えたら、トレースが口を出してきた。


 「そう思うか? ボクから見たら主人は十分、苦労人だがな。生まれて数日で三人の娘を持つなど、普通の人間では不可能だ」

 「……僕は人じゃないから」


 だから、そんな無茶ができるんだと思う。


 「……まあ、その、なんだ。興味本位で聞いてすまなかった。約束は守る。じゃ、あんた、こっち来てくれ」

 「その必要はない」


 トレースはタクトに近づいて、彼の額に指を置いた。


 「うむ。こうするのか」

 

 あっさりと、なんでもないことのようにつぶやくと、彼女はそのまま、僕たちに手を振りかざした。


 「これで、君たちは不老だ。時の流れに逆らって、殺されさえしなければ永久に生きることができる」

 「ちょっとまって」

 「ちょっと待てよ!?」


 静止の声は、タクトとララの二人から上がった。ストラは何が起こっているかわかっているようで微笑んでいるだけだし、リリーは今の出来事が完全に理解の外のようだ。


 「なんだ? まずはララから」

 「勝手に不老にしないで。老いないということは、成長しないということ。ずっと子供のままは嫌」

 「ふむ。ならば、成長と同時に不老になるようにしてやろう」


 そういうと、トレースはララに手の平を向けた。


 「これでよし。次、タクト」

 「何をした? いきなり不老の魔法なんか使えるようになって……」

 「お前の記憶から、魔法に関することを読み取った。もうその魔法はボクでも使える」

 「記憶って……!」

 「許可はとっただろう?」

 「魔法を教えるっていっただけだ!」

 「同じことだ」

 「ああ、もう!」


 タクトは頭を抱えて唸りだした。トレースの理論が理解できないらしい。僕も理解できない。


 「……では、行こうか、主人。この世界にこの二人しかいないのなら、もうこの世界に用はない」

 「えっと……うん、そうだね」


 僕はリリーとララを見る。ララは無言でうなずいて、リリーは『もう行くの?』と目で僕に言っていた。


 「えっと、じゃあ、ありがとうございました、二人とも」

 「ええっ!? もう行くのかよ!? もっとゆっくりしていけよ!」

 「こら、タクや。あまり他人様に迷惑かけるでない」

 「ううー!」


 しばらく彼は唸っていたが、最終的には手を振ってくれた。


 「じゃあ、な。元気でやれよ」

 「うん。ありがと」

 

 僕は世界の扉を開いて、娘たちを先に故郷に戻した。

 僕がその次に戻って、トレースが最後に戻る。


 「じゃあな。そちらも、達者で暮らせ」

 「ああ」


 トレースが扉を閉めると、さっきいた世界とは完全に断絶される。いつもの、白黒チェックの床と、無限の壁と天井。そして、無数の扉。


 「では、次の世界へ行こうか、主人」

 「あ、待って。ミリアにも不老の魔法かけてあげてよ」

 「……わかった。しばらく待っておけ」

 「うん、待ってる」


 トレースは一瞬でどこかへ消えた。そういえば、僕にしか世界の扉は開けれないって言っていたような気がするけど、どうなんだろう。僕がいなくても、トレースはミリアに会えるのかな?


 「戻ってきたぞ。ミリアから伝言だ。『忘れないでいてくれてありがとうございます』とな」

 「ありがとう、トレース」

 「気にするな。さて、行こうか」

 「うん」


 僕はうなずいて、歩き出す。なんの問題もなく、ミリアにあえたようだった。よかったよかった。


 「……ねえ、ルウ」

 「なに?」


 なんだか釈然としない表情で、リリーが僕に聞いてきた。


 「異世界っていつもこんな感じなの?」

 「まさか。驚くほどに平和だった」

 

 その質問に答えたのは、ララだった。


 「は?」

 「私、てっきりあの二人が化物だったり、襲いかかってきたり、殺されそうになるのだとばかり思っていた。まさか、こんな世界があるなんて」

 「……ララも、大変だったんだね」


 リリーはしみじみそう言った。ララの話を聞いて、僕は心にズシリと重みを感じた。ララがこう思うようになったのは、僕のせい。楔のように、ララの言葉は僕の心をうがつ。仕方のないことだと、僕は、これは当然の罰だと自分に言い聞かせて、この痛みに耐える。


 「……お父さん」

 「何?」

 「自分を責めないで」

 「……今はまだ、無理だよ」

 「そう」


 ララの感情が感じられない顔が、僕を見据える。僕のすべてを知って、僕の心のすべてを見通す僕の娘。絶対に、何があっても守らなきゃ。この子にもう、絶望の心は見せない。

 ……たとえ、どんな手段を使ってでも、僕はこの子たちを守るんだ。


 「じゃ、行こうか」


 そばにあった世界の扉を開いて、新しい世界に入った。


 「うむ」

 「うん!」 

 「わかった」


 次の世界は、二人を幸せにしてあげれたらいいな。

 そう思いながら。

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