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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
九つ目の世界
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寂しさを募らせて

 なぜ、百年もの間一切老いることなく生きることができたのか。その質問に答えてもらうよりさきに、僕は答えを得ることができた。

 

 「ま、とにかくだ。ちょっと話せや。何しに来た?」

  「……観光?」

  「こんな辺鄙な荒野にか?  ……信じてやるよ、仕方ねぇな。ま、座れや、お客人。じいちゃん、イス」

 「わかっちょる」


 ストラさんがうなずくと、荒れた大地から土がせり上がり、それは誰が見ても七人くらいは掛けられるであろう長いすだった。おそらくそれは不思議な力か、魔法によるもので間違いなかった。多分彼らは魔法使いで、不老の魔法を使ったんだろう。


 「ほら、後ろの方に残してる嬢ちゃん達を呼ばんでいいのか?」

 「……え、あ、ううんと……。トレース?」


 どうして彼女達をよびたがるのか、二人の意志がいまいち読み取れず、僕は隣にいるトレースを頼った。


 「ま、問題はあるまい。二人を呼ぶぞ」


 ふっと、次の瞬間には彼女はいなくなった。


 「おまえさん、あの尊大な奴からえらく慕われとるようじゃが……まさか姉弟か?」

 「いえ、違います」


 なんでトレースと僕が姉弟だなんて発想になったんだろうか。


 「え、姉弟じゃねえの?」

 「うん」

 「……じゃあなんで似てんだよ」

 「似せたからな」


 後ろからいきなりトレースの声が聞こえて、僕は思わず飛び上がった。


 「と、トレース!? いきなり声を掛けないでよ……」

 「すまない。それと、二人を連れてきたぞ」


 僕は振り返って、娘の様子を見る。

 リリーは人見知りしたみたいでトレースの後ろに隠れてしまっている。対照的に、ララはおびえた様子もないし、警戒している様子もない。安全、ってことでいいのだろうか。


 「初めまして。私の名前はララ。よろしく」


 ぎこちない笑顔で、ララは言った。うん、やっぱりララが仲良くしようとするってことは、この人達はいい人だってことだ。


 「おう、よろしくな嬢ちゃん。俺はタクト。こっちはじいちゃんのストラ」

 「よろしくな、お嬢ちゃん」


 二人もララに笑顔を返す。


  「……」


  二人に悪意がないからだろうか、ララはどこか楽しそうだ。

  

  「……ララが初対面の人間に懐くところ、初めて見た」


  リリーはそんなララの反応が珍しいようだった。


  「……この人達は長い間生きていて、他人がいないから、変な欲にまみれてない。誰かと会いたい、っていう気持ちだけが耳に聞こえるけど……」


  そこまで言うと、ララは一度目を閉じた。


  「……綺麗な叫び。殺意を怒鳴り声に例えるなら、この人達のはソプラノの歌声」


  まるで、二人の心を楽しんでいるかのような、そんな言い草だった。


  「驚いたな。心が聞こえるのかい、お嬢さん」

  「……うん」

  

  ストラさんの問いに、彼女は素直に答えた。


  「……ワシ達がなぜ長生きなのかも、わかるか?」

  「……」


  すっと、ララは目を開け、二人の姿を見る。僕やトレースに向けたみたいな、全てを見透かすような目で。


  「……魔法。信じられないけど、あなた達は世界の理を捻じ曲げるぐらい強力な魔法を使って、不老になった。……違う?」

  「違わんよ」


  ストラさんは笑顔で言った。予想通り、彼らは魔法を使ったんだ。


  「あの、ストラさん」

  「ん?」


  僕はあることを決心し、ストラさんに話を切り出す。了承してくれるだろうか。


  「その魔法、教えていただけませんか?」

  「……ふむ。構わんが……習得にはかなりの時間が」

  「ボクがいるぞ」


  ストラさんの話を遮って、トレースは自分の胸を自慢げに叩いた。


  「お前さん、何かもっちょるのか?」

  「ボクは持ってない。むしろ、主人に所持されていると言った方が正しい」


  そうトレースが言うと、タクト君が立ち上がった。


  「……まさかあんた、魔法の道具か?」

  「よくわかったな! ボクは至高にして究極の道具、トレスクリスタル!  我が主人、ルウ・ペンタグラムに恒久の忠誠を誓う万能の道具だ!」


  名乗りが長いなぁ……。

  僕は少し気恥ずかしさを感じながらも、タクト君を見る。彼は何かワクワクしているような感じだった。


  「すげぇ、すげぇ! 万能の道具に、心を見透かす子供! そんな二人を連れてるお前、何者だよ!?」

  「え、ぼ、僕?  僕は……ただの父親だよ」


  いや、ダメな父親かな。まだ守られてばかりで、誰も守れてないんだから。


  「父親!?  その歳でか!?  やっぱすげえ! なぁ、さっきまでの無礼全部許してやるから、色々話してくれよ!」

  「え?」


  いきなりの言葉に、僕の目は点になった。


  「俺たちは不老の魔法使った最後の人間だ。あとはみんな死んじまった。だからな、俺めちゃくちゃ暇なんだよ! 旅の話を聞かせてくれ!  異世界の話を教えてくれよ! 代わりに不老の魔法教えるからさ!」

  「な、なんでそのことを……」


 なんで異世界人だということがばれたのだろう。


  「ワシらがこの世界最後の人間なのじゃ。魔法のせいで老いず、外敵もないから死なず。この世界に存在する人間はがいないなら、あとは外の世界から来たと推測するしかなかろう。少しで構わないから、話してくれんかの?」


  そこまで言うなら、話そうかなぁ。僕はそう思って、口を開こうとした。その時。


  「よし。では話そう。ボクと主人が出会った時から、主人の旅は始まるのだ。そう、それは忘れもしない一ヶ月前……」

  「……」


  勝手にトレースが話を進めていた。まあ、いっか。楽しそうだし。

  僕はしばらく、吟遊詩人のように僕たちの旅路を話すトレースの言葉に、耳を貸していた。


  ……そこにつむがれる、残酷な物語を。

  


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