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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
八つ目の世界
92/106

新しい家族

  ララは今どうしているのだろうか。殺されたりしていないのだろうか。今頃トレースとミリアはどうしているのだろうか。


  「……ルウ。これからどうするの?」

  「え、あ……うん」


  僕が今ここにいない家族のことを心配していると、手を繋いでいるリリーが不安そうな眼差しを僕に向けていた。


  「大丈夫だよ、考えてるから」

  「本当に?  実は行き当たりばったりだった、とか言ってもあたし怒らないよ?」


  絶対嘘だ、ということが雰囲気でわかった。といっても本気で怒るわけじゃなく、軽い冗談みたいに怒る程度だろうけど。……それにしても、攫われて殺されそうになったというのに元気だな。……まあ、陰鬱とされるよりは子供らしくしてもらった方がいい。


  「別に、ちゃんと考えてるから」


  多分、トレースが。

  僕は助けるまではしっかり考えていたんだけど、助けてからのことは全く考えていなかった。きっとトレースが回収に来てくれるだろうな、という淡い期待が僕の考えを鈍らせている感覚がする。


  「疑わしい。……けど、もういいよ。これ以上言って嫌われても、殺されるだけだし」

  「そんなことしないよ」


  僕はそう言うけど、リリーは疑いの目を僕に向けるだけだった。


  「……気になったんだけど、ルウはどうしてあたしを助けようとするの?」

  「え?」


  いきなりの質問に、僕は言葉が見つからない。というか、リリーの中じゃまだ助かってないんだ。


  「あたしに何をするつもり?  あたしに何をして欲しいの?」

  「別に、そんなつもりじゃ……」

  「あたしを便利なテレポート手段として手元に置いておきたいの?」

  「……そういうわけじゃない……!」


  あまりに懐疑的な言葉に、僕はたまらずそう叫んでいた。

 

 「僕が君を助けたのは、君が死んでしまうと知って、放っておけなくなったから! それだけだよ! 君が能力者だとか、特別だから、だとか、そんなのは関係ない! 僕は、僕は……」


 たとえ、リリーが何の能力を持っていないとしても、僕はこの子を助けただろう。助けられる人は助ける。僕はそう決めたんだ。……そうしないと、本当に守りたいときに、守れないかもしれないから。


 「……本当かな」

 

 リリーは視線を地面に下ろして、呟くように言った。静寂が包む森の中では、その声ですらはっきりと聞こえる。


 「本当だよ。……信じて」


 僕は真摯な態度を示した。少しでも、信頼してもらえるように。


 「…………。っ。……ごめん」


 視線を地面に落したまま、リリーは怯えたように一歩、後ずさった。


 「……そう」


 僕はそれ以上、何かを言おうとするのをやめた。ここで躍起になっても……きっと、余計に信頼を失くすだけだと、感じたからだ。


 「……主人」


 重苦しい沈黙が流れようとした時、後ろから声が聞こえた。ある種の期待を胸に、僕は後ろを振り返った。するとそこには、得意げな顔で微笑んでいるトレースと、辛そうに眉をひそめているミリア、何の感情も感じさせない無表情のララの三人がいた。きっと瞬間移動でやってきたのだろう。


 「ミリア、ララ!」


 僕はうれしさのあまり、声に出して二人の名前を呼んだ。


 「お父さん……」

 「……」


 二人の反応は似通っていた。どちらも、表情を曇らせている。……いや、ララは無表情だ。けど、なんだか雰囲気って言うのかな、表には見えないララの表情が曇っている。そんな感覚がした。


 「……」


 そう思った僕に何か見たのか、ララは僕の顔をまじまじと見つめた。


 「……何、ララ。なんでもいいから、言ってみて」

 「…………なんでも、ない」


 ふるふると、ララは首を振った。それが回答の全てだとでもいうように、ララは誰もいない後ろを向いた。……心を見たくないのかな。そんな風に僕は考えた。


 「お父さん、ちゃんと助けられたようですね」

 「まるで助けられなかった未来があるみたいじゃないか」

 

 僕はひょうひょうとした態度を取った。……強く見せたい。そんな思いからの行動だった。


 「……ありません。……が、お父さんがそう言う未来も……また、なかったのですが」


 ミリアは少し、戸惑っているようだった。未来がめまぐるしく変わった……のだろうか?


 「リリー? お父さんに自信をつけたのは」

 

 急に名前を呼ばれて、後ろにいたリリーが息をのんだ。……知らない人からいきなり名前を呼ばれたら……さすがに、警戒するか。それが、身の危険を感じた直後だったなら、なおさら。


 「……お姉さん……あたしの、名前を……」

 「私には、リリーが自己紹介をしてくれる未来が、見えてるからね。私はミリア。よろしくね」


 ミリアのため口に、僕は少し驚いた。ミリアはずっと丁寧語しか使わないイメージがあったんだけど……。さすがに、年下にまでは使わないのかな。


 「……ミリアお姉ちゃん、っていうんだ。……もしかして、未来が見えるの? 冗談とか、嘘とかじゃなくて?」

 「ええ。私には全ての未来が見えるの。……もちろん、ついさっきまで、あなたが殺される未来も、見ていたわ」

 「……」


 ミリアの言葉にリリーは恐怖を感じたのか、一歩、二歩と後ずさった。


 「……どうして、それを私に言うの」

 「もう見えないから。あなたは、もう死なない。……すくなくとも、この世界にいる間は」

 「……え」


 リリーはきょとんとした。


 「あなたは、もう死なないの。いつか殺されるかも、と怯える必要も、死なないためにはどうすればいいのかを考える必要もどこにもないわ。……あなたは普通の子供のように、親や姉に頼って、成長していけるのよ」

 「……あたしに、親も姉もいない。あたしは一人。……ずっとずっと、独り……」


 普通の子供になんてなれない。リリーの言葉には、そんなあきらめがあるように感じた。親もいない。姉や兄もいない。……どうすればいいんだろう? 


 「じゃあ」


 リリーの方を向き、ミリアやララの時と同じように切り出そうとして、僕は言葉を止めた。

 旅をしている間の記憶が地獄だと言いきったミリアに、旅をしたせいで感情を失くしたララ。二人のことを考えて、僕は自信が持てなくなった。リリーを家族に迎え入れて、それで僕は彼女を幸せにできるのかな。リリーは本当に、僕と一緒に来ても大丈夫なのかな。


 「……じゃあ、なに?」

 「あ……。な、なんでもない、よ」


 僕はあわててそう言った。この子を連れてはいけない。家族にしてあげたい。でも……僕じゃ、力不足なんだ。


 「お父さんらしくありません」

 「……え?」


 後ろから厳しい声を浴びせられ、僕は驚いた。


 「お父さんはもっと奔放でよいのです。お父さんは私の幸せな世界を奪った。でも……。妹と、そして、リリーを助けることができた。ララだって……。今は少し感情が変になってますが、もしここに連れてこなければ、そもそも生きていることすら、できなかったのです」


 でも、と僕は思う。たとえ助けられても、幸せにできなきゃ……意味ないじゃないか。


 「私は、違う世界に行って、幸せになれました。ララはまだですが、リリーも、この世界を出ればきっと、幸せになれるかもしれません」


 ミリアの言いたいことは、わかる。でも……。


 「……もっと率直に言いましょう。リリーの居場所は、この世界に在りません」

 「……そんな」


 リリーが絶望したように言った。全ての希望が断たれた……そんな表情をしている。


 「でも、他の世界なら、あります。……きっと」


 最後に揺らいだのは、他の世界の未来は見えていないから、だろうか。


 「だから、お父さん。リリーを……」

 

 最後は、懇願するような声だった。もしかして、と僕はあたりをつける。もしかして今の彼女には、僕がここにリリーを残して、そのせいでリリーが不幸な目に遭う未来が、見えているのかな。……僕はどうするべきだろうか。答えを求めるように、ミリアの隣にいるトレースに視線を向ける。


 「好きにしろ。ボクはキミの全てを肯定する。たとえその子供をこの世界に残し、見捨てる選択をしたのだとしても……ボクは、責めん。むしろよくやったと誉めてやろう」

 「……もし、連れていくと言ったら?」

 「それでも、ボクは責めない。よく決断した、と誉めよう。たとえキミがどんな選択をしようとも……ボクは、キミに従う」


 生まれたすぐからそばにいる彼女の言葉が……僕の背中を後押しした。


 「リリー」

 「……何」


 もう何も希望が残されていないと思っているリリーに、僕はしっかりと言う。


 「リリー、僕と一緒に旅をしよう。家族として」

 「……旅? どこを? この世界に、もうあたしの居場所は……ないのに」

 「じゃあ、別の世界なら? 僕は別の世界に行く方法を知ってる。君は生きていけるんだ」

 「……本当に?」


 リリーは顔をあげた。まだ、不安いっぱいな表情だった。


 「うん。僕と、トレース。ミリアに、ララ。みんな家族で、仲間だよ」


 あまりうまい言葉が思いつかなくて……ただ率直に、僕が思っていることを彼女に伝えた。


 「……死ななくていいの? あたし、まだ生きていけるの?」

 「うん」


 僕は力強くうなずいた。


 「……じゃあ、行く。よろしく、ルウ」

 「うん。よろしくね、リリー」

 

 僕はリリーに手を差し出した。さっきと同じように。するとリリーは、ゆっくりと、でも確実に微笑んで……僕の手を、握り返した。


 「……よし、じゃあ行こうか」

 

 ……そう言えば、学園長さんに挨拶とかしなくていいのかな、と僕はちらりと思った。


 「……大丈夫」

 「え?」


 今まで沈黙していたララが、こちらを向くことなく、言った。


 「大丈夫。あの人は私たちがいなくなることを覚悟してた。もう、この世界に来ることもないと思うし……。このまま消えてしまった方が、色々と都合がいいことも、あるし」

 「都合いいこと?」


 何だろう? ララとリリーが死んで、都合のいいことなんて……。


 「……お父さんは、知らなくていいこと」

 「また、内緒話かな。いい加減、知りたいよ」

 「もう少し、大人になったら」

 「……わかったよ」


 なんだか、立場が全然逆なんだけど……。今の状況だと、確実にララの方が大人だからなぁ。なんにも言えないよ。


 「よろしくね、リリー。お姉ちゃん、って呼んでいいよ」

 「トレースだ。ルウのしも……仲間だ。呼び捨てでいい」

 「……私の自己紹介は、いらないね」

 「……うん、よろしく、お姉ちゃん、トレース、ララ」


 四人の会話を聞きながら、僕は異世界の扉を虚空に生み出す。緑の多い森の中で、急に現れた扉はいかにも不似合いで、異世界に旅立つには絶好の雰囲気を醸し出している。


 「それじゃあ、リリー。ようこそ、ペンタグラムへ」


 僕はそう言うと、扉を開いて故郷の世界へと戻った。トレース、ミリア、ララ。それに加えて、リリー。僕の家族がまた一人増えた。絶対に、幸せにしてあげなくちゃ。


 


 

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