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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
始まりの世界
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初めてのお店


 「これと、これと、これ……そう、これもだ。……うん、よろしく頼むよ」

 

 料理店街の南に、商店街はあるそうだ。

 クックのお料理屋さんがある路地裏を抜けて大通りにでたあと、すぐに来た時とは反対の方向に曲がり、そのまままっすぐに進んでいくとここに来た。土地勘のない僕の感覚としてはそんな感じである。方向と方角しか頼るものがないので、不安と言えば不安である。が。


 「……そうそう、これも旅には必要不可欠。人類の知恵、保存食!」

 

 トレースがいるので僕はゆっくりゆったりと観光を楽しめるというわけだ。

 さっきからいろいろと肉や魚を買い込んでいるようだけど……一向に買い物を教えてくれる気配がない。


 「……ねえ、トレース?」

 「なんだ、ご主人様」

 

 あのね。こんなに大勢人がいるところでご主人様とか、言わないでよ。恥ずかしいじゃないか。


 「いつになったら、教えてくれるの?」

 「買い物か?……今からやるから、見ていてくれ」

 

 トレースはニカリと笑って言った。


 「おや?その子買い物の仕方も知らないのかい?」

 「え、あ、いえ?知らないわけじゃないんですけど、今いち経験がなくって」

 「?」

 「長い間人里を離れていましたので」

 「ああ。そういうわけかい」


 どうやら、この『世界』では若者が人里離れた場所に長い間いることはそうそう珍しいことではないらしい。


 「どうだった?」

 「え?」

 「『外』はどうだった?怪物がうじゃうじゃいて、怖かったろう?」

 「……まさか。緑のきれいな場所がたくさんあって、素敵でしたよ」

 「そうなのかい?へえ、知らなかったよ」


 どうもこの人は外は怖いところだと思っているらしい。どうしてかは知らないけど。


 「……ご主人様、どうも国王が外出禁止令を発布して、国民は外に自由に出れないらしい」

 「どうして?」


 トレースが『お金』を女の『店主』に渡す。


 「……ひとつ、ふたつ……って、ガレオン金貨二枚もいらないよ。一枚で十分!おつりも忘れちゃだめだよ!」


 ちゃり、ちゃり、と銀色の『お金』が何枚もトレースに渡される。


 「どうも国王は外を『怖いもの』『恐ろしいもの』としたいらしいな。国民に良心的な王のイメージを植え付けたいのだろうか?」

 「だろうか?って訊かれても。僕は国のことなんて知らないよ」

 「だろうね。でも、この政策だけが変だな?」

 

 トレースは女の『店主』に見向きもしないで僕と話している。……失礼じゃないのかな?


 「変って、何が?て言うか『店主』さんの方向いてなきゃ失礼なんじゃない?」

 「……ボクにとったらキミと目を背けて会話する方がよっぽど失礼だ」


 そうトレースが言うと、女の店主はあはは!と声高に笑った。


 「へえ、あんたら面白いねえ?一体どんな関係だい?」

 「ボクとルウは主従関係だ」

 「……へえ?」

 「ちなみに、ボクが奴隷だ!」

 「……へ?」


 ぽかんと呆けた顔をした女店主。


 「……何を呆けている?」

 「いや、あんたそれにしちゃ主人に態度がでかいって言うか」

 「ルウが敬語をやめろと言ったのだから、やめているだけのこと。敬語を使えと言われたら今すぐにでも使う。……では、買い物もしたし、次の店に行こうか、ご主人様!」

 「ご主人様はやめてよ……」


 手をつかまれて引っ張られる僕が最後に見た女店主は、やれやれとでも言うように首を振って、それでもほほえましそうに僕らを見ていた。 


 「今の店は八百屋と言って、いろんなものを売っているところだ。あれがもう少し大きければまた別の呼び方になるのだが、それは今は置いておこう」

 「ね、ねえ!」

 「なんだ?」

 

 引っ張られはしているものの、早さは僕に合わせてくれているのでついて行くのにやっと、とか言うことはないから楽だけど……。少し、恥ずかしい。

 

 「ん、少し早かったか?それとももう少し人ごみを体感したかった?これだけ美しい人並みなのだ、長い間眺めていたいと思うのはわかるが、今は少し急いでいるのだ、すまないが後にしてくれないか?」

 

 さらにゆっくりになって歩きやすくはなったけど、手は離してくれない。……もういいや。


 「急いでるってどうして?それと、国の政治で変って、何が?」

 「急いでいるのは早くしないと店が閉まってしまうからで、国の政治が変なのは、国外無断外出禁止令を発布した理由だけがどうもあいまいだから、だ」

 「……あいまい?」


 ……政治ってなぜか妙に気になる。やっぱり政治は僕らの旅にダイレクトにかかわってくるものの一つだからね。


 「そう。他の法令はしっかりとした理由……たとえば、補償を確実にするため、とか財源確保のため、とかあるのに対して、国外無断外出禁止令だけは、『国民の恐怖をやわらげるため』なんてあいまいなものだ。『国民の安全を守るため』ですらないというのは、何か引っかかる」

 「……ううん、気になるのは気になるけど……」

 「ちなみに、この法令がある限り僕らは国の外に出れない」

 「そんなっ!?」

 「国の中に一度でも出てしまえば法律はもう適用される。……入国だけは今まで通り自由だから、簡単に入れたんだろう。……まったく、まるで罠にはめられたようだよ」


 ……ううん。たしかにこれ、罠みたいだね。


 「……今はそんなことはどうでもいい。ここから行く店のことなんだが」

 「何なに?面白いところ?」

 「……ううん、キミの趣味嗜好がわからない以上、面白いかどうかは保証しかねるが……」

 「しかねるが、何?」


 きっと僕の興味がわくように言ってくれるんだろうな、なんて期待しながら、僕は訊いた。



 「この先、どこに行こうが必ず必要になるものを、今から仕入れに行こう」



 トレースは僕の期待に外れることなく、そんなことを言ってくれた。

 ああ、なんなんだろう?楽しみだなあ……。

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