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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
八つ目の世界
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心散る選択

 「お父さん……。私は……もう、覚悟……できました。だから……決断してください……」

 「はい、それまで。これ以上鳴いて撃たれたくなかったら……ね?」

 「……」


 ララはそれきり黙ってしまった。僕が呼びかけても、きっと何も答えないんだろうな。


 「さ、今のが最終ヒント。これでわからなかったら、君の娘の全ては、ズタズタになるね」

 「……」


 僕はルオに返事をすることも忘れて、必死になって考えを巡らせる。

 今のが最終ヒント? ララが、覚悟ができたってこと? じゃあ、決断って何?


 「……そう言えば、オリジン。トレースは?」

 「すみません、ご主人様。逃がしました」

 「逃がした?」

 

 最初のヒント……。学園長の死を選べばすぐに彼は死んで、ララを選べば地獄の苦痛が長く続く。……これが一体何だって言うんだ? 次のヒントにしたってそうだ、何があってもララをすぐに殺さないって……。ヒントどころが、まるで救いがないじゃないか。


 「はい。戦闘中、吹き飛ばしたはずなのですが、それから先姿を見失いまして」

 「……見失った? 君が?」

 「はい」

 「……今、ルウの思考にトレースが介入している様子は?」

 「ありません」

 「ということは、今彼は独力かい?」

 「間違いなく」


 最終ヒントのララの決意に僕の決断って……。ああ、もう! わかんない! 本当に誰も死なない道なんて用意してるの!? ただ僕をいたぶって楽しみたいだけじゃないのか!?


 「……ふうん。で、その子を抱いた状態で、どれくらい戦闘できる?」

 「ほぼ、不可能かと」

 「どうして」

 「ご命令を達成するためには、私が持つほぼ全力の魔力をこの娘の殺害に使用するからです」

 「……つまり、君の考えた残酷な方法って、それぐらいのことなの?」

 「はい。戦闘用の魔力を蓄えている余裕はありません」

 「……ま、いいか。気づく様子ないし」


 ピクリ。今、何か変なところがあった。なんだ? 何か、引っかかるような……。


 「もし、今奴と戦ったとして、どれくらい持つ?」

 「ものの十分も持たないでしょう」

 「それは、俺が加勢したとしても?」

 「はい」

 「……ふうん」


 なんだ? かすかな、違和感が……。


 「……今、その子どんな状態?」

 「現在心を閉ざしています」

 「心を閉ざす?」


 そういえば……なんで今から殺す人間のことを、こんなにも知りたがってるんだ? 僕を苦しめる程度の意味しか持たない、と言っていた人間のことを聞きたがるんだろう? そもそも、どうしてこんな会話の流れに……?


 「はい。気絶はしていませんが、何も感じず、何も反応しない状態です」

 「ふうん。で、君が殺害を開始したとして……その子、完全に心を失くすまでどれくらい?」

 「……一時間程度でしょうか」

 「意外と持つね」

 「私が持たせますので」

 「ふうん。君の力使っても、一時間しか人格を保てないのか」

 「はい。それ以降は何をしても、ただの生ける人形ですから、何の反応もありません」


 そう、二人は、というかルオは、オリジンに『今の状態でトレースと戦ったら』という仮定を聞いた。なんでそんな仮定が出てくるの? 僕は、明確に言えば僕とトレースは、二人に逆らえない状況なのに。


 「ちなみに、完全に心を失くして……元に戻るのかい?」

 「いいえ。たとえ人並みに生活できるようになったとしても……元にはけして戻りません。些細なことで殺されかけたことを思い出し、外に出ることもままならいかと」


 なんでルオは、『元に戻る』なんて聞いてるの? 殺すつもりなのに。……待てよ。


 「じゃあさ、心が消える寸前で寸止めしてさ、時間を置いて責め続けたら……どうなるの?」

 「……それは、なんとも。狂うか壊れるか心が死ぬか……。どっちに転ぶかは、人それぞれでしょう」

 「あっそ」


 時間を置いて? ……あ。 気付いた。わかった。わかった。わかった! わかった、誰も死なない道。

 ……で、でも、こんなことをしたら……。ララが。

 でも、これしかない。これしか道は……。


 「……二人、とも」

 「うん?」

 「はい?」

 

 『地獄の苦しみが長い間』『何があってもすぐには殺さない』『ララの覚悟』『僕の決断』『僕が後悔する』『ララを抱いたままの戦闘』そして……『ララが人でいられるまでの時間』。


 全部の事柄は……。僕に、ある道を示した。……血に濡れて、真っ赤に染まった道だけど。これは、親が選ぶような道じゃないけど。彼らの気まぐれ一つで潰えてしまうような細く頼りない道だけど。……でも、これしかない。


 「トレース、呼んでもいいかな」

 「相談はナシ。これが条件」

 「うん。……トレース」

 「……決めたのか、主人」


 僕が呼ぶと、彼女はすぐに、僕の隣に現れた。


 「ずっと、潜んでたの?」

 「……すまない、主人」

 「まあ、いいよ」


 本当にこれで正しいのだろうか。もっと道はないのだろうか。本当にこれしかないのだろうか。


 「……で? 答えは決まったかい?」

 「………………………うん」


 誰も死なない。この方法なら、誰も死なない。これは、ゲームなんだ。ルオも言っていたように、ゲーム。僕を苦しめるだけの、ゲーム。

 本当に、言われたとおりになった。本当に、僕は今後悔してる。なんでこんな道しか選べないんだろうって、なんでこんな最悪な未来しか読みとれないんだろうって。ごめん、ララ。


 「……僕は……ララの死を、選ぶよ」

 「そうかい」

 「では、ご主人様」

 「……ああ、オリジン、やれ」


 オリジンの手が光って、ララの表情が苦痛に彩られ始めた瞬間、僕は叫んだ。

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