終焉に至る選択
ララと、学園長。二人のうちの、一人かを選べ。……そんなの、選べるわけがない。
「ああ、そうそう。もちろん、じいさんの死を選んだとしてらすぐに殺してあげるから。男の叫び声聞いてても楽しくないじゃん」
言わなくてもいいことをルオは言う。とにかく、何とかしないと。トレースは一体どこ? すがるように彼女の姿を探して……僕ははっとなる。
なんでこの状況でトレースに頼るんだ、僕は。なんとかしなきゃいけないのは、僕なのに。どうにかして助ける方法を考えなきゃ。
僕とルオ達との距離は十歩程度。本気で走ったとしても一秒はかかる。それに、瓦礫が地面にいくつも転がっているせいでまともに走れないし、足場も確保しづらい。かといって瓦礫の崩落を期待できるかと言えば……天井からはもう空が見えるし、二人が混乱するほどの崩落は見込めそうにない。じゃあ、トレースに何かを命令する? 駄目だ。何かさせようとしても、きっとオリジンが気付く。こ、この状況ってもしかして……。
「……」
「おや、どうしたの? 泣きそうな顔をして。選べなかったの?」
八方ふさがり? 何もできない? 本当に、僕には選ぶことしかできないの?
「なにをためらっているの? 別に、君が死ぬわけじゃないんだよ。勝負にも何にも関係ない。ただの遊びだよ、こんなの。気軽に選んじゃいなよ」
「選べるわけないじゃないか……!」
僕がどちらかを助けると言えば、どちらかが死ぬ? しかも、すごく苦しめて? そんなの、僕は、選びたくない……。
「……ふうん。悩むのはいいよ。でも、待ってる人のことも考えてよ。このまま黙ってたり、時間稼ぎをするつもりなら……」
にやにやと笑いながら、ルオはララを指さした。
「殺しちゃうよ、この子」
「ルオ!」
僕はコンシャンスを握りしめて、斬りかかろうとした。……でも、オリジンがピクリと反応したのを見て、踏みとどまった。
「……そうそう。君はかわいいかわいい娘の命を握られてるんだから。少し怒ったくらいで突撃してきちゃだめじゃないか」
「……ごめん」
「ものわかりがいいね。そういうのは好きだよ。そうだね、じゃあご褒美に、誰も死なない方法のヒントを教えてあげる」
「……ヒント?」
そんなものが、あるのか? もしかして、仲間になれ、とか……?
「もし、君がじいさんの死を選べば、すぐに彼は死ぬ。でも、娘の死を選べば……。彼女は長い間、地獄の責め苦を味わうことになるだろうね。それこそ、幼い子供の心なんて簡単に弾け飛んじゃうぐらいのすっごい苦痛。見ている俺らが目を背けたくなるような、そんな凄惨な光景。もし、君が娘の死を選べば、きっとこの子は……生まれてきたことを、君の娘になったことを後悔しながら、あるいは恨みながら死んでいくんだろうね。……これがヒント。わかるかな……?」
何がヒントだ? こんなの、ただララの殺害計画を述べただけじゃないか! なんにも救いになってない!
「……君はこのヒントの意味がわかった瞬間……これしかない、と思うだろうね。そして同時に、これしかないと思う自分を、ものすごく責めると思う。……それでいいんだ。何にも知らないガキのままでいていいだなんて思っている勘違いバカは、痛い目見た方がいいんだよ」
「そんなこと、思ってない!」
僕は子供のままでなんて、いたくない! 早く大人になりたいんだ! それなのに、どうして……!
「ふうん、そう。でも、君は自分で気づいて自分で後悔して……そして、それを選択するしかなくなるんだよ」
「なんのことなんだよ!? 僕にはわからない!」
なんで? さっきの言葉に何が隠されてるって言うの!? 何も隠されてないじゃないか! 暗号? それとも、何かの隠語だとか? でも、それにしては意味が通り過ぎて……。
「……変な方向に進んでいってるっぽいから訂正しておくけど、さっきのヒント、暗号とかそういうんじゃないから。よく考えれば……わかることだよ」
「……意味が、わからない……」
もう、ダメなの? 僕は、選ばないといけないの? 娘の命か、他人の命かを。
「……はあ。出血大サービスだよ? たとえ何があったとしても、俺はララをすぐに殺すつもりはないね。地獄の苦しみの中で殺してやる」
「なんでそんなことするの!? ララは関係ないじゃないか!」
「関係なくとも、君を苦しめるためだよ。さっきも言ったろう? 君を見てるといらいらするんだよ。わかるかい、ルウ」
「わからない!」
なんでそこまで人に冷酷になれるんだ、ルオは!
「……はあ。全く。勘が悪い、意志薄弱、おまけに子供。今までよく生きてこれたね。感心するよ。さあ、答え合わせ……いや、最後のヒントだよ。これでわからなきゃ……。君は、本当に後悔することにある。……ま、わかっても後悔するんだけど」
見下すように嗤うと、ルオはオリジンの方を向いた。
「オリジン。その娘の手を挙げろ。俺の心を、見せるんだ」
「了解」
「な、何を、ルオ!」
「いいのかい? 俺の方に突撃してきて」
「!」
僕は、また踏みとどまざるをえなかった。
「……う……あ……」
ララの声しか聞こえない。ララの様子は、ルオが目隠しになって、まるで見えない。何? ララ、何をされてるの!?
「……あ……い、いや……。お、お父さん……。わ、私は……」
次の瞬間にララが言った言葉は、僕を戦慄させた。