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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
八つ目の世界
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終焉を導く戦い

 瓦礫と化したフォーリナーの魔法学校で、僕とルオは幾度となく斬り結んでいた。僕の背にはララと学園長がいるから、ひくことはできない。かといって、前に埒が明くかといえば……。


 「……っ!」

 「なかなかいい目だよ。でも、ダメ。ダメダメだよ。君はまだ足りない。俺に勝つには、あれが足りない」


 全く、埒が明かない。左のコンシャンスで、ルオの頭をめがけて思い切り振りおろす。そうするとルオは、何もかも見えているかのように事前に反応して、しっかりと余裕を持って防ぐ。……っ。こんな調子じゃあ……。


 「どうして……。君は未来が見えるの?」

 「見えるわけないでしょ? 君のは読みやすいだけ」

 「……そんなバカな!」


 僕は全力で振ってる。速度はかなり出ているはずなのに。どうして見切られるの? 今度は背後に回って、心臓めがけて本気の突き。これもやっぱり、簡単に避けられる。


 「君のは確かに速くて、視認すらしづらい。けれど、けれどね?」


 ルオは笑いながら、思い切り剣を僕の脳天めがけて振りおろす。


 「うわッ……!」


 ぎりぎりのところで、ガードが間に合った。ルオのマリシャスがあとほんのちょっと早かったら、僕は……死んでいた? そのことに気付いたとたん、体が動かなくなった。

 笑いながら僕と戦うルオが怖い。完全に、僕を殺すつもりなのに。それなのに、楽しそうな笑顔。どうしてそんな表情を浮かべられるのか、全く分からない。


 「君は俺の急所に攻撃する時、ためらうんだよ。たいして切れ味もないこの剣で、何をためらうというの? 思い切り頭を叩いたとしても、せいぜいちょっと割れるだけだよ。それに、さっきの脳天への攻撃……全然力こもってなかったし」

 「そ、それでも……」


 それでも、頭なんて叩いたら死んじゃうじゃないか。さっき頭を狙ったのは、防ぐとわかっていたから……。防がれるって、知ってるから。牽制程度に狙っただけ。


 「それでも、何? もしかして、俺を殺すのが……嫌だとか?」

 「……それは……」


 嫌に決まってる。なんで人を殺さないといけないんだ。


 「嫌で嫌で仕方ない、って顔してる。……いらいらするよ、君を見ていると」


 恐怖で動けなくなっている僕は、ルオにおなかを思い切り蹴飛ばされた。


 「ぐうぅ……!」


 地面に背中をしたたかに打ちつけ、あまりの痛みに体を丸める。


 「大丈夫お父さん!?」


 ララの声がして顔をあげると、心配そうに僕のことを覗きこんでいるララの姿があった。


 「だ、駄目……」

 

 駄目だよ。戦っている最中の人の心なんてみたら……君は……。


 「お、お父さんの心は戦っている最中の心なんかじゃない! しっかりしてよ! なんでこんなときに私の心配するの!? ちゃんと戦意を持って! ルオは本気でお父さんのこと殺す気なんだよ!? 反撃しなきゃ、ころされ……きゃっ」


 言葉の途中で、ララの姿が僕の視界から消えた。


 「……だめじゃないか。子供が大人の勝負を邪魔したら……」

 「しょ、勝負なんかじゃない! あなた、お父さんのこと勝っても負けても殺す気で……」

 「君、心が見えるの?」

 「……! み、み、みえない、見えません……だから、ころさないで……」

 「……見えるみたいだね」


 今まで、ララがどんな心を見ているか全くわからなかったけど……今はわかる。わかってしまう。

 ルオは、ララのことを殺す気だ……!


 「る……お……!」


 僕は立ち上がって、ララのいた方を向く。すると、ララはルオに胸倉を掴まれて、吊り上げられていた。ララは苦しそうにルオの手を抑えて、必死で抵抗しているけど、ルオは離そうとしない。学園長はルオに抵抗したせいか、地面に倒れていた。死んでない……よね? 不安だけど……今は。


 「ルオ、ララを離せ!」

 「嫌だ。こいつは俺の心を見た。誰にも知られたくない……誰にも知られるわけにはいかないことも、俺の心にはあるのに。こいつはそれを知った」

 「し、知りません、そんなこと、知りません!」


 恐怖で顔をひきつらせながら、ララはルオの手から逃れようと身をよじる。けれど、ルオの力は強く、びくともしない。助けてあげたいけど、僕がルオを攻撃するよりかは、ルオがララを斬るほうが速い。……僕が、弱いせいで。僕が弱いせいでこうなったんだ。


 「……そーだ。いいこと思いついたよ、ルウ」

 「な、何?」


 おそるおそる、聞いてみる。とにかく説得して、ララを離せば……。


 「君、選びなよ」

 「な、何を?」

 「この子か、そこに転がってるじいさんか」

 「……!」


 意味は、いくらなんでもわかる。ララの命か、学園長の命かを選べ。そう言われてるんだ。


 「……! お、お父さん、ダメ」

 「キジも鳴かずは撃たれまい……。いろんな心を見てきた君だ。意味……わかるよね」

 「……!」


 ルオの心に何を見たのか、ララは自分の口を自分で押さえて何度も何度も首肯した。


 「上出来。……にしても、おっそいな。オリジン! 戻ってこい!」

 「了解」


 ルオが命令すると同時に、今までどこかでトレースと戦っていたオリジンが、ルオの隣に現れた。まずい。ルオに加えて、オリジンまで相手にしてたら……どうあっても……。ダメ! 思っちゃダメだ。ララが見てるんだ。勝てる。そう思わなきゃ、あの子が絶望してしまう。勝たなきゃ。勝って、あの子を守らなきゃ。


 「君、遅いよ? 何してるの? 嫌われたいの?」

 「……すみません、ご主人様。あの道具、中々やるようで」

 「俺、君に言い訳しろって命じた? 嫌われたいのかどうかを訊いてるんだけど!?」

 

 ルオがいらついたように怒鳴ると、オリジンは顔を青ざめて頭を下げた。

 

 「め、めっそうもない。私がご主人様に嫌われたい、などと、思うわけがありません」

 「そう。じゃあ、命令を更新。このガキ持ってて。持つの疲れる」

 

 ルオは軽々しく、まるでモノでも扱うようにララをオリジンに渡した。彼女はララを受け取ると、それが宝物でもあるかのように大事にその腕に抱いた。抱かれている本人は、顔を真っ青にしてカタカタ震えている。早く助けてあげないと、あの子が壊れてしまう……。


 「……ま、持ち方ぐらいでどうこう言わないけどさ。君、ルウが俺に向かってきたり、あの道具が俺の邪魔したりお前の邪魔したりしたら、そのガキを殺せ。いいね」

 「了解」

 

 命令を受けると、オリジンはさらにララをきつく抱きしめた。


 「ひっ……! お、お願い、普通に殺して……」


 オリジンはどんな殺害方法を思いついたのか、ララは顔をさらに青ざめさせて、そんなお願いを口にした。


 「……ご主人様?」

 「言うとおりにしてあげたら? 普通に殺してあげなよ。抱きしめて全身の骨を折る、とか残酷なこと……」


 そこまで言って、一度ルオは僕の方を見る。そして、にやりと笑った。まるで、いたずらを思いついた子供のような、嫌な笑み。


 「いや、ダメ。そんなんじゃ、なまぬるいよね、やっぱり。君が思いつく最悪の殺し方で殺せ」

 「了解」

 「……い、いや。もう、いや」


 もう耐えきれなくなったのか、ララは両手で目をふさいで、それきり動こうとしなかった。その様子を見届けると、ルオは僕に向き直った。その顔には、本当に楽しそうな笑顔が、張り付いていた。


 「あ~あ、可哀そうに。きっと、年不相応な残酷なシーンと残酷な意思を見て、もう何も見たくなくなっちゃんたんだね。ああ、可哀そう。全部、全部守れなかった君のせい」

 「……」


 僕はコンシャンスを握りしめる。


 「ダメダメ。君が僕に斬りかかってきたら、あの子が死ぬよ? オリジンに向かっても、一緒。君ができるのは、選ぶだけ。そこのじいさんか、今オリジンが抱いてる子か、どっちか」

 「……そんなっ!」

 「そう。そんな、だよ。ほんと、同情するよ。これは嘘じゃない。かわいそうだよね。なんでもできる道具も持ってて、君自身も強い力を持ってる。それなのに、たった一人の人間を助けるために……君は苦しむんだ。何もかも……君が、二人を守れなかったせいだよ」

 

 僕が、弱かったせいで。僕が、守れなかったせいで。

 二人の命を……危険にさらしてる。

 僕は何も言うことができずに呆然と立ち尽くした。

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