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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
八つ目の世界
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定まった未来

 「……そもそも、じゃな」


 ふう、と彼はため息をひとつついて話し始めた。


 「あまり、こういうことをよそ者に話すわけにはいかんのじゃよ」

 「……でも、私はもう知ってしまった。あなたが思ったから。知りたくないことまで、知ってしまう。……こんな力、要らない」


 ララはルオのことなんかより、能力の方が大事みたいだ。責めるわけじゃないけど、けっこうドライなんだね。

 

 「お譲ちゃんの能力をなくすことは」

 「もういい」


 きっぱりと言いきると、ララは僕のそばに来た。


 「行こう、お父さん。もう、ここにいたくない」

 「どうして?」

 「……それは」


 理由を聞くと、なぜかララは黙った。どこか、迷っているような感じが彼女から感じられた。


 「ララ、こちらへ来い。君もそうだが、ルウにも相談があるのだ」


 言い渋るララを、トレースが半ば強引に連れていった。


 「あ……」

 「早く帰りたいのだろう? ならば、早く相談し終わってもらわないとな」

 「……」


 トレースの言葉を聞くと、ララはおとなしく部屋の外に出ていった。


 「……ずいぶんと、冷めた子じゃな」

 「そう、ですね」


 学園長さんに僕は同意する。ミリアとはずいぶんと違う。あの子は明るいけど、ララは全体的に暗い感じ。……出会ったころは、そうでもなかったのに。


 「心を読めるような子は、大抵がああなる。……大人になれば、もっとひどくなる」

 「……というと?」

 「あの子レベルになると、十六歳頃になると、感情を失くすじゃろう」

 「そんな……」


 感情を失くすって……そんな。そんなこと、あるもんか。今のララは、確かにちょっと暗いけど、でも、確かに笑ったりするし、怖がったりもちゃんとするし……。


 「心を読む、ということは、他人の心を自分の物にするのと変わりない。少年、君が私の心をそっくりそのまま感じて、君自身のままでいれる自信があるかね?」

 「……ないです」


 もし本当にそんなことになったらきっと、学園長さんの心と僕の心が融け合って、僕でも学園長さんでもない人間が生まれるのだろう。


 「そうだ。その不安は、あの子自身も感じている。自分と他人が融け合う不安に、常にさらされている。不安を解消するためには、他人を心の中から出すか、自分と他人を触れさせなければいい。しかし、前者は能力があるからできない。だが……」

 「……」


 僕は、彼が言いたいことをほとんど理解していた。自分と他人が融け合う恐怖。それを回避するためには、他人を心の中から排除するしかない。……でも、ララにはそれができない。だから、あの子は。


 「だが、自分を失くせば、心の中に他人がいても、『何もない自分』とはまじりあわない。だから、自分を保てる」

 「……」

 「だから、自分と他人の境目をはっきりとさせるために……大抵の心透視者は、思春期頃に心を閉ざす」

 「……そんなの!」


 わかっていても、立ち上がらずにはいられなかった。自分を保つために、自分を失くす……? そんなの、そんなの……!


 「ああそうじゃ。本末転倒もいいとこじゃ。それは、心透視者達だって理解しているじゃろうよ」

 「だったら!」

 「でも」


 学園長さんは悲しそうに僕を見据えた。


 「でも、彼らはそうするしかないのじゃ。『何もない自分』を保つことでしか、『たった一人しかいない人格』を守れないのじゃよ」

 「……」

 「あのお譲ちゃん……ララ、と言ったかな。彼女には、もうその兆候が現れはじめちょる」

 「……え?」


 あの子が? そんな、嘘だ。あの子が……そんな。


 「あの時、言ったじゃろう? 『声を聞いた』と」

 「……あの時の……」


 ルオが、誰か知らない人を殺した時、ララは頭を抱えてうずくまった。そして、それきりなんの反応も示さなくなった。


 「そうじゃ。いつかは知らんが、君はあの子に『人を殺す殺意』と『断末魔』を同時に聞かせてしまったのじゃ」

 「……」


 僕は何も言えず、ただ目を伏せることしかできない。


 「その人間が人生を閉ざす最後の『想い』。人の人生を終わらせようとする『想い』。それらが生半可なものでないのは君にだってわかるじゃろう。人生最後の叫びをあの年頃の娘が直に感じて、変わらないわけがないじゃろう?」

 

 学園長さんのことを聞きながら、僕は思い出す。さっき、僕はララに対してドライだ、と感じた。それは本当に、ただドライなだけなのだろうか。実は、もうすでにララは、心を閉ざしかけているのでは……?


 「……僕が、しっかりしていなかったから」

 「これから、しっかりしてやればよいのじゃ」


 優しく、学園長さんは僕に言った。


 「……さっきは睨んで悪かったな。君が娘の目の前で人でも殺したのかと思うてな」

 「なんでそんなこと思うんですか」

 「君の本質を見たら、おそらく誰でもそう思うわい」

 「……どういう意味ですか」


 僕は声を荒げて言った。何を、この人は。まるで僕が、化け物か何かみたいに……!


 「君は、人ではない。……君は」

 「……そんな」


 僕は、告げられた答えに、探し求めていたはずの答えに、絶句した。

 

 

 

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