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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
八つ目の世界
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魔法学校……なのに

 食事を終え、おなかも膨れたところで、フォーリナーの大通りを通り、角を右に曲がると魔法学校があった。

 

 「小さいね」

 「ああ、小さいな」

 「小さいね、お父さん」


 そうとう権威があって、大きな学校なのだろうと思っていたら、ずいぶんと小さく、片田舎のお役所みたいなところだった。扉のところに『フォーリナー第一魔法学校』の魔法陣がなければ間違いなく素通りしていただろう。


 「……とにかく、入るか」

 「そうするしかないね」

 「だね、お父さん」


 僕たちはかすかに勇気を出して、扉を開いて、中に入る。中はまるで病院といった風で、どこか薬臭い感じもする。玄関には靴が脱ぐことがあって、子供用の靴がいくつもいくつも置いてあった。


 「おや、お客さんかね?」

 「あ、え、えっと」


 僕たちが学校の玄関内を見ていると、奥の方にある扉から、初老を迎えた頃であろう男性がひょっこりと顔を出した。顔のしわは柔和そうな顔立ちをさらに引き立て、相談しやすい雰囲気というものを作っていた。彼は僕たちに気づくと、驚いたような顔を一瞬して、扉の奥から出てきた。


 「おお……。また、迷える子羊が一人……」

 「なんだ、お前?」


 白衣に白手袋、さながら医者のような格好に、トレースがいぶかしげに聞いた。たしかここって『学校』じゃ……?


 「わしか? わしはここの責任者じゃよ。そしてこの学校……今は名前だけになってしもうたが、『第一学校』の学園長じゃよ」

 「学園長がなぜ真っ先に客の相手をする?」

 「ふふふ、それはな、ここがもはや学校に近い何かに変わったからじゃよ」


 学園長は笑顔で僕たちに言うと、扉を大きく開け、僕たちに中を促した。

 ……信用していいのだろうか。


 「大丈夫だよ、お父さん。彼、すごく、すごく優しい人……」


 そう言ってくれるララの声は、すごく落ち着いていて、安心しているように思えた。

 僕はララの言葉を信じて、彼が促す部屋に入った。

 広い部屋がしきりで二つにわけられ、入口のすぐ近くには診察室のような机と、その他多くの機材が置いてあった。学園長は奥の……医者が座る場所に座って、手前の椅子を僕たちに薦めた。

 

 「……座らんのか?」

 「座ります。……けれど、なぜ、こんな部屋に?」


 椅子に座りながら、僕は質問をする。トレースは僕の後ろに侍ったままで、ララは僕の膝に乗ってきた。 

 

 「なぜ? お前らは相談しに来たのじゃろう? ……特に、そこのお譲ちゃん」

 「……うん」


 ララは素直にうなずいた。確かにいろいろ相談したかったけど……。この中で、一番この学園長さんに逢いたかったのが、ララ?


 「ほら、言ってごらん。急がんでも、ゆっくりでええ」

 「……私、その……ちょっと、変な力があって……」

 「……人の心が見える、『心透視』じゃろう?」

 「……え?」


 ララはびっくりして肩をはねさせた。僕もすごくびっくりした。なんでこの人がララの能力を知っているの?


 「わしはな、人が何なのか、その本質がわかるんじゃよ。たとえばお譲ちゃん、『人に作られた』じゃろう?」

 「……」


 ララは学園長の方を向いて微動だにしない。ララの表情は見えないけど……必死で心を読もうとしているのがよくわかる。そりゃ、誰だって見ず知らずの他人に自分の出自を知られているとなると、警戒したくもなるだろう。


 「そんなことはどうでもいいんじゃ。それで、その能力がどうかしたのか?」

 「……なくしたい」


 ただ淡々と、ララは言った。


 「……なくしたいよ、こんな力。怖いよ」

 「お譲ちゃんが、怖いのか?」

 「……うん」


 ララはそこで、僕の膝から降りて、トレースの横まで下がった。僕と学園長が視界に入るようにした……のかな?


 「ねえ、学園長さんならわかるでしょ? 私、人の心なら全部見透かせるの」

 「いいことじゃ。わし、常日頃から人の心が覗けたらな、とおもっちょるぞ?」

 「……うそつき」


 ララは苦笑した。ということは、今彼が言ったことは嘘、ということになる。


 「学園長さんや、お父さんみたいな心をずっと見れたら、私はこんなこと思わないよ。でも、私、見ちゃったもん、聞いちゃったもん」

 「……何をじゃ?」


 学園長の雰囲気が少し厳しいものに変わった。心もおそらく変化しているだろう。ララは少しだけ口ごもった。


 「……その……」 

 「安心せい」


 彼がララの目を見据えて、そう言った。するとララはどこか決意したような瞳になって、口を開いた。


 「人が人を殺す瞬間と、人が死ぬ瞬間の声」

 「……!」


 学園長が僕を睨んだ。お前は父親のくせに何をやってる、と責め立てるような視線だった。彼の心の中はもっと激情が渦巻いていたのかもしれない。その視線に耐えきれずに目をそらそうとした時、ララが僕と彼の間に入ってきた。

 

 「学園長さん、やめて。お父さんは悪くないよ。いきなりだったもん」

 「……じゃが……」

 「お父さんを責めないで。そんな酷いこと思わないで。お父さんはお父さんなりに頑張ってるの。悪いのは、ルオって人…………。……?」


 ララは、そこで不思議そうに言葉を止めて、学園長のことをじろじろと見始めた。


 「……ねえ、なんで学園長さんが、ルオのことを知っているの?」


 ……え。

 そう言えば、さっきも思ったけど。なんで、異世界のここで、ルオのことを知っている人がいるんだろう?

 ……ルオは『扉』を使っていた。まさか、彼も、異世界を渡る旅人なの……?

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