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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
八つ目の世界
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魔法都市『フォーリナー』

 「……結構、びっくりしてる」

 「ボクもだ」

 「きれいだね~お父さん!」


 僕たちは今魔法都市『フォーリナー』にいる。街角は人でにぎわい、魔法でできた品がたくさん売り買いされている。道路には魔法を原動力とした車やバイクが、空には魔法の箒で飛びまわる人や動物に乗って移動する人も見受けられる。

 街角の色は全体的に白色で、無機質。ミリアのいた世界よりかは、ララのいた世界に似ている。といっても、こっちの方が断然便利そうだし、すごそうだけど。


 「ねえ、トレース、ちょっと気になることがあるんだけど」

 「なんだ、ルウ」


 僕はララと手をつなぎ、街角を歩きながら、トレースに話しかける。


 「僕のことって、ここだったら知れるかな?」

 「……どういう意味だ?」

 「だからさ、僕が何者か」

 

 トレースはしばらく何もいわなかった。


 「……キミはルウ。それでは不満か?」

 「うん」

 

 僕はルウ。そんなのはわかってるけど、それ以外にも自分のこと、もっと知りたいよ。


 「だめ、かな」

 「……そんなことはない。少し待ってくれ。…………うむ、問題はない。近くにある魔法に詳しい学校がある。そこでは魔法に関する相談も行っているから、相談すればよいだろう。……この大通りをまっすぐに行って、それから右に曲がった先にある建物だ」

 「そう。ありがとう」

 「そう礼など言われてもこまる。ボクはキミの物なのだからな」


 そうトレースが言った瞬間、ざわりと周りの人たちが騒ぎ出した。みな一様に僕たちを睨んで、所々ではひそひそ噂話さえしているところがある。……なに?


 「むう、どうもあれだ、ここでの隷属的宣言はイコールで『私はあなた様の奴隷です』という意味合いがあるそうだ。何をされても絶対服従、絶対隷属。……ふむ、ボクにとって不利になることはなんらないな。ではもっと声高に叫ぼうか。ボクは我が主人ルウ・ペンタグラムの」

 「トレース、ストップ!」


 僕はあわててトレースの口をふさぐ。そうするとまた、周りがわっと湧いてにぎやかになる。ううん、話している内容がわからないのがせめてもの救い……。


 「お父さん、みんなお父さん達のこと『若いくせにまた悪趣味な……』とか、『変態カップルどもめ!』とか、『奴隷とかいいなぁ……』って思ってるよ。別にいいの?」

 「い、意味わかるの?」


 僕は救いを断ち切ったララにたじろぎながらも聞いた。


 「……うん。何が言いたいかもだいたいわかるから……」


 そう言うと、ララはしょんぼりとした。


 「大丈夫、ララ?」

 「……うん、大丈夫」


 頼りない『大丈夫』だった。……なんとかしてあげたいな。そうだ、ララのことも調べれば分かるかな?


 「トレース、ララのことも見てもらえるかな?」

 「おそらく可能だが……ルウが求めている答えが見つかるとは限らんぞ? むしろ、もっと悪いものが見つかる可能性もある」

 「私は、それでもいい」


 きっぱりと、ララは言った。


 「そうか。では、行こうか」

 「そうだね」

 「……うん」


 魔法学校に行くため街角を歩いていると、大きなお店が道の右側にあった。白を基調とした色合いで、『魔法のレストラン』と書いてある。……お料理屋さんかな?


 「トレース、お金ある?」

 「全く問題ない。どうした?」

 「おなかすいた」

 

 僕がいうと、トレースはふっ、と肩で笑った。


 「キミは本当に食いしん坊だな」

 「ダメ?」

 「まさか。どころかとてもいいことだ。キミたちの情報を得るのは食事をしてからでも構わないだろう。とりあえず、食事にするが構わないか、ララ?」

 

 ララはおなかを押さえてから、こくりとうなずいた。


 「そうか。おいしい料理が出てくればよいがな」


 トレースはそう言ってその店の扉を開けた。


 「いらっしゃいませ」

 「三人で子供もいるが、構わないか?」

 「ええ。私の店は子供も食べれる居酒屋、ですから」

 「そうか」


 居酒屋? 僕は疑問を口にする前に、席についていた。バーカウンターっていうのかな、木のテーブルでカウンターができていて、そこに丸椅子が置いてあって、僕たちは座る。カウンターの向こうには、人のよさそうな店主が一人。


 「何にしますか?」

 「……そうだな、とりあえずおすすめのメニューがあればそれにしてくれ」

 「かしこまりました」


 流れるようにトレースは注文をして、僕たちの方を向いた。


 「ルウ、ここは居酒屋、というところらしい」

 「らしいって……」


 君も知らないの?


 「どうも酒を飲むところらしいが……今は昼だからな、どちらかと言えばレストランに近くなっている」

 「そうなんだ。……おいしいかな?」

 「それは店主の腕次第だ」


 会話がひと段落したところで、店主が再びやってきて、料理を僕たちの前に出した。


 「早いな」

 「ええ。私のおススメは早く食べれてすぐに食べれる料理です。この時期は冷却魔法が使いやすいですからね、今日はシンプルな料理ですよ」

 

 運ばれてきたお皿は彼が言うようにシンプルで、冷たい印象を持つ。お皿に盛られてるのは……なんだろう? こう、全体的にべしゃっとしてて……。まだぴくぴく動いているような気がする。


 「……お父さん、まだこの子たち生きてる」

 「んなあっ!?」


 僕はびっくりして席を立つ。


 「どうした、主人?」

 「い、生きてるって、生きてるってどういうこと!?」

 「ああ、初めてでしたか。フォーリナー名物『時のしずく』ですよ」

 

 驚いている僕に、店主が淡々と説明してくれる。


 「と、ときのしずく?」

 「ええ。次元の狭間からときどき現れる異世界の生物ですよ。ぷりぷりとした身や、熱すると赤くなることから『レッドプリン』とも呼ばれてます」

 「レッドプリン、ね。なぜ踊り食いなのだ?」

 「そちらの方がおいしいからです」

 「……また率直な」

 

 お、踊り食い? ……ええっと、生き物を生きたまま食べること。……ちょ、ちょっと残酷じゃないかな……?


 「なんで残酷なの、お父さん?」


 ララが心を読んで質問をしてきた。……って、あれ?


 「き、キミ、大丈夫なの?」

 「何が?」


 きょとんと問い返してきたララの手にはフォークが握られており、その先には時のしずくが突き刺さり、ぴくぴくと脈動していた。こ、心を読めるララが、そんなことして大丈夫なの?


 「……? 声は聞こえるし、何か感じるけど……意味はわかんない」

 「え?」

 「魚の言葉が人間のララにわかるはずがないだろう」

 「……」


 そんなものなのかなぁ……?


 「……さて、店主」

 「なんですか?」

 「ルオ、という人物について何か知っているか?」

 「……大量殺人鬼の名前だ。不思議な、魔法とも超能力とも違う何かを使って殺しまくったらしい。それしかわからん」

 「……そうか」

 「なんであんなやつのことについて聞くんだ?」

 「……少し、縁があってな」

 「不運だな」 

 「全くだ」

 

 そう言うとトレースは黙々と時のしずくを食べ始めた。……顔をしかめている様子もないから、もしかしてこれ、おいしい?

 疑問だらけのまま、僕は食事を始めることとなった。


 食べ終わっての感想。……結構、いやかなりおいしかった。

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