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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
五つ目の世界
55/106

次の世界へ向かって

 「…………お父さん」

 「どうしたの、ララ?」

 「…………呼んでみただけ」


 白黒チェックの床、果てしない広さ、無数の扉のある故郷を僕たちは歩く。ララを助けてから長い間歩いてるけど、その間会話はほとんどなく、時たまララがこうして僕を呼ぶくらい。


 「ずいぶん慎重になりましたね」

 「…………うん」


 慎重になった、っていうか、人格変わっちゃってるよ。つい数時間前までは明るく快活で、笑顔がよく似合う女の子だったのに。……まあ、今のララでもかわいい、ってつい思っちゃうけど。ああ、娘にいやらしいこと考えるなんて、僕はなんて父親だろう。


 「そう言えば、ララ、ここの心地はどうだい?」


 ララが不思議そうに僕を見た。まあ、ミリアはここに初めて来たときすごく苦しんだから、ララもおんなじことにならないかって不安でさ。


 「…………心配してくれて、ありがとう」

 「え?」


 あ、そうだった、この子、心が読めるんだった。


 「…………忘れてたの?」

 「うん」

 「…………不思議な人」


 ううん、誉められてるのかな?


 「間違いなくほめられていないな」

 「トレースって僕の心が読めるの?」


 ときどきそうとしか思えない言動を彼女はする。


 「……読めてはいない。が、だいたいわかる」

 「すごいね」

 「道具として当然のたしなみだ」

 「仲間、だよね?」

 「……そうだったな」


 もう、しっかりしてよ。


 「でも、ララ、なんでここが怖くないの? 天井も壁もないのに扉がいっぱいあって、床は白黒模様で、それなのにどうして?」

 「…………ここの誰も、ここを怖がってないから」


 ……ふうん。


 「…………それに、ここにはお父さんたち以外の心が見えないから。私、あそこじゃずっと、人の心が見えてたから。ときどき、どれが本当の私か、迷いそうになって怖かった」

 「そうなんだ」

 

 ララもララで、苦労してるんだ。


 「…………あの人たちが私を殺す算段を、心の中でつけていくのを見て、本当にバラバラになりそうだった。あんまりにも強い思いのせいで、声まで聞こえて、感情までじかに感じて、どこからどこまでが私で、どこからどこまでが他人なのかわからなくなった」

 「……そうなんだ」


 普段は心の声って聞こえないんだ。だから心が読める、って言い方をしてたんだ。


 「だから、私を気遣う心が見えたとき、本当にほっとしたの」

 「そう」

 「ありがとう、お父さん」

 「お礼はみんなに言ってよ」

 「…………ありがとう、みんな」


 ララはぺこりとみんなに頭を下げた。


 「気にするな。ボクは命令を実行しただけだ」

 「お父さんが言うんですもの、仕方ないじゃないですか」


 みんな素直じゃないなあ。


 「ところで、お父さん」

 「何、ミリア?」


 ララの横を歩いていたミリアが、僕に話しかけてきた。ついさっきまでは毛嫌いしていたみたいな雰囲気だったのに、今はずいぶん仲良さそうだ。

 

 「そろそろ入りませんか? 私、足が疲れました」

 「……それは口実か?」

 「いいえ? 私、ここでは未来が見えないんですよ、トレースさん。お忘れですか?」


 そう言ってミリアは手首のブレスレットを僕たちに見せる。あ、たしかここ限定で能力を封じるトレース特製のブレスレットだよね?


 「忘れていた。あの時はキミが発狂するのではないかと焦ってな」

 「もう、心配しすぎです。……まあ、あれが何時間も続けば私だって、正気でいれたかどうかわかりませんけど」


 相変わらずミリアは綱渡りだなぁ。それってあれでしょ、僕がトレースを連れていなかったらそうなっていた、ってことでしょ? ……やっぱりミリアって苦労してるなあ。


 「ねえ、ちょっと思ったんだけどさ、ミリア」

 「なんですかお父さん」

 「今、自分が死ぬ未来ってあると思う?」

 「……さあ。今は、何も見えないですから。……もしかしたら、あるかもしれません」


 意外だなあ。ここで何が起こるって思ってるんだろう? 


 「ちなみに何が起こりそうなのかは、絶対に言いませんので。想像の域を出ませんし、もしそうなら口を割るべきではありませんので。……そう、たとえトレースさんに拷問と凌辱の限りを尽くされたとしても、です」

 「おい、ミリア、口には気をつけろ!」

 「……なんです? 私、口には気をつけてるつもりですが」

 「そういう意味じゃない! 内容に気をつけろと」

 「ねえ、トレース」


 何やらわめくトレースを遮って、僕は話しかける。


 「な、なんだ、ルウ」

 「『りょうじょく』ってなあに?」

 「……」

 「……トレースさんがおっしゃった意味が、わかりました。すみません。全然未来が見えないもので……油断してました」

 「…………私も、それの意味、しらない。心の中では何度か『いつか絶対凌辱してやる……』とかいうのを見たことはあるけど」

 「ちょっと待て、それは誰が誰に対してだ?」

 「……? 開発部部長が、研究部部長に、だよ?」

 「……あの男か」


 あの男? ええっと、ララのいた世界で、トレースがあの男、だなんて酷い呼び方する人と言えば、ララを叩いた人だね。へえ、そんなこと思ってたんだ。


 「どんな意味なの、トレース。教えて?」

 「……ぼ、ボクにはできない」 

 「ミリア?」

 「……そ、それは……うう。お、お父さんなんですから、子供に教えを請わないでください!」

 「あ、そうだった。じゃあ、トレース」

 「……だから、ボクにはできないと……」

 「……ううん。ここは、恥をしのんで、ミリア?」

 「だから」

 「お願い」

 「……そ、そんな顔で見つめても駄目です! いくらきれいで童顔だと言っても、あなたは男性なんですから、私からその定義を教えることはできません!」


 ずいぶん難しい言葉で拒否された。意味はわかるけど、それをすらすらと言えるミリアに驚く。


 「……と、とにかく! 今は世界に入ろう、な?」

 「……ううん、わかったよ」

 「…………次の、世界。旅人。……楽しみ」 

 「ララさん、楽しみなのは私もおおむね同意ですが……。未来がまた見えるようになるのを考えれば、結構憂鬱なんですよね……」

 「じゃあ、やめとく?」

 「行きます! こんなところで独りぼっちで過ごすなんて、気が狂ってしまいます!」

 「おおげさだね」

 「……大げさなんかじゃ……ああもうそれでいいです。余計なことは何も言いません」

 「賢いぞ、ミリア」

 「トレースさんは放っておいてください」

 「……むう」

 「あはは、じゃあ、行こうか」


 僕はそばにあった扉を開き、一気に向こうに入る。

 新しい世界は一体どんなんだろう?

 すごく、楽しみだ。

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