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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
五つ目の世界
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お仕事しましょう、未来予知!

 僕はあの女の子のことを頭にとどめながら、広い道を歩く。地面はとても固く踏みしめられていて、もしかしたらコンシャンスでも刃が通らないんじゃと思えないくらい固そうだった。

 

 「ねえ、ここって人通りが多いのかな?」

 「なぜそう思う?」

 「だって、ほら」


 僕は足で地面を叩く、こつ、こつと小気味いい音がした。


 「これはアスファルトだ」

 「コンクリートみたいなもの?」

 「似ているが違う」

 「どう違うの?」

 「……そこまでは、わからん。あ、レストランがあるぞ」

 

 あ、ほんとだ。さ、行こうっと。


 「お父さん危ない!」

 「ルウ!」


 道を歩こうとしていた僕は、すごい力で後ろに引っ張られる。


 「うわっ!? 何なに?」

 「左右をよく見てください!」

 「左右?」


 僕は言われたとおりに左右を見る。すると。

 風を切る音がして、車が通り過ぎて行った。


 「……あ、あれが、車?」

 「ほう、知っていたか」

 「う、うん。移動に便利な、四輪車。事故が絶えないから、車のあるところでは不用心に歩いてはいけない……でしょ?」

 「ならなぜ飛び出した?」

 「……わからなかったんだよ……」


 本当にわからなかった。まさかあれが車道だったなんて。


 「……お父さんの知識って、役に立ちませんね」

 「ストレートだね」

 「仕方ないじゃないですか。経験がないだけならまだしも、知識と現実がまったくつながってないんですから」

 

 確かに、言われてみればそうだ。僕の中に車についての知識はあるけど、まさかそれが現実にあるなんて思いもしなかった。頭の中にある知識はどこか遠い風景を見ているようで、確かにそこにあるけど、それは現実味がないんだ。


 「……ま、信号が青に変われば、通れる」

 「わ、わかった。トレース、ミリア、君たちに任せるよ……」


 いくら僕でも、食いっけのせいで死にたくはないから。

 僕はおっかなびっくり、二人のあとについて行った。……あれ、確か僕、父親になったん、だよね……?





 「……さて、どうやってお金を稼ごうか」

 「え、お金ないんですか?」

 「まあな」


 僕は車道のそばにある道、歩道というところを歩いていた。なぜかトレースはレストランを素通りしたのだけど……そういう理由だったんだ。


 「どうして? さっきまではあったじゃないか」

 「この前までは金貨がほとんどだった。だから作っても問題はなかったが……今回は、紙幣だからな」

 「どう違うの?」


 というか、今まで作ってたの? 本当のお金で食べていたわけじゃないなんて……。


 「紙幣は細かく数が管理されている。作ってしまえばすぐにばれてしまう。……だから、こうした科学と法律がしっかりした世界では、お金を作るのはよくない」

 「しっかりしていない世界でもよくありません!」

 「……むう。なぜだ?」

 「なぜって、それは、お金は作るものではないからです!」

 「だが、誰かが作らねばお金はないぞ?」

 「それは……ああ、もう!」


 言いかけて、途中でミリアはあきらめた。


 「どうしたの?」

 「何時間言っても理解されない未来が見えたので説明を省きました!」


 うんざりとミリアは言った。


 「……むう、すまない。さて、お金を稼ぐ方法だが……」

 「私がなんとかします」

 

 自信を持って、ミリアが言った。


 「どうして? 君、お金稼げるの?」

 「あなたたちと出会ったとき、私は何をしていましたか?」


 ミリアと出会ったとき? ……ああ!


 「占い!」

 「そうです。……では、始めましょうか」

 「こんな道端で、構わないのか?」

 「ええ。この世界は平和です。こんなところで占いをやっても、誰も告発しませんし誰も異端審問をしようとしません」


 え、えっと、それは……。


 「するわけないだろう」

 「どうしてです?」

 「この国で宗教はほとんど廃れているぞ」

 「そんなっ!?」


 呆然とミリアは叫んだ。へえ、意外な反応。


 「そ、そんな、それならば、人々は何をよりどころに生きているのですか?」

 「科学か、自分かのどちらかだな。ま、よりどころを失って宙ぶらりんな人間が多いがな」

 「そんな……」

 「で、占いはどうする?」

 「やります! やらないとご飯が……!」


 バッ、ババッ!

 ミリアは手際よく、絨毯を地面に敷き、水晶玉を手に持った。


 「は~い! 本日開店『ミリアの占い所』! さあさあよってらっしゃい見てらっしゃい! ここにあります水晶玉で、どなたの未来も見て御覧に差し上げましょう!」


 急に明朗になったミリアに、僕はびっくりした。うわ、すごい。


 「……へえ、お譲ちゃん、占いやってるんだ」


 危なかった。この前のくせで、コンシャンスを抜きそうになった。危ない、危ない。

 やってきたのは、黒のぴちっとした服……す、スーツ? を着た白髪が生え始めた男性だった。


 「はい! どなたの未来も、視て差し上げます!」

 「いくら?」

 「銀貨一枚となっております!」

 「え?」

 「……五百円だ」

 

 つい故郷のノリで言ってしまって、すかさずトレースが訂正した。


 「ああ、わかったよ。じゃあ、これ」


 男は懐から財布を取り出すと、金に光る硬貨を一枚、ミリアに手渡した。


 「え? こ、こんなの」

 「落ち着けミリア。ここではそれは本一冊買えるか買えないかの価値しかない」

 「あ、そうですか」

 「……あんたら、何者?」


 まあ、もっともな質問だった。僕みたいな人間もどきが一……人? 僕ってなんて数えるんだろう? まあ、いいや。暫定的に一人で。僕が一人、トレースが……一個? トレースってたしか元はあのクリスタルなんだから、一個で合ってるよね。で、ミリアが一人。人間なのはミリアだけという。


 「ま、まあまあ。とにかく、視て差し上げます」

 「おう。頼むよ」

 

 目を閉じて、ミリアは未来を見る。しばらくすると、目を開いた。


 「いくつか、視えました」

 「おお、それで?」

 「一つは、今のままの人生で満足して、そのまま終わる未来です」

 「……というと?」

 「たしかに、今の、サラリーマン、というのですか? その職業は、向いているでしょう。しかし、天職ではないでしょう。あなたの天職はもっともっと人とのつながりの中で商売をすることだと思います。たとえ商品のつながりが消えても、人との関係は切れない、そんな仕事でしょう」

 「……す、すごい。本当にそうなのか?」

 「……当たらぬも八卦、外れるも八卦、ですよ」

 「わ、わかった! 頑張ってみる! ありがとうよ、お譲ちゃん!」


 その人はそう言うと、わくわくしながらどこかへ走って行った。


 「……何したの?」

 「少しだけ、勇気をあげただけです」


 ミリアは満足そうに、微笑んだのだった。

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