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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
五つ目の世界
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銀髪の女の子

 白黒チェック模様の床、際限のない広さ、遥か彼方の天井、そして無数の扉がある故郷に、僕は戻っていた。今まですぐ近くの扉に入っていたけれど、今回は意を決して、というか趣向を変えて遠くまで歩いてみることにした。疲れたら扉を開ける、ということになっている。歩き始めて、もう八時間ぐらいだろうか。


 「……ねえ、ミリア、僕たちと出会う前のこと、ちゃんと覚えてる?」

 「もう! なんど言わせるんですか、お父さん! ちゃんと覚えてるって言ってるじゃないですか!」

 

 僕の隣を歩いているミリアは、うんざりそうにそう言った。たしかに何度か訊いたけど、不安なんだから仕方ないじゃないか。

 

 「本当に覚えているのか怪しいのだろう。もしかしたら一部あいつに差し替えられた記憶があるかもしれん。メリメのことを恋しく思ったり、酷く気にかかったりはしていないか?」

 「してない!」


 トレースは最近、ミリアに優しい。どういうわけか、ミリアを気遣うような言葉を言うようになった。


 「……はあ。お父さん、もう疲れました」

 「そう。じゃ、入ろうか」

 「そうだな」

 

 僕は近くにあった扉のノブを握る。


 「ま、待ってください。ほ、本当に入るんですか?」

 「どうして?」

 「そ、その、怖くて……」

 「……どうして?」


 別に、異世界なんて怖いところじゃないよ?


 「まあ、仕方ないだろう。キミとは違って、ミリアは一番最初の異世界が、あそこだったのだ。異世界は怖い、そう思っても不思議ではあるまい」

 「そうなんだ。……でも、大丈夫だよ」

 「こ、根拠は……?」

 「君は今生きている。それだけで十分じゃない?」

 「……そう、ですけど」


 ミリアは自分が死ぬ未来を何度も何度も見たはずだ。そのどれもが確率が高くて、気を抜けば未来通りになってしまうほど切羽詰まっていたものなんだろう。けれど、それらのどの未来も実現せず、こうしてミリアは僕たちとまた旅をしている。それだけ、僕たちは運がいいんだろう。


 「……じゃ、入るよ」

 「ええ」

 「わかった」


 僕は、扉を開いた。


 「……こ、ここは?」


 僕は扉の向こう側に入って、驚く。


 「……ふむ、運がいい」

 「へえ……なんですか、ここ?」


 トレースとミリアが入ってきて、扉が閉まる。すると、扉はすうーっと薄くなって、最後には消えてしまった。


 「……ここはずいぶんと科学が発達した世界のようだな」

 「かがく、ですか……。ああ、そういうことですか」

 

 ミリアはまた未来を見て情報を得た。……いいなあ。こういうことがある度、うらやましく思う。でも、未来を見て絶望するミリアを見ると、可哀そうだな、って思う。……なんだか僕って、都合のいい子としか興味ないみたい。


 「ここは首都だな。全ての中心地。この場合は科学か。……おや?」

 

 トレースが僕にガイドのようにこの世界のことを話していると、遠くに女の子が一人。

 とてとてとて、という擬音がぴったり似合いそうな走り方で、こちらに向かってくる。


 「こんにちは! ねえ、あなた、今『この子供はなんだ?』って思ったでしょ?」

 「む、そうだが……。なぜわかった?」

 

 女の子はトレースに近づくなり、そう言った。トレースが驚いたように女の子に訊く。……この子は、誰だろう?


 「あ、今『この子は、誰だろう?』って思ったでしょ! 私の名前はララ!」

 「……あなたは、……心が視えるの?」

 「うん、そうだ……よ? ……あなた、変ね」


 ララと名乗った女の子は、ミリアを見てそう言った。……なんだこの子?

 服装は質素なTシャツにスカート。髪は白色で、瞳は銀色。十歳ぐらいの歳で、ミリアとあんまり変わらない。


 「私が変なのは承知。でも、あなたはそうじゃない。……あなたは、これ以上人の心を見るべきじゃない」

 「えへへ、なんで? 『すごいな、うらやましいな』って思ってるのに、どうしてそんなこと言うの?」

 「これは、忠告」

 「『未来を見る私の言葉を無視すると、大変なことになる』……? へえ、あなたそんな風に思ってるんだ。夢見がちだね!」

 「え?」


 ミリアは素っ頓狂な声をあげた。


 「なんで人の心を見ちゃいけないの? 私、心を見るたびに『すごいね、すごいや』って思ってもらえるよ? たま~にミリアちゃんみたいな夢見がちな人もいるけど、そういうのはそっとしてあげた方がいいんだよね!」

 「……そう。一応、忠告はしたから」

 「『可哀そうに……』って、なんでそんなこと思うのかな? よくわかんない。……じゃあね、旅人さんたち!」


 ララという女の子は、元気に笑ってどこかへ行ってしまった。


 「……なんだったんだろう、あの子」

 「お父さんは知らない方がいいかと思います」

 「なぜだ? ルウに知られてはいけないことが……っ」

 

 トレースは言葉の途中で、顔を不快にゆがめた。


 「……ルウ、今、あの子のことを知るべきではないだろう」

 「どうして? また隠し事?」

 「ごめんなさい」

 「すまない」


 二人はそう言うだけで、話してはくれなかった。……なんだろう?

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