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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
四つ目の世界
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吸血鬼という種族

 闇と、力と、死。世界を代表する『黒』が一挙に集まったような、圧倒的な存在。それが、吸血鬼、リンク。

 

 「……リンク。やりすぎ」


 リンクと対比するかのように、血だまりを音も立てずに、青い髪の吸血鬼、エリアがやってきた。

 

 「仕方ねえだろ。お前がしくじったんだから」

 「しくじったんじゃないわ。かって暴走して、こっちに向かってただけよ」

 「それをしくじったって言ってんだろ。……信用ガタ落ちになったらどうするつもりなんだ」

 「見習いが偉そうに言わないでくれる?」

 「その見習い以下の働きしかできねえお前に言われたかねえ」

 「うっさい。黙れバカリンク」

 「お前が黙れ役立たず」

 「……そのうるさい口そぎ落とすよ?」

 「その役に立たねえ腕斬り落とすぞ?」


 なんか、二人ともすごく荒れてる。血に濡れたリンクも、そんな彼を見ても平然としてるエリアもどっちも怖い。


 「……あんたがこいつら殺しまくるからルウが怯えちゃってるじゃない」

 「怯えさせときゃいいんだよこんな奴」

 「さいてー」

 「お前、ガキができたら過保護になるタイプだな。もし自分のガキがいじめられたら、その犯人を血祭りにあげる、ぐらいやりそうだ」

 「その程度で済ますとでも? 一族郎党皆殺しよ」

 「……さすが純血、スケールが違うぜ」

 「そうよ。混ざりものは黙ってなさい」

 

 もう何がなんだか。


 「てかよ、そんなにルウが心配なら守ってやれよ」

 「だめよ。そんなことしたらルウのためにならないじゃない」

 「それでも、生まれたばかりのガキにあと六十時間はきついぞ」

 「……なんでそんなに?」


 エリアの質問に答える形で、リンクは事情を説明した。

 もうリンクが来てから四時間も経ったんだ。僕にしたらそっちの方が意外だ。


 「ふうん。そうなの。ミリア、ってあなたの何なの? 恋人……なわけない、よね?」

 「違うよ。前の世界で知り合って、そのままついてきたんだ」

 「……その子、なんかとてつもない能力持ってたりする?」

 「うん、未来視」

 

 エリアはやっぱりか、といった風な顔をして、ため息をついた。


 「未来視、ねえ。また厄介な……」

 「でも、助かってるよ」

 「そうでしょうよ。だからあなた、こんな目に遭ってるのよ」

 「どうして?」

 「能力の恩恵を受けるということは、先に待ち受ける運命も一緒に受けるってことになるから。……それにしても、記憶が、ねえ。気の毒に」


 エリアはミリアの方を見て、心配そうに目を細めた。


 「私たちで何とかならないかしら?」

 「ならねえよ。それぐらいわかれ」

 「なる!」

 「なるか」

 「……む。混ざり物の分際で偉そうに! いい? あんたら混ざり物は、私たち純血種を神のように崇め奉って、私たちについていけばなんの不安もない、と思っておけばいいのよ!」

 「無理だな。目の前にいる純血種があんまりにも無能なもので」

 「うっさい! 今に見てろ、あんたができないって言ったことを、さらりと、なんでもないことのように成し遂げてやるからね!」


 子供のようにエリアは叫び、ミリアのそばに駆け寄った。……いや、そんな意地っ張りの延長みたいな感覚でミリアをどうこうしようとしないでよ。


 「……さて、と。……まずは、消された記憶が何かを調べなきゃ……」


 エリアはミリアの額に指をのせ、目を閉じる。すると、トレースのように動かなくなった。


 「おいおい。正気かよこいつ」

 「……ねえ、リンク。混ざり物とか、純血とかって、何?」


 多分、今のエリアには何を言っても届かないだろうから、リンクとの会話で時間をつぶそうと試みる。悠長に会話なんてしてる場合じゃないとは思うけど、今の僕にとって、外からやってくる敵よりも、リンクやエリアの方がよっぽど怖い。


 「あん? ああ、エリアは吸血鬼と吸血鬼の間にできた子供だから、純血種、だ。俺はエリアに吸血鬼にされたから、混ざり物、だ」

 「へえ。純血種、ってことは、生まれたときから吸血鬼?」

 「そうらしい。吸血鬼にも世界によってわずかに違いがあるけど、純血ってのは大抵が生まれたときから吸血鬼、って連中を指す。ま、エリアは混ざり物と混ざり物の子供だから、あんまり強くねえけど」

 「え?」

 

 混ざり物と混ざり物って、それじゃあ人間の血が入ってるんじゃないの?


 「それでも、基本的に吸血鬼同士の子供が純血って呼ばれるからな。純血同士の子供は、また別の呼び方をされるらしいぜ?」

 「ややこしいね」

 「お前ら人間だってあるだろ? 貴族とか、貧民とか、侯爵とか子爵とか、騎士とか皇帝とか」

 「……あるね」

 「そんなんと同じらしい。吸血鬼は基本的に生まれた時の力がずっと続くから、生まれが人間以上に重要になってくる……とかいう話をエリアに噛まれたときにされた気がする」

 「うろ覚え?」

 「そうだな。でも、事あるごとに話すから耳タコだよ」


 煩わしそうに、リンクはエリアに視線を向ける。今の彼女はトレースと同じで、ピクリとも動かない。


 「……今やったら、殺せるかな」

 「え」

 

 黒剣を構え、目に怪しい光をともしながら、リンクは呟く。


 「ひっひっひ。今あいつは無防備だ。殺そうと思えばやれるかもしれねえ」

 「そ、そんなに恨みあるの……?」

 「ねえ。でも、やれるもんならやってみてえだろ? 吸血鬼だぜ?」

 

 キミもね。


 「吸血鬼だからって」

 「俺らが絶対に断る依頼、ってのがあってな。それが『純血の吸血鬼退治』だ。純血、それもエリアぐらいになると、何をされても死なねえんだよ」

 「さっきエリアは弱いって言ってなかった?」

 「力はな。でも、回復能力ならどの吸血鬼よりも上なはずだ」


 音をたてないように、リンクはエリアににじり寄る。


 「でも、今なら油断してるし、力も別のことに使ってる。もしかしたら回復分の力までこのガキの治療に使ってるかもしれねえ。……だったら!」


 黒剣を大上段に振り上げ、一気に振り下ろす。


 「出来た!」

 「ウソだろっ!?」


 しかし、その黒剣は固いコンクリートをたたいた。


 「……へえ。何事かと思って避けてみたけど……あんただったとわね。何? 久しぶりに死にたくなった?」

 「……話しあおうぜ、エリア。な? ルウの前だろ? いつもみたいに出来ねえの、わかってるだろ?」

 「ええ。でも、教育は必要よね。ルウ、これはね、教育なのよ。どうしようもないバカに教え込むために、必要なプロセスなの。大丈夫、死にはしないわ。こんなんでもこいつ一応吸血鬼だから」

 

 エリアは颯爽とマントを翻し、大鎌を構える。一切の容赦を抜いて、その大鎌を振りかぶった。


 「まあ、とりあえず、バカリンク」

 「な、何でしょう……?」

 「死んで詫びろ」


 リンクの頭が吹き飛んで、大量の血風が舞った。

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