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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
四つ目の世界
39/106

変えられたミリア

 看板の前で佇んでいると、ひとりの青年が、看板の向こうからやってきた。


 「おや? ようこそ、我らが庭へ!」


 彼は、マークと名乗った。

 とても友好的な態度で僕らに接してきた彼は、ここ『忘却の庭』の案内役だそうだ。


 「……君たちの庭?」

 「そうさ! こんな荒んだ世の中で唯一の楽園、そして理想郷! その証拠に、忘却の庭の住人は、みんな幸せだよ!」

 「……たしかに、そうですけど」

 「また何か見たのか?」

 「今は言いません」


 案内されたのは、二十人ほどの人間があつまる、広間のようなところだった。平らな地面に、瓦礫の壁。ここは酷く不安定そうで、しかしここは安定していた。だから、こんなにもここにいる人間は穏やかな表情をしているのだろう。


 「ほう。また、平和的な」

 「そうだろそうだろ! 敵はここまで来られないし、ここは何より安全! 世界が崩壊してもここだけは残るって自信があるね!」

 「……で、でも、ここ、四年後に崩か」

 「しっ!」


 僕はあわててミリアの口をふさいだ。……危ない危ない。


 「……まあ、後ろの二人は放っておいて。ここの長は誰だ? 会わせてほしい」

 「構わないよ! リーダーは寛容だから、あんたの尊大な口も軽々と許しちゃうだろうさ! あんなリーダーの下にいれる俺は幸せ者だよ!」


 心から、彼はそう言っているようだった。

 なんだろう? わずかな違和感を抱えながら、僕はマークについていく。

 

 「リーダー! 訪問客だよ!」

 「……通せ」


 広間の奥に、カーテンで仕切られた部屋のような場所があって、そこで僕らは止まった。カーテンの向こうから、低い、渋みのある声がした。……声の主はどんな大きな人なんだろう?

 

 「よし、許可も下りたし、じゃ、いってらっしゃい!」


 マークは笑顔で僕らをカーテンの向こうに押し出した。

 

 「……ほんとに?」

 「……ふむ」

 「未来通り、ですか」


 カーテンの向こうにいた、声の主を見て、僕は驚いた。

 彼が、ほんの年端もいかない、ミリアぐらいの年齢の男の子だったからだ。彼が座っているのも、どこからか拾ってきたらしいほんの小さな執務机。それでも、彼の体には大きすぎる印象を受ける。ここだけは変な空気が流れているというか、雰囲気が少し違う。


 「……私はメリメ。なんとでも呼べばいい」

 「では、メリメ。さきほどの声は?」


 トレースがいきなり質問。


 「これだ」


 執務机の机の中を開いた。その中は、たくさんのマイクが置いてあった。……なんだ、これ?

 メリメはその中の一つをおもむろに持つと、マイクの方に口をあてて、言う。


 「マーク」

 「はい!」


 さっきした、低く、渋みのある声。と、同時に、はきはきした返事が聞こえた。


 「客人に出す用の茶を頼む。……あるか?」

 「……すみません、今、お茶は切らしてて……」

 「そうか。すまないことを頼んだな」

 「いえ、全然いいんですよ、リーダーが言うなら!」

 

 そう言うと、マークは離れて行った。


 「……君がリーダー?」

 「マーク用の肩書きだ。……彼は年配の、少しのことなら聞こえないふりをして許す、そんな大器を持つ人物こそが自分の上に立つべきだと思っている。……だから、それを演じてるまで」


 この子もまたなんか飛んでもないこと考えてるなあ……。


 「そうか。それで、キミは一体なんの能力を持っている? 隠さずに言え」

 「……私は、能力を隠しているつもりはかけらもない」

 「ミリア、埒が明かない。彼の能力はなんだ?」

 「はい。………え? あ、あの、ま、待ってください、ちょ、ちょっと、変です」


 ミリアの様子が変だ。なんだか、自分が自分でなくなっているような、自分が誰だかわかっていないような、そんな表情だ。しばらくすると、ミリアは僕たちを他人を見るような目で見て、叫んだ。


 「え、な、何これ、何なのこれ!? あなたたちだれ!? こ、ここはどこ!?」

 「おい、ミリア!」

 「み、ミリア? それが、私の名前? ほ、本当に?」

 

 何が起こっているのか理解できなくて戸惑うミリアに、問い詰めるトレース。……そして、いやらしく笑うメリメ。僕は誰がこんなことをしたのか理解した。


 「君が原因だね、メリメ」

 「正解」


 こともなげに、彼は言った。


 「キミを痛めつけて、ミリアをもとにもどしてやる!」

 「無駄無駄。私の能力を知りたがっていいたよね。教えてあげる」


 彼はミリアに手をかざした。すると、またミリアに変化が。


 「……え、なんで私小さくなっているの? お父さんとお母さんは? それにお姉ちゃんは? というか、この映像何? あなたたちがしたの?」

 

 今までの子供っぽい挙動はどこへやら、今度は急に大人びたしぐさに。

 

 「なんてこともできるし、……たとえば、こんなことだってできる」


 また、ミリアに手をかざした。


 「……ご主人様? どうかなされました?」

 「いや、なんでもない」


 ミリアは恐るべきことに、出会って数秒のメリメをご主人様だなんて呼んだ。


 「……わかった。わかったぞ、キミの能力。最低だな」

 「おほめにあずかり光栄です、と言っておこう。……では、あなたたちも」

 「させるか」


 メリメとトレースが同時に手をかざすと、僕とトレースのすぐ前の空間で、ガラスが割れたような音がした。


 「ボクの名前はトレース。万能の道具だ。この程度の能力、簡単に防げる」

 「……ふん。まあ、いい。一人は手に入った」

 「ご主人様、嫌な言い方をなさらないで。私は常にあなたのものです」

 

 ミリアが別人みたいだった。どうして?


 「……ルウ、彼の能力がわかった」

 「なんなの?」

 「それはな」


 トレースが話そうとしたとき、メリメが絶望的な命令を、ミリアにした。


 

 「ふふふ、ミリア、この二人を追いだせ」

 「了解です」


 なんの疑問も抱かずなんのためらいも見せず、ミリアはメリメに従い、僕たちを追いだそうとした。

 もちろん僕は抵抗するとするのだけれど。


 「ああ、そうだ。もし命令が達成できなかったら、死ね」

 「はい」


 ぞっと、背筋が冷たくなった。

 なんだ、今の会話。

 死ね、といわれて素直にはい、だって? ミリアはそんな子じゃないだろう? それなのに、なんで?


 「……今は、とにかく出よう。ミリアの命を守るんだ」

 「わかったよ……でも、トレース、ちゃんと話してね」

 「ああ」


 僕たちはミリアに長の部屋から追い出されて、そのまま看板のあるところまで押し出された。恐ろしいのは、急に仲間割れをした僕らに、忘却の庭の住人達は誰一人目を向けようとしなかったことだろう。


 「……では、ごきげんようお二人さん」

 

 ミリアが僕たちに向ける言葉とは思えないぐらい冷徹な声。

 

 「まって」


 制止の声も無視されて、ミリアは看板の向こう、忘却の庭に行ってしまった。


 「……そん、な」

 「仕方ないだろう。今は、ミリアの命が最優先だ」

 「なんで、こんなことに? あの子、僕たちのこと嫌いだったのかな……?」

 「そういうわけではけしてないから、安心しろ」

 「……安心できないよ」

 「安心させてやる。……話してやるから」


 ……それなら、少しは安心できるかな……。 


 

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