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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
四つ目の世界
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コミュニティ『忘却の庭』

 コンクリートの廃墟を歩いて、十人と出会った。

 その十人は全員僕らから食料や衣類を奪おうとしたり、ミリアを狙ったり、僕ら自身を食料にしようとした。……最後のはさすがに一人しかいなかったけど。そのすべてを回避したからこそ今僕はこうして悠長に物を考えていられるわけで。


 「もうたくさんです!」


 廃墟を歩いているうちに、ついに、というかようやく、ミリアはそう叫んだ。


 「どうした、ミリア」

 「どうしたもこうしたもありません! どうしてトレースさんは彼らを殺さなかったのですか!?」

 「殺したことを咎められるのはまだしも、殺さなかったことを咎められたのは初めてだ」

 「もう! 質問に答えてください!」

 「ルウに止められているからだ」

 

 トレースは即答した。

 

 「だから、言ったじゃないですか、その忠誠心はいつか身を滅ぼすって!」

 「何か問題でも?」

 「彼らのうち五人はまた向かってきますよ!? それも今度は武装して!」

 「どうせ棍棒かナイフだろう?」

 「そうですけど!」

 「なら大丈夫だ。ボクもいるし、ルウもいる」

 「……ルウさんが?」


 すごい疑いの目を向けられた。なんで?


 「この人に戦闘ができるとは思えません」

 「君を助けたのはルウだぞ?」

 「ナイフをはたき落しただけじゃないですか」

 「その『だけ』もできなかった子供が偉そうに」

 「……っ」


 トレースに言われて、ミリアは黙り込んだ。


 「……たしかに、言いすぎてました。ごめんなさい」

 「あはは、別にいいよ。今まで戦闘はトレースに任せてたしね」


 というか十人の撃退はトレースが勝手にやっていたのだ。電光石火の早業で。


 「……十秒後、来ます」

 「そうか」


 トレースは警戒態勢に入った。コンシャンスそっくりの武器を二振り、どこからともなく出現させて構える。

 

 「……お、またあったな」

 「リンク!」


 ミリアの警告に引っかかっていたのは、黒髪の吸血鬼、リンクだった。手には漆黒の大剣が握られ、いつでも戦えるようになっている。


 「つうか、俺とお前らって、つくづく縁があるんだな。……てか、そのガキはなんだ?お前らが攫ってきたのか?」

 「とんでもない!」

 「勝手についてきたんだ」

 

 僕とトレースはほぼ同時に言い訳をする。その様子にリンクは肩をすくめて笑った。


 「はは、お前らほんと似てるよな」

 「当たり前だ。……ところで、貴様の相方はどこだ?」

 「……貴様呼ばわりかよ。エリアは反対側の調査に行ってる」

 「調査、です、か?」


 ひとことひとことを区切るように、ミリアは訊いた。


 「おう、そうだ。お譲ちゃん、あんたがどっから来たのかは知らねえが、今、この世界はおかしいんだよ」

 「……そんなこと、言われなくても、いえ、そうですか」


 そう言えば、ミリアが途中で言を変える時って、切羽詰まってる時だけだったような。

 またよくない未来が見えたんだろう。リンク絡みで。


 「おう。ちょっとタイミングが良すぎるっていうか。……まあ、事後調査みたいなもんだから、関わっても暇しかねえぞ?」

 「そうか。では、ボクらは先を急ぐ」

 「ちょっと待て」


 リンクの隣を通り過ぎようとした時、彼が僕らを引き留めた。


 「な、なに?」

 「怯えんなって。忠告だよ」

 

 そう言えば、エリアさんからもされたような気がする。……ううん、あの時のことは思い出したくないのか、記憶があいまいなんだよなあ。なんか、とても怖かった気がする。


 「この先にコミュニティが一つあるんだが……。気をつけろよ。あそこの連中は少し変だ。『託宣の教団』とは少し方向の違う『変』だがな」

 「託宣の教団?」

 

 なんだろう、それ? ご飯の名前……なわけないよね。


 「……少女を贄に捧げるのが最大の浄化であるとする団体ですよね」

 「おお、その通りだ。よく知ってるな~。もしかしてそっから逃げてきたのか?」

 「……当たらずとも遠からず、ですか」


 たしかに、彼らに生贄にされたくないからこっちに来たんだから、当たってはいないけど、間違ってもいないよね。


 「まあ、あっちは完璧にイッちまってるけど、そっちはどっちだがわかんねえからな。ぱっと見は。……だから、気をつけろよ?」

 「忠告、感謝する。……エリアにも、そう伝えてくれ」

 「へいへい。……じゃあな」

 「うん、またね!」

 「……では、またお会いしましょう」


 なんだか、僕とミリアの反応、本来なら逆な気がするのは僕だけ? なんでミリアの方が敬語なのさ。

 そんな疑問を口にしようと思う頃には、もうリンクは闇にまぎれてどこかへ行ってしまっていた。


 「……怖かった」


 ミリアは彼が去ってから、開口一番そう言った。


 「そうか?」

 「はい。……殺される未来こそ見えませんでしたけど、それでも、怖かったです」

 「キミの生物としての本能が告げていたんだろう。キミの本能は優秀だな」

 「……おほめにあずかり光栄です、と言うべきでしょうか? なんだかほめられている気がしません」

 「気のせいだ。……それにしても、コミュニティか。どんなところだろうな」

 「ご飯とか、あるかな?」

 「ルウさん、もし向こうの人に会ってもそれだけは言わないでくださいね? 冗談抜きで殺されかねませんよ?」

 「わかってるよ。……それにしても、どんなところだろう」

 「……死ぬ未来はあまり見えませんから、危険は少ないとみて間違いないです」

 「それはよかった。ようやく一息つける」

 「……ただ、命の危険はない、というだけです」

 「あまり行きたくないな」

 「そうかも。でも、どんなところかは気になるよ」


 結果的にいえば、その疑問はすぐに晴れたと言える。

 しばらく歩いたその先に、看板があった。うまい具合に天井が割れ、まるでスポットライトのように、看板とそこに書かれた文字を、際立たせていた。

 その看板には、こうあった。


 『忘却の庭~御用の方は、この先へ。つらい現実、忘れれます~』


 ……ひどく、胡散臭い。僕は最初にそう思った。

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