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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
四つ目の世界
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見えすぎる未来

 世界の外、僕の故郷。


 「……うう、怖いです……。あぐ……頭が……どうかしそうです……」

 「大丈夫?」

 

 いつも通りの扉だらけの世界。なんだけど、ここにきてからミリアの様子がおかしい。


 「……ふむ。少し気になるな。この苦しみ方は異常だ」

 「……しゃべらないで……意思を持たないで……未来が……見えてしまいます……」

 「わかった」


 黙ったまま、トレースはミリアの額に手を載せる。


 「……ふむ。少し危険な状態かもしれん」

 「え?」


 僕は呆然となった。ま、まさか、この子元いた世界にしか生きていけない体質とか……?


 「未来が見えるか?」

 「うう……見えます、すっごくたくさん、いっぱい。……あれ、ほ、ほんとうに『今』って今でしょうか?も、もしかしたら『今』も私が見てる『未来』のうちのひとつなんじゃ……実は私は赤ちゃんで、今から起きる人生をただ見ているだけなんじゃ……?」


 なんかすっごい勢いで錯乱してる。


 「……ふむ、原因がわかったぞ」

 「本当に?」

 「しゃべらないで!」


 僕は怒鳴られ黙る。……ううん。トレースは相変わらず口やかましくしゃべっている。彼女にはミリアを想う気持ちとかないのだろうか。

 「まあ、この子は未来が見えすぎるのだろう」

 「十年先とかが?」

 「いや、違う。たぶん、この空間が、だ」

 「え?」


 この世界に原因が?まさか。ここにあるのは無数の扉だけだよ?床はチェック模様の味気ないものだし、壁なんて見えないし、そもそもあるのかさえ分からない。


 「この空間には可能性がありすぎる」

 「え、それが何か問題でも……あ」


 そうか。未来が『限られなさすぎ』ているんだ。あの世界じゃ起こりうることはたかが知れているけど、この世界はそうじゃない。無限に近い『世界』があって、その『世界』に入るのは完全に気分とランダムだから、定まってはいない。で、ミリアは扉を選んだ未来だけでなく、ありとあらゆる『世界』に入った先の未来を演算して、見ていく。つまり、手近な扉を選らんだ場合の未来と、遠くの扉を選んだ未来、その結果をずっと見続けるわけだ。


 ……頭がパンクしても無理はないんじゃないか?


 「……うう……痛い……頭くらくらする……」

 「……早く世界を選んでやってくれ。そうすれば少しは楽になるだろう」

 「う、うん」


 トレースに言われるまま、僕は手近にある扉を選ぶ。

 

 「ここにする」

 「……どうだ、ミリア」

 「……うう………………あれ、かなり未来が消えた」


 未来が消えた、か。嫌な言い方するなあ、と僕は思ったけど、まあ、事実なんだろうからしかたない。


 「じゃあ、この世界ってどんな世界?」

 「……う、ううん………?あれ、見えない……」

 「ふむ?意外だな。ボクはてっきり扉に入ったあとも見たから頭痛が起きたのだと思ったのだが」

 「……ええと、ううん、違うよ、多分」


 不思議そうに、ミリアは否定した。


 「違う?」

 「そう、なんか、その、扉を開ける未来だけが頭の中でいーーーーーーーーーーっぱいになったんです」


 両手を大きく、未来の量を示すように広げる。こんなしぐさをする所なんかは、子供っぽいな。


 「それはよくわかったが、しかしこれからもいちいちここに来るたびに頭痛を起こされてはかなわんな。…………ミリア、これをつけてみろ」

 「え?……ああ」


 トレースから渡された銀色の輪っかを、ミリアは腕に付けた。


 「ルウさん、これ、腕輪と言います。……れ、未来が見えなくなった?え、どうして?私、死んじゃう!?」

 「落ち着け」


 あたふたとあわて始めたミリアの両肩を、トレースががしりと掴んで固定した。


 「ひっ」


 殺される未来は見えなくなったと言っているのに、ミリアはトレースに怯えている。


 「怯えるな。これは、未来を見えなくするようにする腕輪だ」

 「そ、そんなのいつどうやって」

 「今作った」

 「な……」


 ミリアは目を見開いた。僕だって驚きだ。こんな一瞬でそんなすごい道具が作れるなんて。


 「で、でも、私、死にやすいんですよ?」

 「世界に入ったら外せばいい。というかここでしかそれの効力は発揮しないようになっている」

 「……わかりました」


 つまり、この世界限定でミリアの能力を封じれば、今後ミリアがここにきて頭痛を起こすことはない、ということだ。

 ……って、あれ。当たり前みたいになってるけど、なんで僕はミリアが今後ずっと一緒に旅をする前提で考えてるんだ?


 「あのさ、ミリア」

 「なんですか?」

 「その、いつまで、一緒にいるんだい?」


 ミリアが雷に打たれたような表情になった。


 「……捨てられるんですか?」

 「え?」

 「わ、私、捨てられるんですね!?」

 「あの、ちょっと、ミリア?」

 「そ、そうか、トレースさんが私の能力を封じたのは、このことを悟らせないためですね!そ、そんな!お願いです、連れて行ってください!」

 「いや、話を聞いて」


 泣きそうな目で懇願してくるミリアをなんとかなだめて、僕は続きを話す。


 「えっと、ただの確認だよ。ミリアは僕と一緒に旅するんだよね?」

 「ええ、もちろんです」

 「そう、ならいいんだよ」


 ふう。なんとかやり過ごせた。さて、と。もうミリアは未来が見えないから扉を変えてもいいんだけど……まあ、この際だし、ここにしようか。


 「じゃ、行くよ?」

 「了解だ」

 「はい!」


 僕は、扉を開けた。

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