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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
始まりの世界
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始まりの封印

 ……もう、閉じ込められて十万とんで三年が経った。視覚を途切れさせられたわけではないので狂わずにいられるが、それでももう限界が近い。どうして私の作成者はこの封印を解けるだけの力を私に与えてくれなかったのだろう。……いや、私にはこの封印を解く以外のことならなんでもできる。死人を生き返らせる、と言うことまではできないものの……それ以外なら大抵のことは何でもできる。

 不老不死から完璧な手料理まで。何から何まで。……おそらく、作成者は私にたがと言う意味でこの封印を解けないようにしたのだろう。何かで押さえつけていないと、意思を持った道具は怖くて怖くて仕方がなかったのだろう。

 

 けれど……そんな理由で十万年も封印されてしまっては、たまったものではない。もはやこの動けない状況にもずいぶんと慣れたものだが……それでも暇なのには変わらない。同じ景色、同じ空、同じ毎日。


 人もまばらで、ほとんど私のところには来ない。来たとしても、私を封じている空間は見えないよう隠されているので気付く人間なんていない。……だから私の近くにある大樹の木の下で若い男女が告白、なんて甘いシチュエーションに恵まれることもあるのだが……。実質、こんな草と木しかないような場所、そんな理由でもない限り立ち寄ることはないだろう。


 暇だ。暇だ。本当に暇だ。


 早く作成者は迎えに来ないのだろうか。私を作って、自身を不老不死にさせて私を封印したあの麗しき作成者は。恋焦がれると言うほどでもないが、親の迎えを待つ子供のような心境で私はずっと待ち続けている。……もう十万年もほっとかれたのだ、もはや期待もなにもないが。最後の希望のようなものだ。


 希望はあるが、希望で暇はつぶせない。浸るような思い出もない。

 ……何かいい暇つぶしはないだろうか?


 ここから見続ける景色もいい加減あきた。私は万能無限が触れ込みの道具なのに、どうして誰も使おうとしないのだろうか。私を使えば絶世の美人も、富も、名誉も、世界征服さえも簡単にできるのに。もしかして私を必要としてくれたのは作成者だけで、私の存在はこの世界に全く需要がない?

 ……そんなことはないはずだ。……そうだ、ないはずなんだ。


 ……でも、もしなにも知らない誰かが私のことを見つけたらどう思うだろう?きっと、化物、とか思うに決まってる。……なら。


 ちゃんと主張しなければ。私は道具ですよ、誰かに使ってもらってこその物ですよ、と。

 ……ならば、どうしようか。どうやったらわかりやすく、逃げられないうちにそのことを伝えられるだろうか。


 ……どうしよう?


 ううん。まあいいや。もうどうでも。十万年もなにもなかったのに、これから先何か起こるとは思えない。こんなこと考えてても意味ないだろう。


 ……ううん。また暇になった。まだ十分ぐらいしか時間をつぶせていない。どうしようか?


 ……そうだな。面白いゲームをしよう。


 今私をここから出してくれたら、一つ願いを叶えてあげよう。

 

 三日待って来なければ、また条件を引き上げよう。こうやってどんどん引き上げ続けていたら、きっといつかは来てくれる。私を使ってくれるマスターが。

 

 私は全力で、このゲームに興じることにした。



 三日経った。少年が一人通りかかった。お使いで迷ってしまったらしい。すぐに通り過ぎてしまった。


 ……今ここから出してくれたら、三つの願いを叶えてあげよう。


 一年経ったら、また条件を引き上げようか。



 一年たった。百人の人間が通りかかった。誰もかれもが楽しそうに、あるいは悲しそうに、あるいはさびしそうに通りかかっていったが、私に気付く、または気付いたようなそぶりを見せる人間は誰一人としていなかった。


 今ここから出してくれたら、なんでもいくつでも願いを叶えてあげよう。


 これは百年だ。百年経ったら、また条件を引き上げよう。


 

 百年たった。一万人が通りかかった。一人ひとりの顔や表情を私は覚えているが、まるで当たり前かのように私を通り過ぎていく。まだダメなのか。まだ誰もマスターは現れないのか。



 今私をここから出してくれたら、その人に私は仕えよう。


 これは千年まとう。きっと、ここから出してくれる人が来てくれる。千年も待てば、きっと。



 千年たった。私はまだ封印されている。……もう、やけだ。


 今ここから私を救いだしてくれた人が、私の全てだ。私はその人間に全てを捧げることを誓う。何を言われても文句ひとつ言わず従い、何をされても喜んで受け入れる、そんな奴隷のような存在になってあげよう。




 ……だから、誰か私をここから出して。

 誰か。誰か。



 私は全てを支配できるはずなのに……今、この一歩先の世界に触れることすらできない。この体が動いたら。何もかもが自由なのに。自分はなんでもできるはずなのに、自分を封じる結界さえも破ることができない。その事実がもどかしい。……もしかしたら、自分は万能の道具などではなく、ただの使い捨ての失敗作なのでは?そんなこと、もう思いたくない。だから、誰か。誰か、助けて。




 救いの手は、現れるのだろうか。



 私は十万年、待ってみることにした。


 

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