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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
始まりの世界
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初めての抵抗

 「キミは……優しいな」

 「そうでもないよ」


 本当に優しいなら、君を道具扱いなんてしないだろうから。


 「……そんなことはない。ボクにとってキミは神様のようなものだ。時に厳しく、時に優しく。ボクのことを想って、言ってくれる。キミが言ってくれなければ……ボクは、自分で自分を消していたところだ」


 そんな、自分を卑下するようなこと、言わないでよ。


 「……信じてたのに」

 「え?」

 「……ううん、なんでもないよ」


 トレースはきっと、国王の言葉に逆らって、自分で生きようとする。僕はそう信じていたのに。好きに生きるんじゃなかったのか?トレースにとって自分の命は前のマスターに命令された捨てれるほど、安いものなのか?


 「トレース、もう帰ろう。こんなところにいても、しょうがないよ」

 「……そうだな。早く国外に出て、キミとの旅を楽しむとしよう」


 トレースは僕の中にある失望に気付いたのか、妙に素直だった。


 「行かせるものか。トレースよ。私の命令に従うのだ」

 「……それは」

 「させません」


 もうこれ以上、トレースをまどわさせない。僕の仲間を、迷わせない。


 「国王様。僕のトレースを、誑かさないでくれますか」

 「なんだと……?」

 「る、ルウ……?」


 僕の言い方がよほど珍しかったのか、トレースも国王も驚きの表情を見せている。


 「ずいぶんと吠えるな、若造。トレースにかしずかれてもう天狗か?」

 「まさか。天狗でないからこそ、僕には彼女が必要なんです」


 今日一日観光……いや、人として生きてみて、わかったことがある。

 僕の中の知識は、ほとんどが役に立たない。

 会話の中でなら、いちいち言葉の意味を訊かなくて済むので役立つのだろうけど、実際の生活において、僕の知識は役立たない。どころか邪魔だとさえ思う。

 実感を伴っていない知識なんて、ないのと同じだ。

 だからこそ、僕には僕の生活をずっとサポートしてくれる存在がいる。僕のことを知っても離れることなく、そばにいてくれる存在が。


 「必要……?ふん。惑わされよって……」

 「惑わされてなどいません」

 「惑わされている人間が自覚できるわけがなかろう。……若造、お前は一つ重大なことを見落としておる」

 「……なんですか?」


 僕が見落としている?何を?


 「トレースを狙う人間は数多くいる。いや、たとえいなくともそれの存在を知ったものは欲せずにはいられない。それが人というものだ」

 「だからなんです?」

 「主人は自分だから大丈夫、そう思ってるのかも知れんが、それは間違いだ」

 「……?」


 一体、何を……。


 「お前が死ねば、それは次の主人を求める。だからトレースを狙う連中は、まず真っ先にお前を狙うだろう」

 「だから、なんです」


 僕が死ななければいい話だ。……先しばらくは守ってもらうことになりそうだけど。


 「だからこそ、お前はトレースを手放したくなるだろう。まだ二十も生きていないうちから命を狙われるなど、耐えられるようなものではないからな」

 「耐えるひつようなんてない。ボクが守る」

 「守れるのか?」

 「守る。必ず」

 

 トレースは、手を胸に当て、誓うように言った。

 

 「無理だ」

 「……なぜ」


 その誓いを、彼女の創造主は切って捨てた。


 「なぜ?貴様は未熟すぎる。たしかに道具としては一流も一流、至高の一品だろう。しかし、従者としてはどうだ?保護者としては?護衛としては?貴様はあまりにも経験がなさすぎる」

 「そんなもの……」

 「経験なくともできると?そう思うのか?たしかに貴様は道具としての領分なら問題なくこなせるだろう。それが使命だからだ。しかし、そうでないものは貴様が自分で学習して自分で考え、自分で努力し、自分で成せねばならない。貴様には無理だ」

 「できる!」

 「無理だ」


 再び、国王はトレースを一言で切り捨てる。


 「貴様は道具だ。道具としては万能ゆえに、自分はなんでもできると思いがちだ。……貴様は挫折を味わったら完全に折れるタイプだ。……新しいことには向かん。あきらめろ」

 「嫌だ」


 トレースは初めて、彼に拒否の意を伝えた。嫌だと、言葉にした。


 「嫌だ?ずいぶんと感情的だな。その若造に何を言われた?」

 「何も。好きに生きろ。この命だけを、ボクはもらった」

 「……ふん。おもしろい。その命令が貴様のすべてか」

 「そうだ」

 「ならば、上書きしてやろう」


 ぞくり。なんだろう、とてつもなく、嫌な予感がする。

 黒い、気配がそこにあるような。すぐ隣に、永遠の別れがあるような、そんな予感。


 「ボクの主人はルウだけだ。何を言われようと、ボクはもうルウの道具であることをやめはしない!」

 「……ふふふ、はたして、その主人が死んでも、そう言えるかな……?」

 「なんだと……!?」


 とてつもなく嫌な予感がする。けれど、その予感の正体がつかめなくて、意味の見えない恐怖ばかりを、僕は感じ続けていた。

 

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