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いつか巡り逢う君へ  作者: コノハ
始まりの世界
12/106

初めての接敵


 ……え、敵?


 「敵って、僕たちを殺そうとする奴のこと?」

 「そこまでかどうかはわからないが……とにかく、ボクらを狙っているのは確かだ。詳しいことは……そいつもわからないらしい」


 ……そいつ?

 

 「そいつって誰?」

 「シオン・アルマース、二十五歳。十三歳で国王騎士団に入隊し、以降修行の日々に明け暮れる。……国王直々に命令されている。……国王の名前は……………ッ!?」


 いや、僕はそういう情報が知りたいんじゃないんだけど、って言おうとしたら、トレースがすごいショックを受けたような顔をしていた。


 「どうしたの?」

 「………………………………………なんでも、ない」


 いや、そんな捨てられた子犬みたいな顔されてなんでもないなんて言われても……。


 「どうかした?」

 「な、なんでも、ない」

 「……本当に?嘘じゃない?」

 「………………すまない、嘘、だ……」

 

 すっごく申し訳なさそうな顔を、トレースはした。……いや、そこまで反省しなくても


 「あ、ああ、す、すまない。ぼ、ボクとしたことが……。き、キミに、ご主人様に嘘を……!」

 「き、気にしないで!大丈夫だから!うん、そうだ、気にしないで。命令だよ?」

 「……う、うむ。了解」


 こうでも言わないとなんかずっと沈みっぱなしになりそうだった。……一体何があったんだろう?


 「さ、さあ。行こうか」

 「どこへ?」

 「どこへでも。……差し出がましくもボクが行先を決めてもよいと言うのなら……」

 「……言うのなら?」


 トレースは、まばらになりつつある商店街の遠く向こうを見つめて、言った。


 「敵の本拠地へ」


 彼女は手を、前に挙げる。手のひらを見つめる先に向け、何かをぼそぼそと、まるで呪文のようにすばやく唱える。


 「では、行こうかルウ」

 「……うん」


 トレースは僕の先を進む。……けど、彼女はさっきまでとは違って、僕の手を引こうとしなかった。

 ときおり、僕の顔色を窺うように振り向くトレースは、さながら媚びることでしか生き残れない捨て犬のようで……痛々しかった。


 何があったのか聞いてあげたい。でも、訊いたらもっと傷つけるんじゃないかと不安で。

 トレースにこんな顔をさせるのは一体誰だろう?だなんていうかすかな怒りと憤りを胸に秘め、僕はトレースについて行く。


 「……ついた」


 短くトレースは言って、立ち止まる。


 彼女が見つめる視線の先には、なぜか棒立ちになっている兵士がいた。


 






 「……キミは一体誰に頼まれてここにきた?」

 「え、あ、あ、ば、ばけも」

 「訊かれたことだけを、答えろ」


 鋭く、トレースは命じる。僕に背を向けて兵士に尋問するトレースは昼間とはまるで別人で、その姿に僕は少しだけ恐怖を覚えていた。


 「早く。言え」

 「……こ、国王に、た、頼まれました」

 「なぜ」

 「し、知りません」

 「そうか。なら、死ね」

 

 す、とトレースは手を兵士に掲げ、何やら呪文を。


 「トレース、やめて」

 「……なぜだ?」


 唱える前に、僕が止めた。……よかった、止まってくれた。彼女は僕の方を向いて、不満そうな顔を僕に向ける。


 「人殺しは、よくないよ」

 「わかっている。それはよくないことだ。しかし彼も、そのよくないことをしようとした。殺されそうになったら、殺し返してもいいというのが大抵の村での掟だし、この国の法律だってその例外じゃない」

 「僕たちは今、殺されかかってるわけじゃない」

 「ここの一場面のみを切り取れば、ご主人様の言うとおりだ。しかし、過去たしかに彼はボクらを殺そうとしたし、ここで無罪放免、無傷で返してもまたボクらを殺そうとするだろう」

 「命を助けてくれた恩を、仇で返すはずないよ」

 「……違う。キミは助けたつもりでも、彼にとっては屈辱を与えられたことになるんだ。……だから、その恨みを返しに来る。今度は国王の命でなく、自身の意思で」

 「……でも」

 

 ……そんなこと、言われてもわからないよ。僕はトレースに人を殺してほしくない、そう思ってるだけなのに。


 「……わかった。ご主人様の頼みだ。無下に断るわけにはいかないし、断るつもりはかけらもない。……無罪放免とはいかないが」

 「何する気?」

 「……少しだけ、だ」

 「何が?」


 トレースは再び、兵士の方に手を向ける。しかし今度はずいぶんと下の方……もっと詳しく言うのなら、膝の位置でその手のひらは止まっていた。


 「少しだけ、痛い目を見てもらう。……これは、警告だ」


 シュン。その手で膝を斬るかのように彼女は腕を振るった。

 けれど、何も変化は起きない。


 「さあ、行け」


 トレースはそれだけ言うと、僕の方に向き直る。

 自由になったことが分かると、兵士はいちもなく逃げだした。


 「……ふん、これで向かってくるようなら、してやったのに」

 「トレース」

 

 僕はたしなめるように名前を呼ぶ。

 すると、彼女は恭しく一礼をして、応えた。


 「了解した、ご主人様。これからはもう、ボクはキミの許可なしに人を殺さないと誓う。……これで、いいか?」

 「……うん、いいよ」

 「それはよかった」


 かすかな微笑みを、トレースは見せた。

 そう、今はそれでいいと思う。だって、僕はトレースに誰かを殺せなんて命令、絶対しないから。


 「さあ、敵の本拠地へ行こうか」

 「……そうだね」


 トレースのあとに、僕はついていく。


 日が暮れるまで、もう少し。

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