初めての得物
カラン、カラン……と、扉につけられた鈴が鳴る。
大通りにあるのに、人気のない店内。けれど、この店が何を取り扱っているかということを考えれば、なにも不思議はないとおもう。
「……ここに、僕たちに必要なものが?」
「いや、キミに必要なものだ。……きっと、何度も、何度も必要になるだろうね」
「……そうかな」
できれば、ここで手に入れたものは使いたくない。僕はそう思った。甘い、とか言われるだろうか。
「嫌なのか?……キミは優しいんだな。きっと、それがキミの性質なんだろう。恥じることはない」
そうだろうか。
僕は周りに飾られた商品を眺める。……鉄と、木でできた商品は、ただ一つの目的を達するために作られた物だ。
それはただ、人を傷つけるために。
「……こんなもの、僕はあまりほしいとは思わない」
ここは、武器屋だ。剣、刀、槍、なんでもそろっている。
「そうか。まあ、護身用だと思って選んでくれ」
「選ばなきゃダメ?」
「ダメというわけではないが、あった方がいい」
「……そう」
武器が必要だということはいくら僕でも理解できる。でも、こんな平和で、こんなにも美しい国でこれらが必要になるとは思えない。
「あまり気が進まないようだな。僭越ながらボクが選んでもいいか?」
「好きにしてよ」
「……これなんかどうだろう?」
すっと彼女が僕に見せてきたのは、きれいな二振りの双剣。刀身にはわずかのほこりもついておらず、曇り一つない銀の輝きを保っていた。柄はおしゃれな装飾が施され、にわかにはこれが武器だとは信じられない。壁に飾りつける儀礼用の剣にしか見えない。
「これ、使えるの?」
「もちろん。切れ味は保証する」
「……」
これも、武器なんだ。こんな武器もあるんだ。
トレースが差し出してきた双剣を、手にとってみる。カチャリ、と金属質の音はするのに、重さは全くと言っていいほどない。……なんか、空気を持っているみたい。
「軽い。……それに、なんか不思議な感じ……」
何かの呪いでもかけられているのだろうか?でも、それにしては温かみのある雰囲気だ。
「おお、よく気付いた。さすがボクのご主人様。それはな、ある能力があるんだ」
「能力?」
「そう。簡単な能力だよ。『斬りたいものを斬る』力だ」
「……?」
斬りたいものを、斬る?一体どういうこと?
「この剣は持ち主の斬りたいものだけを斬る。斬りたくないものは絶対に斬らない。そういう剣なのだ」
つまり。これは持ち主の心のありようによっては、誰一人傷つけずに済む、ということ?
そういうことなんだろう。……うん。
「これにするよ」
「気に入ってくれたか?」
「うん。とってもいい剣だね」
「そうだな。キミにピッタリの剣だ」
それは間違いない。僕はこの剣がとても気に入った。斬りたいものだけを斬る剣。長い間使えたらいいな。
「では、これを店主に持って行こうか」
「え、僕が買うの?」
「もちろん!キミの剣だ、キミが買わないでどうする」
「お、お金は」
「ここにある」
そう言って、金貨をジャラジャラと僕に渡すトレース。この金貨ってたしかこれ一枚で肉とか魚とかいっぱい買えるはずじゃあ……。
「こ、こんなの使えないよ」
「使えるさ。ただこれください、って言って金貨を置いてくるだけでいいんだ。隣でボクも見てるから、大丈夫」
「な、なんかそれってすっごく情けなくない?『初めてのおつかい』みたいな……」
「何を言っている。初めてのおつかいどころかキミは今日初めて生活するんだろう?なら、先達が必要だろう?」
必要だけど……僕には知識があるわけで、そういうことは恥ずかしいっていう知識ももちろんあるわけで!
「とにかく!さあ、行った行った!」
「え、うわ、ええ!?」
ぐいぐいと背中を押されて、僕は店主さんのいるところ――レジ、って言うのかな?なんか違う気がするけど……僕の知識はそう言ってる――まで連れてこられた。
店主さんは初老の人で、とても厳粛そうだ。
「……何か?」
「ほら、ルウ!」
トレースに背中をトントンと押されて、僕はおずおずと手にした双剣を差し出した。持ってる金貨全部も、カウンターに置く。
「……!!!?」
店主さんはまず、置かれた金貨を見てびっくり。次に、双剣を見てびっくり。
特に双剣に対するびっくりの方が大きかったみたいだ。……自分のお店の商品なのに、どうしてここまで?
「あ、ああ、えええ?……ま、まあ、いいか?見間違い、じゃろうて。……ええと、この双剣だとガレオン金貨三枚じゃな。十七枚もいらんよ」
「あ、ありがとうございます!」
金貨を三枚だけ残して、あとは手につかむ。双剣も一緒に手につかもうとするけど、一本だけ持てない!
「ん、ルウ。金貨を貸してくれ。財布にいれておく」
「あ、ありがとう」
僕はトレースにお金を渡した。片手が空いたので、もう一方の剣も持つ。
「買い物終了、だな」
「うん!」
僕たちは驚いた顔のままの店主さんにお礼を言って、外に出ようとする。
「……あ、そうだトレース」
「なんだ?」
「これ、鞘とかあるかな……?ここに売ってるといいけど」
「……鞘か。忘れていた。…………………これはどうだ?」
トレースが、僕の腰を指さした。何のことかわからず、僕は腰に目を見やると。
「うわ、すごい」
「ふふん。これがボクの道具としての力だ」
すでに、皮でできた鞘が僕の腰にまわされていた。双剣に負けないくらいきれいな装飾と厳かな雰囲気で、鞘にしまっていても双剣のきれいさは欠片も失われないだろう。
僕はたどたどしくも、ちゃんと双剣を鞘に納める。ぴったりと合った。
「うん、似合っているぞ。これの名前を決めておこうか?いつまでも『双剣』じゃ味気ない」
「そうだね。……」
悩みながら僕は店を出る。トレースは当然のように僕についてくる。手を引いて歩かないところをみると、今は特に何か用事があるわけでもないようだ。
人ごみの中、僕は知識を総動員して、考える。……。
そして、思いつく。
「コンシャンス、っていうのはどう?」
「……コンシャンス?……ふむ、何か意味でもあるのか?」
「あるよ」
僕は新しく手に入った武器……コンシャンスを腰に携え、大通りを行く。
この武器の名前の由来は。
「『良心』っていう意味だよ」
何かを斬りたい、そんな思いを、僕がしませんように。そんな願いを込めた、名前。