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【6話】リファルトへの報告


 入室の許可を得たエレインとフィオは、手を繋いだままリファルトの部屋へと入る。

 

「は?」

 

 執務机で書類仕事をしていたリファルトの手から、ペンが転げ落ちる。

 

 仲睦まじそうに手を繋いでいる二人は見たリファルトは、愕然としていた。

 ブルーの瞳を大きく見開いたまま、動かなくなってしまう。

 

「エレイン様には、今日から私の教育係になって貰います! その報告をしに来ました!」

「…………は?」


 二度目の「は?」が飛んでくる。

 驚愕度が上昇した顔には、何を言っているんだ、という文字が書いてあった。

 

 しかしフィオは、気にする素振(そぶ)りをいっさいみせない。

 

「エレイン様、とっても教えるのが上手なんですよ!」


 瞳をキラキラさせながら、昨夜から今に至るまでの経緯を、駆け抜けるような早さで一気に話していく。

 

(フィオったら、もう!)


 話の内容のほとんどは、エレインがすごい、というものだった。


 そんな自慢げに話されては、こっぱずかしくなってしまう。

 同時に、ものすごく嬉しくもあるのだが。

 

 しかし、恥じらいと嬉しさのダブルパンチの感情は、一挙に吹き飛んでしまう。

 リファルトに凄まれてしまったのだ。

 

 彼の視線は鋭いナイフのようで、殺意が孕んでいるかのようだった。

 

 そんなおっかないものに睨まれたエレインは大きく恐怖。

 背中をビクッと跳ねさせる。

 

(もしかして私、ここで殺されちゃうの!?)

 

 恐ろしいことを考えてしまう。

 

 だが、そうはならかった。

 

 リファルトはエレインから視線を外すと、今度はそれをフィオへと向けた。

 瞳に宿っていた殺意は、跡形もなく消えている。

 

「……本当にいいのか? そいつはレルフィール家の人間なんだぞ?」

「はい。エレイン様はエレイン様です。ノルン様ではありません。ですから大丈夫です。信頼できます!」

「…………そうか。お前がそこまで言うのであれば、分かった」


(あれ、いいの!?)


 殺意のこもった瞳を向けられた時点で断固反対されると思っていたのに、まさかの容認。

 あっさりと通ってしまったこの結果は、意外でしかなかった。正直、拍子抜けだ。

 

(よく分からないけど、うまくいって良かったわ!)

 

 やぶれかぶれの精神で臨んだ報告は、大成功。

 スッキリした気持ちで部屋を出て行こうとしたエレインだったのだが、

 

「貴様はここに残れ。話がある」


 リファルトに呼び止められてしまう。

 

(……そうよね。やっぱり、簡単にはいかないわよね)

 

 ぬか喜びにガックリと肩を落としそうになるも、なんとか我慢する。

 心配そうにしているフィオに、余計な気遣いをさせたくなかった。

 

「大丈夫よ。フィオは部屋に戻っていて」

 

 から元気を出して、笑顔を取り繕う。

 まったく大丈夫ではないのだが、フィオを安心させたかった。

 

 

 フィオが去りし今、二人きりとなった部屋に漂うのは、ひたすらの重たい沈黙。

 息の詰まるような緊張感が張りつめられている。

 

 残れと言ってきた張本人であるリファルトは、執務机に座ったまま押し黙っている。

 腕を組んで、これでもかというくらいに不機嫌な雰囲気を出していた。

 

(気まずすぎるわ……)


 この空気に、もう耐えられそうない。

 我慢の限界となったエレインは、リファルトよりも先に行動を起こす。

 

「勝手な真似をしてしまい、申し訳ございませんでした」


 これ以上に機嫌を悪くしないよう、謝罪から入ってみた。

 しかし、


「……俺はこう言ったよな。『部屋でおとなしくしていろ』、と。貴様、話を聞いていなかったのか?」

 

 リファルトの不機嫌さは、さらに上昇してしまった。

 意を決したエレインの行動は、完全に裏目ってしまう。

 

(……ダメなのかしら)


 この様子からして、エレインが教育係になることを認めてはくれはしないだろう。

 

 当主の意向は絶対だ。

 エレインにやる気がどれほどあろうと、フィオがどれだけ願おうと、そんなものは関係ない。

 リファルトが首を横に振れば、それだけで白紙になってしまう。

 

(あの子になんて報告したらいいのよ……)


 フィオには、大丈夫、と言ってしまった。


 それなのに、結果はこのざまだ。

 

 教育係になれなかった、と言ったら、フィオはきっと悲しんでしまうだろう。

 ボロボロと大粒の涙を流してしまうかもしれない。

 想像するだけでも、胸が苦しくなってしまう。

 

「まったく……。余計な真似をしてくれたな。貴様、フィオに教えられるだけの教養は身についているのだろうな?」

 

 不許可の宣告を突きつけられると思いきや、飛んできたのはまったく違うものだった。

 戸惑うエレインに、どうなんだ、とリファルトが催促をする。

 

「その……一通りの令嬢教育は受けていますので、問題ないと思います」

「ふん、どうだかな。……まぁいい。その辺りは、おいおい確認するとしよう。ともかくだ」


 顔を強張らせたリファルトが睨んできた。

 

「フィオを傷つけるようなことをしてみろ。俺は絶対に、貴様を許さない……絶対にだ! 肝に銘じておけ!」


(あれ? つまりそれって……)


 なんと、リファルトは認めてくれた。

 睨まれていることによる恐怖よりも、そちらの方に意識が集中していく。

 

(でも、どうしてかしら?)

 

 エレインが教育係になることを、認めない流れだったはず。

 それなのに、いったい何がどうしてこうなったのか。

 

 まったくもって状況が飲み込めていないエレインは、なせですか、という言葉を反射的に口にした。

 

「フィオがやりたがっていることを邪魔したくないんだ。……個人的には大反対だがな」


 こういうとき、どういう反応を返すのが正解なのだろうか。

 今までに体験したことのない状況に、そんな思考を働かせながらも、

 

「……ありがとうございます」

 

 とりあえずお礼を言ってみた。

 

「話は以上だ」


 そう言ってペンを動かし始めたリファルトは、書類仕事を再開した。

 

 見たところ、反感は買っていない。

 エレインが取った反応は、正解だったようだ。

 

「令嬢教育に必要なものをすぐに届けさせるから、部屋で待機していろ」

「お願いします」

 

 慌ただしく手を動かしているリファルトにお辞儀をして、部屋を出ていく。

 

「ふんふんふふーん」


 私室までの道のりを、エレインはご機嫌に歩いていく。

 

 過程はいまいち分からないものの、結果的にはうまくいった。

 晴れてフィオの教育係に就任できた。終わり良ければすべて良し、というやつだ。

 

 この結果をフィオに報告をしたら、どんな表情を見せてくれるだろうか。

 想像するだけで、ワクワクする気持ちが溢れて止まらなくなってしまう。

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