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【5話】フィオのお願い


 床に崩れて号泣し、フィオに魔法を教えた。

 そんな初日を終えての、翌朝。

 

(昨夜は楽しかったわね)

 

 ふふふん、とご機嫌な声が部屋に響く。

 

 私室で朝食を食べ終わったエレインは、机に座りながら顔をニヤニヤさせていた。

 昨夜、フィオと過ごした幸せな時間の余韻に浸っていたのだ。

 天使のようなあの寝顔を想像するだけで、口元が自然とほころんでしまう。

 

「フィオです! 入ってもよろしいですか?」


 扉の外から聞こえてきたのは、元気いっぱいの可愛らしい声だった。

 

 断る理由など欠片たりともない。

 いいわよ、と返事するエレインの声色は、大きく弾んでいた。

 フィオと会えると思うと、ウキウキが抑えきれなかったのだ。

 

 バタンと扉を開けて勢いよく部屋の中に入ってきたフィオは、びゅーんとエレインの元へ一直線。

 口元には、朗らかな笑みを浮かべている。

 

 純粋無垢なその笑顔を見たエレインは、体中がポカポカとリラックスしていくのを感じた。

 フィオの笑顔には、絶大な癒しの力があるようだ。

 

 おかげで、一日の始まりから特大の元気を貰うことができた。

 

「昨日は本当にありがとうございました!」

「お礼を言うのは私のほうよ。朝からありがとうね」

「え? 私、何もしていませんよ?」

「いいのいいの。気にしないで。……それで、どうしたの?」

「ここへ来たのはですね、エレイン様にお願いしたいことがあるからです」


 小さく息を吸い込んだフィオが、エレインを見上げた。

 

「私の教育係になってくださいませんか? 最近、先生が辞めてしまったのです」


 教育係が辞めてしまった理由を、フィオが話し始める。


 教育係が職を辞したのは、調子を崩した父親の看病をするためらしい。

 遠く離れた実家に戻り、これからは看病に専念したいとのことだった。

 

 そんな訳で、教育係の席は現在空席になっている。

 そこにエレインが座って欲しい、というのがフィオのお願いの内容だった。

 

「もちろんいいわよ!」


 一般的な教養やマナーについての令嬢教育を、エレインは受けている。

 両親は冷ややかな態度を取っていたものの、教育はしっかりと受けさせてくれたのだ。

 

(将来自分たちの役に立つことがあるかもしれないから、っていう理由なんだけどね)

 

 教育を受けさせたのはエレインのためではなく、自分たちのためだった。

 エレインのことなど、まったくもって考えていなかったのだ。

 

 なんとも残念な理由ではあったが、それはともかく、教育内容は身についている。

 フィオに教えるには差し支えないだろう。

 

 そして、魔法の方も問題はない。

 十五歳まで通っていた魔法学園では、座学、実技ともに優秀な成績をおさめていた。

 

 学生時代のエレインは、魔法についての知識を深めるのを楽しんでいた。

 熱中するあまり、オリジナル魔法まで編み出したこともあるのだが――その話はいったんおいておく。

 

 教養、マナー、魔法。

 フィオの教育係として必要なものは、すべて満たしているはずだ。

 

「やったー!!」

 

 両手を広げたフィオがガバッと抱きついてきた。

 

(あぁ……! 幸せだわ!)


 天にも昇る気持ちを味わいながら、フィオを抱きしめ返す。

 最高にハッピーな気分になる。

 

 しかしここで、大きな不安が頭によぎってしまった。

 

(でも、教育係になるっていうのは流石にやりすぎよね。……リファルト様に怒られること間違いなしだわ)


 教育係になる以上、リファルトへの報告は避けては通れないだろう。

 ごまかしは効かない。

 

 そのときの反応を考えると、どうしても怖くなってしまう。

 

「ではさっそく、お父様のところへ報告しに行きましょう!」


(え、嘘!?)


 エレインの手を、フィオがギュッと握った。

 フィオに手を引かれる形で、エレインは部屋を出ていく。

 

 フィオの行動はいきなりもいいところ。

 心の準備はまだできていなかった。

 冷たい汗が背筋を流れる。

 

(やっぱり断るべきかしら。…………いいえ、それはダメだわ!)


 ここで断ったら、きっとフィオは悲しい顔をしてしまうだろう。

 そんな表情は見たくないし、させたくもない。

 

 それに、一度交わした約束を破るというのは、人として最低な行為だ。

 せっかく信頼してくれたフィオの気持ちを、大きく裏切ることになってしまう。

 

 そんなことは、絶対にしてはいけない。

 

(こうなったらもう、出たとこ勝負しかないわ!)


 半ばヤケクソ、やぶれかぶれの精神。

 エレインは覚悟を決めた。

 

 どういうった風に報告するかはまったく決まっていなかったが、やるしかないのだ。

 

「着きました! ここがお父様のお部屋です!」


 フィオがドアをノックすると、入ってくれ、という言葉がすぐに返ってきた。

読んでいただきありがとうございます!


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