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【4話】虐げられていた理由


 屋敷の中へ戻った二人は、フィオの部屋へと入った。

 

 机の上には、いっぱいの本が置かれている。

 この国の歴史や魔法学など、令嬢教育で用いられるような教本だ。

 

 きっとフィオは、勉強家なのだろう。

 

(頑張り屋さんなのね)

 

 感心しながら、エレインはベッドの縁に腰をかけた。

 隣には、既にフィオが腰をかけている。

 

「私のお願いを聞いてくださってありがとうございます!」

「いいのよ。私もフィオとお話しをしたかったもの」


 ずいっと体を寄せてきたフィオが、満面の笑みを浮かべた。

 一挙手一投足、そのすべてが可愛いらしい。

 

「それにしても、エレイン様の適性属性は闇属性なんですね! 私と同じ人に、初めて出会いました!」

「それは私も同じよ」


 火・水・風・土・光・闇――魔法には六つの属性があり、魔力を持つ人間は、その六つの中から自らと相性が良い属性の魔法を扱うことができる。

 自らと相性が良い属性のことを、適性属性という。

 

 適性属性は一つに限られており、適性属性以外の属性魔法は使えない。

 

 適性属性が火属性の者が水属性魔法を発動しようとしても、不発に終わってしまうという訳だ。

 

 自らの適性属性は、放出する魔力の色によって判別できる。

 

 エレインとフィオの魔力の色は、ともに黒色だった。

 黒色の適性属性は、闇属性だ。

 

 適性属性が闇――闇属性適性者というのはかなり珍しい。

 

 他の人とは違う希少な存在。

 普通であれば、少し嬉しかったりする場面なのかもしれない。

 

 しかしエレインは、かつて一度もそのような気持ちになったことはなかった。

 

 闇属性魔法は災いをもたらす――ここマルーファス王国には、古くからそんな言い伝えが残っている。

 そのため、闇属性適性者というだけで白い目で見られてしまうのだ。

 

 エレインがレルフィール家の人間に嫌われていたのも、それが原因だった。

 闇属性適性者という理由だけで「汚らわしい」と虐げられ、真っ暗な人生を歩んできたのだ。

 

(フィオはそんなことにならなければいいけど……)


 見たところ、フィオは辛い思いをしていないように思える。

 願わくば、このまま育ってほしいものだ。自分の二の舞にだけはなってほしくない。

 

「エレイン様の均一化、とってもきれいでした!」

「ありがとうね。フィオも良かったわよ」

「嬉しいです! 私早く、一人前の令嬢になりたいので!」


 その声には、ハッキリとした強い意志が込められていた。

 

 どうしてそこまでやる気に満ち溢れているのだろうか。

 不思議に思ったエレインは、浮かんだ疑問をそのまま口にしてみた。

 

「引き取ってくれたお父様に、恩返しがしたいんです」


 フィオを産んですぐ、彼女の両親は他界してしまったらしい。

 生まれて早々に孤児となってしまったフィオを、リファルトが引き取ったのだとか。

 

(この年で恩を返したいだなんて、フィオは立派な子ね。それにしても、リファルト様にも優しい部分があったのね……)


 フィオを引き取ったというエピソードが意外に感じられた。

 怒っているところしか見ていないだけに、優しい彼というものがまったく想像できない。

 

(フィオもリファルト様も、お互いがお互いを思い合っているのね。いい家族だわ。……私とは大違い)


 レルフィール家において、エレインは常に邪魔者。

 つまはじきにされていた。

 

 強い絆で結ばれている家族というのが眩しくて、少し羨ましいなんて思ってしまう。

 

「そういえばフィオは、私のことが怖くないの? 私、ノルンの姉なのよ?」

 

 ノルンはフィオに手をあげている。

 暴力を受けたフィオはかなり怖い思いをしたはずで、レルフィール家の人間というだけで警戒されてもおかしくない。

 

 それなのにフィオは、エレインのことをいっさい怖がっていない。

 その接し方は嬉しい限りなのだが、同時に疑問に思う部分でもあった。

 

「怖くありません。エレイン様を一目見た時から分かったんです。この人は優しい人だって!」

 

 自信たっぷりに、フィオは言い切ってくれた。

 最初から最後までいっさい迷うことなく、そう言ってくれたのだ。

 

 優しくて温かな感触が、エレインの体をいっぱいに満たしていく。

 

 これまでの人生でかけられてきた言葉といえば、暴言と罵倒と嫌味だけ。

 こんなにも心温まる優しい言葉をかけられたのは、これが初めてだった。

 

 その感触が温かすぎるあまりに、エレインは涙を流してしまう。

 

「ありがとう……!」


 感謝の気持ちをいっぱいにこめて、小さなフィオの体をギュッと抱きしめる。

 フィオの顔が、すっぽりとエレインの胸に埋まった。


 

 そうして抱きしめていると、いつの間にか小さな寝息が聞こえてきた。

 胸に埋まっているフィオからだ。

 口元は微かに上がっており、安心しているような顔をしていた。

 

「どんな夢を見ているのかしらね」

 

 きっと楽しい夢に違いないだろう。

 

 起こさないようにゆっくりと、フィオの体をベッドの上へ倒す。

 せっかくいい夢を見ているのに、覚ましてしまうなんてかわいそうな真似はしたくない。

 

 そんなエレインの試みは成功。

 フィオを起こすことなく、無事に体を横にすることができた。

 体にふとんをかけてあげれば、もう完璧だ。

 

「おやすみなさい、フィオ」


 フィオの頭を優しく撫でて、エレインは部屋を出ていった。

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