【26話】三人でいられることの幸せ
無事にデルドロア邸に帰ってきた三人は、揃って食堂へ向かった。
時間は夕刻。
ちょうどいい時間なので、食事をしようという話になったのだ。
食卓テーブルについているリファルトとフィオを見て、エレインは大きな安堵の表情を浮かべる。
「良かった……本当に良かったです!」
危うく、破壊されそうになった日常。
でもこうしてまた三人で、同じ食卓を囲むことができた。
これ以上の幸せはないだろう。
目頭が熱くなってきた。
さきほどあれだけ泣いたというのに、また涙してしまいそうになる。
「まったくだ。今回の件で、三人でいられることがどれだけ幸福なのか、それを気づかされたような気がする」
リファルトの言葉にフィオも、「私もです!」、と大きく頷いた。
大きな瞳からは、ポロポロと涙が流れている。
「俺はこれからもフィオと、それから、”エレインとも”、ずっと一緒にいたいと思っている」
エレインとも、という言葉を、リファルトはなぜか強調。
意味深なニュアンスが含まれているような気がするのだが、何なのかが分からない。
疑問に思いながら、二人を交互に見る。
リファルトは顔を真っ赤にしていた。
いつもの冷静な雰囲気はどこへ行ったのやら、落ち着きなく目線を動かしている。
そしてフィオはというと、すこぶる上機嫌。
ついにお父様が動きました、と嬉しそうに呟いている。
(…………あ。もしかして)
二人の反応から、意味深だった言葉の意味を理解。
多量の熱が顔に集まってくる。
火傷しそうなくらいに熱くなっていた。
「その……君に言いたいことがあるんだ!!」
「ははははいっ!!」
勢いよく立ち上がったリファルトに合わせて、エレインも立ち上がる。
「これからも、俺とフィオの側にいてほしい。つまり、だな……俺と結婚してくれないだろうか!!」
熱い感情が、一気に広がっていく。
死ぬほど恥ずかしかいのに、それとは比べ物にならないくらいに、とても嬉しい。
世界で一番好きな人に、プロポーズされたのだ。
これ以上に嬉しいことなどない。
「喜んでお受けします!」
「いいのか!?」
「私、リファルト様のことがその……大好きですから」
「だ…………大好き」
リファルト頭から、プシューっと湯気が上がる。
エレインの言葉がよほど衝撃的だったのか、動きを止めてしまった。
「それに二人と家族になれるのが、私は本当に嬉しいんです!」
互いを大切に想っているリファルトとフィオの家族の在り方は、とても眩しくて素敵だった。正直、羨ましくも思っていた。
家族からずっと虐げられてきたエレインにとっては、まったく考えられないものだったからだ。
そんな素敵な関係の一員になれることが、エレインはたまらなく嬉しかった。
夢でも見ているようだ。もしこれが夢だというのなら、一生覚めないでほしい。
「わぁい!!」
飛びついてきたフィオが、満面の笑みを浮かべる。
「これからもずっと一緒ですね! エレイン様――じゃなくて、お母様!」
「ん~っ! 最高!!」
お母様――なんて素敵な響きなのだろうか。
溢れ出る満足感を全身で感じながら、フィオの体を強く抱きしめた。
******
エレインがデルドロア公爵夫人となってから、半年あまりが過ぎた。
フィオを誘拐した罪で、ルベイロンは牢に投獄されている。
そして、誘拐計画を企てたノルンもまた、同じように投獄されていた。
二人に課された罰は、無期懲役。
公爵令嬢を誘拐殺人しようとした罪は重く、断じて許されるものではないという判断がなされたのだ。
残る人生のすべてを、閉鎖された牢の中で過ごさなければならない。
終わりのない毎日は絶望そのもの。さぞや、辛くて惨めな思いをしていることだろう。
けれど、同情はしない。
大切な宝物であるフィオを、二人は殺害しようとしていた。
それは、絶対に許されないことだ。
一生をかけて、自らの犯した罪を反省してほしいと思っている。
「難しい顔をしているが、どうかしたのか? もしや、困りごとか?」
「何でも言ってくださいお母様! 私、力になりたいです!」
食事の場で考えごとをしていたエレインを、リファルトとフィオが深く心配してくれた。
「ありがとうね、二人とも」
(私は本当に幸せ者ね)
満面の笑みを浮かべる。
こんなにも気遣ってくれる夫と娘に囲まれて、これでもかというくらいに幸せな気持ちを味わっている。
(まさか、虐げられていた私が――私だけが幸せになるなんてね)
ノルンが罪を犯したことで、レルフィール伯爵家は爵位を剥奪された。
風の噂では、とても悲惨な暮らしをしているのだとか。
無期懲役中のノルン。
悲惨な暮らしをしている両親。
レルフィール家の人間の中で幸せになったのは、エレインだけだ。
ここへ来る前は、そんな未来を迎えるなんてまったく想像できもしなかった。
それもこれも全部、リファルトとフィオに出会えたおかげだ。
これからの人生は、今感じている幸せを噛みしめながら、家族仲良く生きて行こうと思う。
これにて完結です!
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それではまた、次回作でお会いしましょう!




