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【19話】二人のために私ができること ※フィオ視点


 デルドロア邸で働くメイドたちの間では、近頃、とある噂が広まっていた。


「旦那様とエレイン様って、最近かなり”いい感じ”よね」

「美男美女でお似合いだわ」

「いつ結婚してもおかしくないわよね」


 彼女たちの話に、デルドロア公爵令嬢のフィオは、うんうんと頷いていた。

 

 リファルトとエレインが結婚するのを、フィオは強く望んでいる。

 

 令嬢教育というのは、通常、十歳頃まで行われるものだ。

 つまり、あと三年もすれば、フィオの令嬢教育期間は終わりを迎える。

 

 それは同時に、教育係であるエレインの役目が終わってしまうことも意味していた。

 

 そのとき、エレインはどうするのか。

 役目を終えたことで、この家から出て行ってしまうかもしれない。

 

 そんなのは嫌だ。

 エレインと離れたくない。ずっと一緒にいたい。

 

 けれど、リファルトと結婚すれば話は別だ。

 エレインはデルドロア家を出て行くことなく、ずっとこの家にいてくれる。

 大好きなエレインと、一生一緒にいることができるのだ。

 

 そのためにも、二人には早くくっついてもらいたかった。

 


 その日の夕食。

 

 リファルトとエレインの間には、なんだかよそよそしい雰囲気が流れていた。

 

 おそらく、メイドたちの噂が耳に入ったからだ。

 おかげで、恥ずかしくなってしまっているのだろう。

 

(どうしよう! このままじゃ、エレイン様とお父様が結ばれない!)

 

 このまま何も起こらなければ、エレインが出て行ってしまうかもしれない。

 そうなれば最悪だ。

 

 お父様どうにかして! と、念を送ってみる。

 王国最強の魔術師であるリファルトなら、どうにかしてくれるはず――そんな期待を込めていた。

 

 しかし、期待は外れる。

 リファルトは緊張した顔で、よそよそしい態度を取っているだけだ。

 望みは薄いだろう。

 

(こうなったら私がどうにかしないと!)


「明日、三人で王都へ出かけませんか?」


 フィオの提案に、二人はそっくりな顔で驚いた。

 説明してくれ、と言わんばかりだ。

 

「私たちって、仲良しじゃないですか? だからみんなで、お出かけしたいんです!」


 身を乗り出してそう言ってみるも、二人は何も答えない。

 気まずそうにして、口を閉じていた。

 

(ダメだ。まだ足りない……!)

 

 でも、ここで諦める訳にはいかない。

 

「どうして何も言ってくれないんですか? もしかしてそう思っているのは、私だけだったんですか……」


 二人から、出かけよう、という返事を引き出すため、もう一押しした。


 眉を下げて、しゅん。

 今にも泣き出しそうな表情をする。

 

 そうすると、二人は急にあわあわし始めた。

 

「そんなことはない!」

「そうよ! 私たち三人は仲良しだわ!」


(嘘をついてごめんなさい!)


 心の中で謝る。

 大好きな二人を騙すような真似をしてしまったせいか、チクリとした痛みが胸に走る。

 

(でも、エレイン様と一緒にいるためには必要なこと!)


 そう言いきかせたフィオは、最終確認に入る。

 

「それでは、私のお願いを聞いてくれますよね?」

「もちろんだ!」

「当たり前じゃない!」

 

 望んでいた答を引き出せたフィオは、ニッコリと笑う。

 

 作戦は成功した。

 あとは()()()を行えば、完璧だ。

 

 

 翌朝。

 三人が集う朝食の場で、フィオはペコリと頭を下げた。

 

「ごめんなさい! 私、今日中にやらなければならない大切な用事を思い出したんです……。ですから、一緒にお出かけできなくなってしまいました」

 

 しかしながら、これは嘘だ。

 大切な用事なんてものは、最初からありはしない。

 

 これこそが、作戦の仕上げ。

 リファルトとエレインを二人きりでデートさせるために、フィオは一芝居うったのだ。


(本当は私も一緒にお出かけしたかったけれど、それはまたの機会です!)

 

「そうなのね。それじゃ残念だけど、今日のお出かけは中止――」

「それはいけません!!」


 そんなことされては、今回の作戦が水の泡だ。

 中止を宣言しようとしたエレインに、慌てて待ったをかける。

 

「お父様とエレイン様には、行けなくなってしまった私の分まで楽しんできて欲しいんです! ですから今日は、夕方まで帰ってきてはいけません! いいですか、二人とも!!」


 語気を強めるフィオ。

 胸を張って、有無を言わせない雰囲気を作る。

 

 絶対に成功させてみせる、という鋼の意思がむき出しになっていた。

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