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【18話】二人の勘違い


 王都からデルドロア邸へと戻ってきた。

 ゲストルームにて、エレインは事情を話す。

 

 グレイシアとフレッドは、職場の同僚であること。

 彼らとともに、レストランで食事をしようしていたこと。

 

 包み隠さず全てを公開する。

 どうして食事をしに行くことになったのか――その部分だけは除いてだが。


「……勘違いだったのか。すまない」


 しゅんとした面持ちで、リファルトが謝罪してきた。

 たっぷりの後悔が浮かんでいる。

 

 予定よりも仕事が早く終わったリファルトは、先ほど王都へ戻ってきたらしい。

 そこで、エレインとフレッドの姿を見かけたそうだ。

 

「あまりにも――そう、俺よりも仲が良さそうだったから、つい嫉妬してしまったんだ」

「そうなのですね」


 子供じみた理由は、なんとも可愛らしかった。

 ふふっ、という小さな笑い声が漏れる。

 

 頼りがいのある普段とのギャップがおかしくて、もう我慢できかった。


「俺は真剣に言っているというのに……まったく君は」


 拗ねてしまったリファルトも、これまた可愛らしい。

 もう一度吹き出してしまいそうになるが、それは流石に失礼というもの。頑張って我慢する。


「……ともかく、本当にすまなかった。フィオと君に会えないのが寂しくて、軽率な行動をとってしまった」

「私もです! リファルト様に会えなくて、私もとっても寂しかったです!」


 リファルトも同じ気持ちを抱いてくれていたのが嬉しかったものだがら、エレインは勢いで声を上げる。

 

 だが、すぐに後悔。

 

 大胆な宣言をしてしまったことで、羞恥の波が一気に押し寄せてくる。

 勢いというものは、まったくもって恐ろしい。

 

「そ、そうか。君もか」


 恥ずかしそうに呟いたリファルトの頬は、真っ赤に染まっていた。

 

 初々しいようなむずがゆいような、そんな雰囲気が、部屋の中に流れる。

 

 気まずくてしょうがないエレインは、リファルトの顔を見ていることができなくなってしまう。

 逃げ場を求めて、床の方へと目線を落とした。

 

「エレイン、君に渡したい物がある。少しの間、目を瞑っていてくれないか?」


 エレインはコクリコクリと頷く。

 今はもう、まともに頭が働いてくれなかった。

 

 そうして目を瞑っていると、何かを首にかけられたような感触がした。

 

「もういいぞ」

「はい」

 

 ゆっくりと瞳を開く。

 

 エレインの首には、宝石の飾られたネックレスがかかっていた。

 

 トップにはまっているのは、大きなルビー。

 鮮やかに輝く赤色がなんとも美しい。


 身に着けているだけで、煌びやかな気分になる。

 身分の高い貴婦人にでも、変身してしまったようだ。

 

「このネックレスはいったい……」

「君へのプレゼントだ」

「そんな! こんなに高そうな品物、受け取れませんよ!」

「そう言うと思った。でも、受け取ってほしい。これはそうだな……君に対する、日々の感謝の気持ちだ」


 リファルトの口元が楽しそうに上がる。

 

「フィオのこと。それから、俺を楽しい気分にさせてくれること。君にはいろいろと感謝している。だから少しでも、お礼をさせて欲しいんだ」


 腕を伸ばしたリファルト。

 力強くも優しい手のひらが、エレインの頭をゆっくり撫でる。

 

「よく似合っている。綺麗だぞ、エレイン」

 

 瞬間。エレインの心拍数が、爆発的に跳ね上がる。

 今にも破裂してしまいそうだ。

 

(って、違う違う! なに勘違いしているのよ、私!!)

 

 リファルトはきっと、お世辞で言ってくれているだけだ。

 真に受けてはいけない。本気になってはいけない。

 

 そんなことを、強く自分に言い聞かせる。

 けれど、うるさいくらいの鼓動は鳴りやまない。どうしても、ドキドキしてしまうのだった。

 

******


 夜空に浮かぶ満月が、優しい光を照らし出す夜。


「私、どうしちゃったのかしら」


 ベッドに体を倒しているエレインは、小さくため息を吐いた。

 

 ルビーのネックレスを貰ったあの日から、どうにも体がおかしい。

 今まで体験したことのない、未知の状態になっている。

 

 講師の仕事。フィオの令嬢教育。食事の時間――どこでなにをしていても、常にリファルトのことばかりを考えてしまうのだ。

 

 こういう状態を世間一般的に何と言うのか、エレインは知っている。

 けれど本当にそうなのか、いまいち確証が持てないでいた。なにぶん、初めてなのだ。

 

「……おやすみ」


 考えたところで分かりそうもないので、エレインは寝てしまうことを決める。

 頭まで布団をかぶり、昂っている気持ちを抑えつけるようにしてギュッと瞳を瞑った。

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