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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
三章 不滅を誓うあの日の僕ら
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✧ 第38.5話:語り手のいない記憶 (和泉翔太)








「へぇ~、これが(つい)になっていた石かぁ」



 紅茶の香りがふわりと香る学園長室。俺は、花柳(はなやぎ)さんと春風(はるかぜ)さんが回収してくれた魔道遺物の報告の為、先輩と一緒にここへ訪れていた。


『……私たち、知っています。相棒契約をされた方々の記憶を、さっき見ましたから』


 聖君(せいくん)(さま)に関わりのある魔道遺物なら何かあるだろうなとは思っていたけど、まさかこれに他人の記憶を見せる力まであったとは。そんな話を聞いた後じゃ、流石の俺も動揺が隠せなかった。

 芝崎(しばさき)学園長は、魔道遺物に仕舞われていた石と先輩の家に遺る石を、交互に視線を送りながらまじまじと見つめている。そして暫くした後に、先輩が言葉を投げた。



「恐らくこの魔道遺物は、相棒契約を交わした物でなければ解けないものでした。だから、私や和泉(いずみ)……学園長や他の方々にも動かせなかったのでしょう」



 そう、この魔道遺物回収を申し出ていたのは、他の誰でもない学園長の依頼。だからこうして、直接報告にまで来ている訳で。

 先輩のその言葉に対し、学園長は「へぇ……」と、含みのある笑みを浮かべる。こんな事を言ったら怒られるかもしれないけど、全てを見透かされているかのような視線は、ちょっと背中がゾワッとして苦手だ。



「過去のおふたりの絆の証……世界に忘れられた相棒の記憶を再びこの地に呼び起こしたのは、いったいどんな子たちなんだろう……ねぇ、八雲(やくも)君?」



 多分、これを動かしたのは一体誰だ教えてくれ、という意味の言葉だ。しかし、2人の関係は口外しないと約束をしている。たとえ相手が学園長だろうと、許可も無く勝手に話をする事は出来ない。俺たちの信用にも関わるし、あの子たちにに軽蔑(けいべつ)もされたくないからだ。

 先輩もそれを分かっている上で、少しため息をつきながら返事をした。



「起動させた人物についての特定はお止め下さい。個人情報ですから」

「えぇ~冷たいなぁ。私もおふたりの子孫だからね、本人に直接お礼が言いたい気分なのさ。和泉君もそう思わない?」

「へ!? あは、まぁ……お気持ちは分かるのですが、僕にはどうにも~……」

「彼に同意を求めないで下さい」

「あっはっは! そんなに睨まないでくれよ八雲君。いや、勤務時間外にこの呼び方は失礼かな?」



 大きく口を開けて笑うと、目元にシワを寄せながら先輩の方を見る。



「いや~懐かしいなぁ。昔の〝ちえり〟は、私に向かって『(じん)叔父(おじ)さん!』って駆け寄りながら、妹の内緒話を教えてくれていたのに」

「……母さんには申し訳ないと思ってるから、後輩の前で黒歴史を掘り起こさないでくれないか。学園長」

「そこは叔父(おじ)さんって呼べばいいのに、相変わらず硬いなぁちえりは。なぁ和泉君?」

「あぁ~~いえ〜まぁまぁまぁ~……」

「和泉で遊ばないで下さい」



 俺はこの部屋で報告をする度に板挟みになる訳だけど、生徒の頃から校内トップの権力に君臨する学園長と、就職してからバディとしてお世話になっている先輩……その2人が叔父(おじ)(めい)の関係性だと言う事は、知る人ぞ知る事実だ。

 だからこの場に立っている時は、気まずい瞬間が時々訪れる。例えば、たった今の状況のように。まぁ、気まずいと思っているのは俺だけなのかもしれないけど。


 ひとしきり笑った学園長は、1口紅茶をずずっと啜る。ホッと美味しそうに息を着くと、真面目な表情へ戻って行った。そして「それにしてもさ」と言葉を零すと、また視線を魔道遺物の方へと戻した。



「大正時代の記憶……と言っていたね。それを見たのが誰かは知らないし、これは私の率直な感想なんだけど……何だか、あの時代の記憶を〝見せたがっている誰か〟がいる気がしてならないんだよね」

「誰か、ですか?」



 彼の言葉にそう返事をすると、静かに顔を頷かせる。



「話によると、聖君様は呪文を唱えていなかったんだろう? 使った魔法はこの石に文字を刻むことだけ。それなのに、二大魔法らしき力で彼らの記憶を垣間見た……これって、少し不自然じゃないかな」


「あぁ、なるほど……確かにそうですね。彼はこの魔道遺物に魔法をかけた訳ではなくて、思い出の品である石を箱に入れただけ。魔法の起動条件も揃っていない……」



 春風さんは抽象的で大雑把な説明だけど、周りの環境や状況は理解しやすい。一方で足りない部分を花柳さんが補ってくれていたから、俺たちは彼女たちが見た景色をこと細かく理解出来てたはずだ。

 それに、もし魔法をかけていたなら花柳さんが説明しないと思えない。それならば、やはりこの現象は不自然と言える。



「魔法を使っていないのに魔法が発動する……まるで誰かが意図的に、その相棒さんたちへ記憶を見せるよう誘導したみたいだ……とね。まぁこれは個人的な言葉だから、小耳に挟んだ程度に思ってくれるかな?」

「は、はい! もちろんです学園長!」



 すると、先輩が突然立ち上がり、学園長に頭を下げながら「では、私たちはこれで」と一言を告げる。後ろから「妹の恥ずかしい話あれば、また教えてよ~」と笑いながら話す声に、俺は先輩の背中を追いかけながらお辞儀をした。







 学園長室を出た俺たちは、そのまま学園の外まで歩いていた。とは言っても、休日にこんな場所を歩いている生徒には早々出会えない。少し歩いて木の多い道の中に入ると、先輩はハァとため息をつく。



「全くあの人は……すまなかったな和泉」

「いえいえ、俺は全然平気ですよ」



 全然平気ではない、という言葉は胸に閉まっておこう。



「全く嫌いではないし尊敬もしているんだがな……あぁ言った部分は正直苦手だ」

「あはは、まぁ気持ちはわかりますよ、俺も姉貴に同じ事思うし。それに、先輩は猪突猛進タイプですからね」

「それもそうだな」



 俺が魔道遺物を抱えながらそう答えると、先輩はスマホを取り出して魔法省へと通話をかけた。今日は一度捜査部に帰って、これを引き渡さなければならない。

 先輩は「あ、もしもし」と呟くとスマホをスピーカーにして、俺にも声が聞こえるようにしてくれた。



『2人ともお疲れ様。さっき連絡貰った内容、しっかり確認しておいたわ。赤城(あかぎ)部長にも報告済みよ』

矢渡(やわたり)さん! お疲れ様です、ありがとうございます!」



 矢渡(やわたり)万緒(まお)さん。彼女は先輩と同い年で、捜査部の事務や内側の処理・遠方からの捜査補助なんかを担当してくれている。うちの部署に無くてはならない存在だ。



「万緒。そういう事だから、私たちは一度戻って魔道遺物を引渡しに行く」

『分かった。ちえりたちに報告したい事もあるし、私もちょっと準備しておくわね』

「……何かあったのか」



 先輩が真剣な面持ちで呟くと、矢渡さんはカラッとした笑い混じりで言葉を放った。



『今なにかあった訳じゃないわ。前から言っていたでしょう、呪使いが増えてたって話。その調査に進展があったから、2人にも伝えておきたかったの。新しい痕跡が見つかったって』


「痕跡って、何処にですか!?」


『廃線路の近くよ。今までになかった〝呪いの術型〟が見つかったの』


「分かったすぐ戻る。よし、行くぞ和泉!」


「えぇっ、待ってくださいよ先輩! 矢渡さん、先輩が通話切る前に走り出したので、そちらから切っておいてくださぁ~い!!」


『ふふっ了解。宜しく頼むわね』



 俺はとんでもない速度で足を動かす先輩に、魔道遺物を傷つけないよう慎重になりながら追いかけた。






 

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