表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
一章 巡りゆく月日の欠片
9/185

✤ 第3話(後編):光を告げる石



 



「春風さん、光の……」

「あ~……はい。どうやらそうらしいです」



 浅くなる呼吸に軽くグラつく視界。それを全部誤魔化して、(春風菜乃花)は聖女様を演じている。前の学校で〝なーちゃん〟の仮面を被っていた頃と同じように。


 

「まあっ、聖女様が生まれるのは何十年ぶりかしら!」



 歓声がどっと押し寄せる。けれど、それが私の耳には水の中みたいにこもった音で聞こえにくい。私だけ違う世界を見てる気がして、祝福されるほどに心の中は冷たくなっていった。

 

 私が欲しかったのは特別じゃなくて、みんなと同じ普通の自分。だから、みんなと一緒になれない一番の原因なコレ(光魔法)は、私にとって不名誉だ。それなのに、顔に笑顔が貼り付いているのが感覚で分かった。



「青もほんの少しあるけど、圧倒的に赤の方が多いわ。火組(ひのくみ)ハート()クラスが良いでしょう」

「わかりましたっ!」



 元気よくお礼を言い、先生から赤い制服と魔法の杖を手渡される。ブレザーは白いけど、影は少しだけレモンアイス色。昔見た光の魔力や、さっきの狸と色が似ている。指揮者が持つ棒みたいな形をした杖は全体的に黒っぽくて、先端は丸とダイヤの形になっていた。

 

 元々の旅行的な荷物は持ってる感覚がゼロなので、私の体には制服たちよりトラベルバッグの方がはるかに軽い。という謎現象が起こっている。感じたことの無い違和感を腕の中に抱えながら、私はクラスの場所へ向かおうと足を動かした。



光魔法師(ひかりまほうし)。てことは、新しい聖女様?」



 歩いているうちに集まっていたのは、既に白い制服を受け取っていた人たち。彼らは私の周りを囲みながら思い思いに言葉を放った。熱を帯びて、ギラギラとした表情で。

 


「聖女様と同い年なのヤバくね!?」

「そもそも光魔法を使える人と同じ世代に学園生なのもやばいって、きゃー!」

「本当それな! 目の前にマジで実在するとかさ!」

「あたし、まだ心の準暇が……」



 名前も知らない同級生が、口を揃えて私を持ち上げるような言葉を投げる。けれどその半分ぐらいは、さっき花柳(はなやぎ)さんに何かを言っていた人だ。それを知ってる私の不快感は、押し殺すのも苦しいくらいに溢れかけている。



「いやぁ、そうみたいなんだよね。ビックリ~!」



 でも、その気持ちをみんなに言う度胸なんて私には無い。だから周りに合わせた言葉を選んで適当に返事をし、大人しくクラスの場所へ向かう。この会話の雰囲気も、押し潰されそうになる空気も、全部早く断ち切りたくて。



「待って。うちらハート()クラスじゃないから隣のスペース行かないと」

「くそーっ、同じクラスだったらなぁ」

「じゃあね聖女様、また後で!」

「あっうん。またねぇ……」

 


 良かった、切り抜けられた。

 ほっと息をついてから、私はさっき言われていたハート()クラスへ向かう。周りのクラスより既に多く集まっているみたいで、前の方ではプラカードを持った男の先生とクラスメイトになった子たちが喋っていた。


 横切る間も刺さる視線が痛くて、話しかけられませんようにと願いながら早歩きをした。一番後ろに並んでいるのは男の子2人。普通の声量で喋っているので、彼らの会話はかってに耳へと飛んでくる。



「俺って父さんはハートクラスだけど、母さんはスペードクラスだろ? ワンチャン水魔法師になる説もあったけど、(ひかる)とは同じクラスになれてめっちゃ嬉しいぞ!」

「あははっ俺も俺も。9年も同じクラスなんだし、どうせなら一緒だと嬉しいもんね」

「だよな! そういえば、普通の人間は毎年クラス替えしてたっけ……あのワクワクがずっとあるとか、マジで羨ましいよな〜!」



 よく見てみると、そこに並んでいる頭の色には見覚えがある。確かさっき、花柳さんの近くに居た4人のうちの2人だ。多分、花柳さんと同じ髪色の子がさっき言われてた双子で、髪のてっぺんにぴょこ毛が伸びてる子は、双子のお友達だろう。


 私はしばらく、スマホで見る動画感覚で会話を聞いていた。小学校での思い出話から、今日への楽しみ、朝起こった災難から食べてきた朝ごはん……その流れで話題はトラベルバッグへと移り、ぴょこ毛の男の子は「そうだ、これに制服たち入れたら腕が空くかも!」と言いながらバッグのチャックを開けようとしていた。


 しかし、そのバッグは私から見ても詰まりまくってるとよく分かる。軽くふくれ上がったそれは、少し開くだけで中身が飛び出しそうだった。

 


「あっ陽太(ようた)、それ危ない」

「へ?」



 その瞬間、突然 にカンっと音が響く。その音の方へ視線を送ると、私の足元には赤く煌めく宝石。そのブローチは体育館の上で気持ちよさそうに寝そべっていた。

 とりあえずブローチを拾ってみる。金に縁取られた宝石は、どの角度から見てもやっぱり綺麗だ。

 

 

「もしかして俺、ブローチ落としちゃったか!?」

「あらら、もう中身ギュウギュウなのに無理やり詰めようとするからぁ」

「だって持ってるの邪魔だし、トラベルバッグに入るかと思ったんだよ〜!」

「邪魔なのはそう。ブローチは俺が拾うから、陽太はバッグ閉め直すのを頑張って〜……ってあれ?」



 そう言いながら、双子の男の子は突然後ろを振り返った。髪色はあの子とそっくりだけど、目の色は鮮やかで眩しい黄色。目元の形も似てるけど、彼の方が少し目尻が垂れている様に見える。

 私が目を合わせたままで固まっていると、彼はニコッと微笑みながら口を開いた。



「同じクラスになったんだね。初めまして、花柳輝(はなやぎひかる)です。陽太のブローチ拾ってくれたんだ」

「あ、うん……はいどーぞ!」

「ありがとう。そうだ、咲来(さくら)と俺は同じ名字だし、良かったら輝って呼んでね」



 彼がそう言うと、隣に居た男の子もギュンッと後ろを振り返る。どうやらトラベルバッグは無事に閉まったらしく、バッグが更に膨れた代わりに腕の中はスッカラカンだ。



「わざわざごめんな、拾ってくれてありがとう!」

「ううん、全然大丈夫!」



 双子の子、もとい輝から落としたブローチを受け取ると、彼はニコッと歯を見せるように笑いかけてくれた。その自然な笑顔からはキラキラが飛んできてるような気がする。大人気アニメ・魔法少女ピュリランに浄化される敵怪盗ってこんな感覚なのかな。


 

「俺は 蓮村陽太(はすむらようた)。俺のことも名前で大丈夫だぞ、そっちの方が呼びやすいから。それで、えーっと……そっちの名前はなんて言うんだ?」

「ごめん、まだ言ってなかったよね。私の名前は春風(はるかぜ)菜乃花(なのか)、2人ともよろしくね!」

「おおっ! なのかって読む名前の人と初めて会ったぞ!」

「俺も初めて会った。よろしくね菜乃花」



 不思議と緩いテンションで会話を続けられ、身構えていた体の力もフッと抜けてしまった。てっきり、さっきの人たちみたく重い会話が続くと思っていたのに。

 花柳輝と、蓮村陽太。しっかり彼らの名前を覚えて、脳内のメモ帳に書き込んだ。すると完璧に油断してたのもつかの間、私の頭を突き刺すような言葉が耳から入る。衝撃的な言葉を私に投げつけてきたのは、輝の方だった。



「菜乃花って、さっき咲来(さくら)にスマホ拾われてた人だよね? 咲来が知らない人に話しかけるなんて珍しいからさ」

「えっ、あ……そう言えばあのとき、花柳さんも誰かに呼ばれてたっけ……」



 確かに、花柳さんを駅で呼んだ人が同じ髪色をした家族っぽい、とは思っていた。でも、だからってその相手が〝これから9年一緒に過ごすクラスメイト〟なんて聞いてないよ! どうしよう、今すぐ彼の記憶を消したい。

 段々頬が熱くなる感覚にそっぽを向き、平常心を保ちながら会話を続けることにした。


 

「スマホを無くすなんて、菜乃花って朝から災難だな~」

「そうなんだよ。急に何かが飛び込んで来たと思ったら、目の前で狸がスマホ加えて走ってったの」

「魔法駅って狸出るのか!? 俺は猫か小鳥か鳩ぐらいしか見たことないのに!」



  しか、と言う割に結構色々出てるんだね!?

 と言う言葉をグッと飲み込み、私は先程から気になっていたことを思い切って聞くことにした。というか、この話題からさっさと離れたかったのだ。



「さっき一緒にいた女の子3人って、輝と陽太のお友達? まだ入学する前なのに、もうみんな仲良いんだね」



 そう質問してみると、私の言葉に2人は数秒顔を見合せた。眉を少し下げて笑う陽太の表情には、少し寂しげな雰囲気が漂っている。



「俺たち東京以外の関東にある魔法世界に住んでてさ。決まり的に同じ小学校に通ってたんだ。俺と咲来は双子だけど、幼なじみ〜みたいな」

「そうそう。でも3人はクラブ()クラスだから、丁度男女でバラバラになっちゃったんだ」

「幼なじみ……」



 私には今まで、幼なじみと言える存在が居ない。それどころか、友達すら居ないようなものだった。そのせいなのか、幼なじみというワードがひどく眩しく感じてしまう。

 こんなごちゃついた感情を、初対面のクラスメイトに晒したくない。そんな隠したい気持ちが先行してたのか、仮面が勝手についているお陰か、私は一言呟いたあと何も言えなくなった。

 

 2人にとっての〝聖女様〟はこんなとき、どんなことを言えば正解なのか……それがよく分からない。折角こんなにお話をできているのに、間違えて嫌われたらどうしよう。

 そんなことを考えていた数秒間。その沈黙を先に破ったのは輝だった。



「あのさ。良かったら、俺の妹とも仲良くしてね」

「っ、もちろん! 絶対あの子に話しかけるよ!」



 あんなに声を出せなかったのに、どうしてかこの言葉だけは直ぐに口をついて出た。私がそう即答をすると、彼は一瞬目を丸くをしたあと、直ぐに口元へ笑みを浮かべる。けれど次に発した言葉は、これまた衝撃的だった。



「よかった。菜乃花が咲来に『スマホ見つけた天使様』って言ったらしいから、天使様には話しかけられない! とか言われたらどうしようかと」

「エッ、なんでソレ知ってるの!?」

「天使様? 菜乃花って面白いこと言うんだなぁ」

「俺には天使様より、角の生えた鬼様に見えるけどね」

「いやいや。それは輝が、いつも咲来に怒られることばっかしてるからだろ?」



 更に頬が熱くなるのを感じながら、私は2人の会話を軽く眺めた。そのやり取りから伝わる暖かい友達の空気は、近くにいるだけで穏やかな気持ちになれる。何より一番嬉しかったのは、2人が私をずっと名前で呼んでくれてることだ。

 

 私を〝聖女様〟だって知ってるのに、彼らはそう呼ばない。そんな魔法使いがいるって知れたことが、今の私にはとても嬉しかった。

 こんな風に、花柳さんともお話できたら――



『申し訳ないけれど、学園で私に話しかけるのは……辞めてください』

『えっ、どうして?』

『……私と関わったら……貴女が、不幸になると思うから』



 人生で初めて話した、同い年の魔法使い。

 年上みたいに大人っぽくて、すごく優しい女の子。

 やっぱり、このまま無視なんて出来ないよ。あのときの表情も、そう言ってた理由も、ハイそうですかって分かったフリして放置したくない。それにあの子は、この世でたった1人の……私と同じ〝普通になれない魔法使い〟なんだ。


 そうだ。お互いに二大魔法を使って、修行をすればいいんだよ! 早く魔力のコントールもできるようになりたいし、あの子と一緒なら上手くいく気がする。

 いつもの私なら「もう話しかけるのは辞めよう」って思ってた。でも今はまた話したい。これからずっと話せないなんて絶対に嫌だ。



「適性検査、お疲れ様でした。それでは先頭から教師について行き、それぞれの寮へ向かって下さい」



 いつの間にか、全員の適性検査は終わっていたらしい。輝や陽太と喋っていたお陰か、自分の後ろに人が増えていたことにすら気づかなかった。


 副学園長の声が体育館に響くと、先頭から順に列が動いてく。段々と動く人の流れに従って、私も少しずつ足を進めて行った。

 前にいるこの2人のお陰か、さっきまで溢れかけていた不快感はとても落ち着いている。周りに潰されそうな感覚も、少し軽くなったよう。おかげで道行く景色に目を向けて、純粋に寮までの道のりを楽しめそうな気がした。





 




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ