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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
三章 不滅を誓うあの日の僕ら
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✤ 第34話(前編):怖く楽しい夜の学校




 





「絶対やだ」

「なんでっ!?」



 押し問答を始めること、早くも5分。私はこの頑固な相棒・花柳(はなやぎ)咲来(さくら)を、どうやって夜の小学棟に連れ出すか必死に考えていた。

 時間は、今日私が体育の授業をしている時まで遡る。



「ねぇ、知ってる菜乃花(なのか)?」



 少し冷えた空気が私たちの体を撫でた時、千鶴(ちづる)は楽しげな様子で話しかけて来た。



「知ってるって、何を〜?」

「フッフッフ……それはね 、今3年生(小6)の間で流行ってる魔法学園の怖ぁい噂だよ」

「どっから仕入れて来たのそれっ!?」



 準備体操の最中、突然そんなことを言い出した。

 私は、怖い噂なんて本当に存在するのかな~……とか考えちゃったけど、その言葉には少し好奇心が掻き立てられてる。



「私の情報網はとっても厚いんだよ! あのね……」

 


 と、言う訳だ。



「ねー、だから行こうってば!」

「やだ。何で夜の校舎にわざわざ行かないとなの」

「だって気になるじゃん! 最近急に校舎を巡り始めた、ゆらゆら揺れてる謎の灯火! しかも白寮ではその色合いから『光魔法の幽霊』って言われてるんだよ!?」



 そう、灯火の色は光魔法の固有色そのものだ。その灯火が最近、小学棟をぐるぐると巡回しているらしい。こんな噂が3年生(小6)からスペード()クラスへ広まっていて、それを千鶴は聞きつけたんだとか。こんなワクワク話、乗らない手は無い!

 そう思ったけど、花柳の拒否が強すぎる。まぁ、断る理由はなんとなくハロウィンの件で察してるけど……でも、ここで引き下がるわけにはいかない。こういう時どうしたらいいか、私はちゃんと分かってるんだから!



「それに、光魔法の幽霊は私たち魔法使いに『魔法の知恵を与える精霊』かもしれない……とも、言われてるらしいよ?」



 これは一応嘘じゃない、本当に千鶴が言っていたから。つまりこの灯火は、幽霊説もあれば精霊説もある。私的にはどっちでも良いけど、喋る光の魔力は精霊みたいなものじゃないか~って話もした事あるし、きっと花柳は――



「……魔法の知恵?」



 やっぱり、絶対食いつくと思ったんだから!



「うん。最近新しい情報は見つからないし、学園長と話す方法も分からないしって言ってたでしょ? それが本当に精霊だったら、探検する価値があると思わない?」


「確かに、もし私たちが知らないような知恵を持っているなら、その情報を手に入れられるのは私たちにとって良い事だけど」


 

 私は右手で魔法の杖を掴んでから、左手で彼女の手を掴む。ハッとした表情で目を丸くしながら私を見つめる彼女を、私はにまーっと口を緩ませながら眺めた。



「よーし! じゃあ、はい〝闇の目眩し〟」

「待って、まだ行くとは言ってな」

「ゴーゴー・レッツゴー・レッツゴーHANAYAGI(花柳)!」

「そんな体育祭みたいなコールされても! ……はぁ、分かったよ。一緒に行こう」

「わぁ~い♪」



 灯火を探して、いざ夜の小学棟へ!!




 *




「よし、帰ろう」

「早いよ!?」


 

 校舎に入って5秒で帰宅宣言された。

 

 

「……魔法の知恵を教えてもらう為、魔法の知恵を教えてもらう為」

「それ、灯火より花柳の方がホラーなんじゃ?」


 

 夜の小学棟に足を踏み入れるのは2回目だけど、前は先生に話を聞きたくて文化祭の後に1人で来たから、誰かと来るのは初めてだ。暗くなると、いつも居る場所もどこか違った様に見える。薄暗い廊下や夜の教室は、やっぱり新鮮で面白い。



「ところで花柳、コレってどこから行ったらいいと思う?」

「え、連れて来ておいて決めてなかったの」

「あ〜……君を連れてくるのに、めっちゃ必死だったんだよ」



 眉をひそめる花柳に、私は慌てて言い訳をした。彼女は少し黙ってから、はぁ~とため息をついて廊下の方を見る。



「……まぁ、1階から適当に歩けば良いんじゃない?」

「それもそっか~!」



 彼女の言葉に同意して、私たちは校舎を巡り始めた。

 

 自分たちの学年だけではなく、他の学年の教室まで歩くのは少し違和感がある。私には学園に兄弟も居ないから、小学生の先輩の教室には行った事が無い。中に見える机や椅子は私たちの物より少し大きいし、壁に貼ってある習字の漢字はまだ習っていない物だ。

 でも……それよりもっと強く感じる違和感は、花柳と普通に、隣で校舎を歩いている事かもしれない。



「ねぇ。2人で普通に歩いてるの、なんか不思議じゃない?」

「……そうだね」

 


 相棒として居る時の君は、私のことを避けた事なんて一度も無い。その事実だけで今は充分だ。いつか、何かが変われば良いな……なんて思うけど、それは今じゃなくても良い。この時間が無くならなければ、それだけで。



 上の階へどんどん進んで行くけど、例の灯火は全然見当たらない。やっぱこういう話は、所詮タダの噂に過ぎないのかもしれない。

 自分たちの教室を廊下から眺めても、特に何にもない。あの席は花柳で、そこが片桐さんで前に稲山さんが居る……みたいな、普段聞かない話を彼女から聞いて楽しんでいるだけだ。

 廊下を気ままに歩いても灯火が姿を見せることは無くて、私たちの周りに広がるのは月から降り注ぐ柔らかな光だけだった。


 校舎を巡っている内に、いつの間に4階まで来てしまった。この階には普段あまり来ることのない教室が沢山ある。ふと音楽室を覗いてみると、ずらりと並ぶ楽器たち。それが何だか恐ろしく見えた。



「音楽室って広いし、でちょっと不気味だねぇ……」

「いや、廊下もどこも全部不気味じゃん」

「アハハっ確かにそっか!」



 小学棟でも数少ない遮光カーテンのある窓は、月の光すら通さない。それがまた、この空間の不気味さを完璧に演出している。

 それで、なんとなくドアノブに手をかけて見た。するとその瞬間、カチッと音が耳に響いた。何となくドアを押し開けると、ギィっと少しぎこちない音が響く。



「え、何やった?」

「……音楽室の鍵、かかってなかった」

「ちょ、早く閉めてよ! て言うか、力強いからって扉まで壊さないでよね!」

「壊してないって! ちゃんと閉めるからぁ〜!」



 学園でも数少ない大きなピアノが、音楽室の一角にずんっと佇んでしている。普段なら先生だけが触れるもので、私が触る事はまずない。

 正直、あの中に入ってピアノをいじってみたい……けど、流石にそこまで大きな音を立てたらまずいよね。立ち入り禁止の時間にはなってないけど、多分私たち以外に誰も居ないんだし。



「そういえば、花柳って楽器とかやった事ある? お姉ちゃんがピアノやってたんだけど、私には難しくてさ~」

「……ピアノは、やってたけど」

「えっ、出来るの!? めっちゃスゴいじゃん!!」



 まさかまさかの、花柳がピアノを弾けるなんて!

 でも、確かに彼女はピアノが似合う。合唱コンクール的なので伴奏担当とかしててもイメージ通りというか……うん、全然違和感ないや。

 そもそもこの人、魔法使いの中では1番長く続いてる家門のお嬢様だからなぁ。アニメとかドラマでも、お嬢様って言われたらバイオリンとかピアノとかハープとか、そういう楽器系の習い事してる事が多いもんね。



「じゃあ学園でもたまに弾いてるんだ?」

「ここで弾いた事は無いよ。もう、弾くのは辞めたから」

「そうなの? 何で?」

「……小学生になって飽きたの」



 静かにピアノを見つめていたその視線は、静かに地面へ移ってく。窓に優しく触れていた手は、ぎゅっと強く握りしめられていた。少し冷えた空気を誤魔化す様に、私は無理やり声を上げた。



「ねぇ花柳、試しにちょ~っと弾いてみてよ」

「無理」

「えぇ~!」



 無理って言われるのは分かってるけど、それでも……。



「1回くらいは聴いてみたかったなぁ、花柳の演奏」

「別に上手くなかったけど」

「そういう事じゃないの!」



 私は彼女にずいっと顔をやって、真っ直ぐ目を見ながら語る。



「私、音楽って好きなんだよね。ピアノの音色も好き。色んな場所に行ったり、知らない気持ちを知れたり……そんな感じがするんだよね。伝わるかな?」

「……伝わる」

「良かった~!」



 お姉ちゃんの弾くピアノが好きで、昔は聴かせてってねだってた。今はそんな事出来ないけど、思い出は胸の中にずっと残ってる。筋トレと運動ぐらいしか大した趣味は無いと思ってたけど、これは趣味にカウントされるのかもしれない。

 頭の中で彼女がピアノを弾く姿を思い浮かべて、私は口元が緩んだ。



「花柳と居る時とピアノの音を聴く時って、同じような気持ちになるんだ。どこにでも行ける無敵感とか、世界が虹色になる感じとか……だから、君が弾けるって聞いたら嬉しくて。無理言っちゃってごめんね!」



 笑ってそう謝罪をすると、彼女は私の顔をじっと見つめてきた。月明かりでほんのり見えるその瞳は、いつ見ても綺麗な夕焼けの色。風が頬をすり抜けたのを感じると、彼女は閉じていた口をゆっくりと開いた。



「私のピアノ、そんなに聴きたいの?」

「え? そりゃモチロン」

「…………じゃあ、また……やってみよう、かな」



 そう言われた瞬間、眩しいような嬉しさが胸の中一杯に満ちた。思わず花柳の両手をパシッと掴んで、その手を顔の前に持って来る。少し見上げる彼女の表情は、私の勢いにうろたえていた。



「本当に!?」

「な、何年もまともに弾いてないから、聴かせるのはいつかね。下手なピアノ聴かせたくないし……」

「待つよ待つ待つ、一生待つ! 50歳くらいの時でも良いよ!」



 なんてこった、楽しみなことが1つ増えてしまった。心底嬉しくてたまらない。



「んふふ、楽しみだな~♪」

「あんまり期待はしないでおいて」








 

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