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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
二章 虹光を探す春咲き花
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✤ 第33話(後編):隣で一緒に走れたら








 聖女様や聖君様は、どんな人だったんだろう?

 

 魔法の授業を何回か受けて、花柳と色んな本を読んで。その疑問は、前よりも膨れ上がった気がする。

 この肩書きは、過去の偉人たちが作り上げたみんなの理想の姿。それに比べて、私はその人たちみたいに素晴らしい事を成し遂げようとは思わない。


 じゃあ、昔を生きたその人たちは、生きていた時に何を思っていたのかな。彼らはどんな気持ちで……どんな夢を、持っていたのかな。

 とても本当に幸せだった? それとも、重い責任に押しつぶされそうだったの? ……なんて、今を生きている私には一生分からない事だけど。



「え、セーター着てないの?」



 私がガラッと扉を開くと、花柳(はなやぎ)の声は冷たい教室の空気に響いてく。有り得ないとでも言いたげな表情に、私は思わずムッとしながら口を開いた。



「だって外でブレザー着用必須になったじゃん、セーターなんて暑っついもん」



 私は捻くれた言葉を返しながら、そのまま教室の扉を閉める。右手に杖を持ち「〝闇の施錠(せじょう)〟」と呪文を唱えると、扉はほわほわと紫の光を放った。



「何か、全体的に白いし寒そうなんだけど……あぁ、火魔法師(ひのまほうし)だから大丈夫なのか。夏も冬も最強の地上生物」

「言葉選びがなんか凄い!」



 はぁ、とため息を着く花柳の息は少し白く色付いて、そのままゆっくり空へと登った。

 

 私たちがこっそり入る特別教室棟……普段使われていないこの第1棟は、いつも静かだ。今は冬の訪れを感じさせるような寒い空気が漂っている。そういえば、夏は暑くて花柳に風魔法で扇風機して貰ってたっけ。扇風機扱いするなってその時は怒られたけど。

 でも、私は火魔法師だ。火魔法師は暑さと寒さに強い人が多いと言われているみたいで、それは私も例外じゃないらしい。

 限度はあるものの、少なくとも花柳よりは暑がり寒がりな体質じゃなかったようだ。



「あ、そうだ!」



 その瞬間、私の頭の中にぴこーんと閃きが舞い込んだ。

 以前、花柳に教わった呪文を思い出しながら、記憶の奥深くからその言葉を引き出す。



「〝火の温もりを〟」



 その言葉を口にすると、杖の先が赤く輝き始めた。やがてそれは赤い火の粉を作り出して、焚き火でパチパチと音を鳴らして、赤い煌めきは空を舞う。冷たい空気を食べるように、ほわほわとした温かい空気が体を包み込んでくれた。

 ……でも、考えてたよりも火の粉が出てこない。もう少し量が出るかと思ってたんだけど。



「ちょっと少なくなっちゃったけど……まぁ、これなら少しは暖かい空間になるでしょ! 夏に扇風機扱いしたお詫びに、冬は私が君専用の暖房になってあげよう!」



 私が得意げにそう言い放つと、彼女は私の方をじっと見てから「じゃあこれでおあいこね。扇風機の事は許してあげる。」 と言ってくれた。

 全く、私の相棒さんは本当にどこまでも素直じゃない。でも、こういう所が好きで面白いから、ついからかいたくなっみゃうんだ。


 座れる程度の窓枠に、私はゆっくりと腰を下ろす。外は曇り空。どんよりとした雲が広がり、まるで今にも雨が降り出しそうな暗さが漂っていた。太陽の光も、今日は私たちに届かない。



「あのさ。君は、昔の聖女様や聖君様って……どんな人だったと思う?」



 思わず口に出してしまった私の問いかけ。その言葉に反応するように、彼女の顔は一瞬驚く様に目を見開いた。



「……急にどうしたの?」


「いやね、魔法の授業で聖女様や聖君様の話が出て来るからさ。国語の授業って、よく『作者の気持ち・登場人物の気持ち』を考えさせるじゃない? じゃあ、この人たちはどうなんだろう……って思って」


「なるほどね」



 彼女は私の突然の投げかけに対して、真面目な表情で考え始めた。花柳は、いつも私の質問へ真面目に向き合ってくれる。分からないことがあれば一緒に調べようとするし、知っていることはすぐに言葉にしてくれるんだ。

 考えるように口元に当てていた手を離し、彼女はやがて声を放つ。



「私が知っているその立場の人は春風(はるかぜ)しかいないけど……でも、過去の人たち全員が喜んでその道に進んだかと言われると……そうじゃない、とは思う……」


「どういうこと?」


「あくまで私の考えだけど、昔に生きたその人たちも、全員最初からその道を選んでたわけじゃないと思う。人間らしい悩みや迷いも、人一倍抱えてたんじゃないかな……って。私が同じなら、そうなってるから」



 すると、彼女は少し目を伏せた。



「何か大きな試練に直面して、そこから自分の道を見つけていった人とか、最初からどうしようも無くて、それ以外の道がなかった人とか……生まれた時からその道しか知らなくて、それしか幸せを知らない人も居るかも。もちろん、喜んだ人も」


「喜んだ人?」


「うん。だってこの肩書きは、魔法使いにとって〝名誉のある光栄な肩書き〟だから」



 花柳の言葉は、いつも心に深く響く。彼女の視点から見ると、聖女様や聖君様はただの神様じゃない。実際に生きた魔法使いとして、どういう感情だったのか……何を抱えていたのかを考えている。

 その立場だから、と言う肩書きだけの判断じゃなくて、その周りや環境の全てから色々考えている。そんな考え方、私には出来ない。

 

 花柳はいつも色々考えている。私の何倍も、ずっとずっと。だから、その思考を感じられると、自然と嬉しくなってしまう。その考えをもっと聞いて、ちゃんと理解したいと思うくらいに。



「じゃあ、私はその肩書きをゴミ箱に投げて、無限の夢を持ってる人って事で!」


「春風、そんなに夢持ってたの?」


「そりゃあるよ! お腹いっぱいご飯を食べるとか、いつか魔法で無限に美味しいご飯を作るとか、八雲先生みたいな綺麗な大人になるとか、後は……」



 そこで言葉が詰まる。すると、花柳は私の顔を見て、不思議そうな表情のままパチパチと瞬きを繰り返した。 私は彼女に視線を向けて、その瞳を真っ直ぐと見つめた。



「後は、何?」

「……んふふ、君には教えてあーげないっ」

「はぁ? 何それ……まぁ、もういいよ。そろそろ魔法の練習しよう」

「はぁーい、花柳せんせ~」

「返事がやる気ない。やり直し」

「失礼な、やる気満々だよ!」



 花柳が何を隠しているのか……君の苦しい表情の理由を、いつか知りたい。


 君はいつも私の先を走っている。私よりも遥か遠くのずっと先。追いかけても追いつけないような、そんな場所で1人何処かへ走っている。誰も知らない行き先に、誰にも知られないように。

 私は君に追いついて、君が走ってる理由を知って「じゃあそこに行こうか」って言いながら、隣で一緒に走りたいの。君が倒れそうになった時、いつでも支えてあげられるように。

 魔法が嫌いで消したかった私を、魔法が好きな普通の魔法使いにしてくれる、君と一緒にね。


 それが、私の今の夢。

 いつか君に追いつけた時は……君にも、伝えられたら良いな。








 



 

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